上 下
350 / 419
竜の国

白い髪の少女(4)

しおりを挟む
「あの、クリスティナさん。クリスティナさんも人間の姿になれたってことは……私が死んだ後、クリスティナさんはどうなるんですか?」

 リーシャが躊躇いがちに尋ねると、クリスティナは再び感極まったようにリーシャへと近づいた。

「ああ、お姉様! 私が死ぬのではないかと心配してくださっているのですね。ですが、そこは問題ありませんわ。そう簡単に立ち直れはしないとは思いますけど、お姉様の後を追うようなマネはしないとお約束しますわ!」
「そ、そうですか。それならよかった。クリスティナさんまで私の後を追っちゃうんじゃないかって、ちょっと焦りました」
「フフッ。大丈夫ですわ。お姉様は知らないのかもしれませんが、後を追って死を選ぶ者は、亡くなった相手の事を番として求めるようになった竜だけですから。たぶん、人間を番に求める事と人間の姿を手に入れる事は必ずしも同時に成り立つものではないはずです。事実私もそうですし、そもそもそうでなければ、人間の女性を慕い、人間の姿を手に入れたお兄様も、この国を出て行かれたファイドラス様も、今生きていませんわ」
「あっ、そういえばそうですね」

 以前竜王は人間の女性を慕い、人間の姿を手に入れ、そしてその女性を亡くしたと言っていた。つまり、慕ってはいたけれど番にしたいとまではまだ思っていなかったという事。
 程度はわからないけれど、恋愛感情でなくとも人間に対するある程度の高い好感を持ち、同じ姿を求める事が擬態という能力を手にする条件なのかもしれない。

「……お姉様ってば!」
「はっ!」

 リーシャは仮説の修正に集中していて、クリスティナが呼びかけていたことに気がついていなかった。
 クリスティナは頬を膨らましている。

「ご、ごめんなさい。何ですか?」
「もう、お姉様ったら。まあいいですわ。あのですね、私、お姉様にお願いがありますの」
「私にできる事なら何でもしますよ」
「その、よければもっと楽な話し方をしてくれませんこと? 私、お姉様がノアさんたちと話している時のようにお話したいんですの」
「えっ、いいんですか? 圧倒的に年下の私にそんな口調で話されて」
「かまわないから言っておりますの! 私はお姉様の妹になりたいんですの‼」

 クリスティナは幼い子供のようにムキになって声を上げた。

「なんでそこまで妹にこだわるんですか?」
「だって、ノアさんたちが羨ましくて……」
「羨ましい?」
「ほら、私たち竜ってあまりお互いに干渉したりしませんでしょ? お兄様も例に洩れずな感じの距離感で。私、体が弱いせいで体調の悪い日が多いから、お家に篭っている日が多くてとても心細かったんですの。このまま1人で死んでいくのかしらって。お兄様は私の事を気にはかけてくれているけれど、それは兄としてではなく王だから。私を気にかけるのは白い竜という種の存続のためであって、私自身を心配してくれているのではないって知ってましたから。本当はずっとお兄様に側にいて欲しかったのに……」

 唇をかみしめて俯くクリスティナ。寂しい思いをし続けたのは、様子を見ていればよくわかる。群れるのを嫌がる竜とはいえ、病弱で暗く狭い場所に長い間篭り続けていれば、価値観も変わってくるのだろう。
 クリスティナはおずおずと視線を上げる。

「そうしたらお姉様たちがやって来て。種が違うのにお姉様とノアさん方は本当の家族みたいで羨ましかったんですの。それに私の事を心配してくれて。私嬉しくて、私もその輪の中に入りたいって思ってしまいましたの。けど、私にはノアさんたちみたいに家族になる事はできない。ですから、せめて形だけでも、お姉様と呼び続けていれば、ずっと私の事気に掛けてくれるかなって思いましたの……」
「クリスティナさん……そういう事なら、わかったよ。これでいいんだよね?」

 クリスティナは顔を輝かせてコクコクと頷いた。

「はい! あと、できれば“さん”もつけずに、クリスティナと呼んでいただけたら、もっと嬉しいんですの!」
「わかったよ、クリスティナ」
「ありがとうございます、お姉様! それじゃあお姉様、久々にお会いできましたし、お出かけしませんこと?」
「病み上がりなのに、大丈夫?」
「むしろ今の方が、調子がいいくらいですわ!」

 言葉より体で。クリスティナは自身が元気なのを表現してみせた。元気いっぱいを両腕で表現する様子が何とも可愛らしい。これで500歳というのは信じがたい。
 リーシャが苦笑していると、クリスティナが問いかけた。

「そういえばお姉様。ルニルさんに狩りの仕方とか、食べ物を集める術を教えていますか?」
「まだ教えてないよ」
「では、今日はルニルさんに自分で食べ物を取る方法を教えましょう」
「えっ、もう? 早くない?」
「竜の成長は早いんですのよ? 今から始めるのでは遅いくらいですわ」
「そっか。遅いんだ……」
「さあ、そうと決まりましたらお姉様! さっそく私の背中に……って、あら、どうしましょう」
「どうしたの?」
「あの、これ、どうやったら竜の姿に戻れるんですの?」
「あー……」

 やはりというべきだろう。
 リーシャが知る限り、初めての擬態は本人の意思は関係なく、そしてその解き方は偶然がないかぎり自身での習得はなかなかできないようなのだ。
 リーシャはノアに視線を送った。

「ノア。悪いんだけど、クリスティナに擬態の解き方を教えてあげてくれる?」
「……はあ。嫌だと言っても、何が何でもさせるんだろう? はなから俺に選択肢はないじゃないか」
「ごめんね、ノア。お願いします」
「わかった」

 ノアは渋々クリスティナに擬態の解き方を伝授し始めた。
 クリスティナは気だるげに説明をするノアの言葉を真剣に聞き、擬態を解く方法を学んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...