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竜の国
白い髪の少女(4)
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「あの、クリスティナさん。クリスティナさんも人間の姿になれたってことは……私が死んだ後、クリスティナさんはどうなるんですか?」
リーシャが躊躇いがちに尋ねると、クリスティナは再び感極まったようにリーシャへと近づいた。
「ああ、お姉様! 私が死ぬのではないかと心配してくださっているのですね。ですが、そこは問題ありませんわ。そう簡単に立ち直れはしないとは思いますけど、お姉様の後を追うようなマネはしないとお約束しますわ!」
「そ、そうですか。それならよかった。クリスティナさんまで私の後を追っちゃうんじゃないかって、ちょっと焦りました」
「フフッ。大丈夫ですわ。お姉様は知らないのかもしれませんが、後を追って死を選ぶ者は、亡くなった相手の事を番として求めるようになった竜だけですから。たぶん、人間を番に求める事と人間の姿を手に入れる事は必ずしも同時に成り立つものではないはずです。事実私もそうですし、そもそもそうでなければ、人間の女性を慕い、人間の姿を手に入れたお兄様も、この国を出て行かれたファイドラス様も、今生きていませんわ」
「あっ、そういえばそうですね」
以前竜王は人間の女性を慕い、人間の姿を手に入れ、そしてその女性を亡くしたと言っていた。つまり、慕ってはいたけれど番にしたいとまではまだ思っていなかったという事。
程度はわからないけれど、恋愛感情でなくとも人間に対するある程度の高い好感を持ち、同じ姿を求める事が擬態という能力を手にする条件なのかもしれない。
「……お姉様ってば!」
「はっ!」
リーシャは仮説の修正に集中していて、クリスティナが呼びかけていたことに気がついていなかった。
クリスティナは頬を膨らましている。
「ご、ごめんなさい。何ですか?」
「もう、お姉様ったら。まあいいですわ。あのですね、私、お姉様にお願いがありますの」
「私にできる事なら何でもしますよ」
「その、よければもっと楽な話し方をしてくれませんこと? 私、お姉様がノアさんたちと話している時のようにお話したいんですの」
「えっ、いいんですか? 圧倒的に年下の私にそんな口調で話されて」
「かまわないから言っておりますの! 私はお姉様の妹になりたいんですの‼」
クリスティナは幼い子供のようにムキになって声を上げた。
「なんでそこまで妹にこだわるんですか?」
「だって、ノアさんたちが羨ましくて……」
「羨ましい?」
「ほら、私たち竜ってあまりお互いに干渉したりしませんでしょ? お兄様も例に洩れずな感じの距離感で。私、体が弱いせいで体調の悪い日が多いから、お家に篭っている日が多くてとても心細かったんですの。このまま1人で死んでいくのかしらって。お兄様は私の事を気にはかけてくれているけれど、それは兄としてではなく王だから。私を気にかけるのは白い竜という種の存続のためであって、私自身を心配してくれているのではないって知ってましたから。本当はずっとお兄様に側にいて欲しかったのに……」
唇をかみしめて俯くクリスティナ。寂しい思いをし続けたのは、様子を見ていればよくわかる。群れるのを嫌がる竜とはいえ、病弱で暗く狭い場所に長い間篭り続けていれば、価値観も変わってくるのだろう。
クリスティナはおずおずと視線を上げる。
「そうしたらお姉様たちがやって来て。種が違うのにお姉様とノアさん方は本当の家族みたいで羨ましかったんですの。それに私の事を心配してくれて。私嬉しくて、私もその輪の中に入りたいって思ってしまいましたの。けど、私にはノアさんたちみたいに家族になる事はできない。ですから、せめて形だけでも、お姉様と呼び続けていれば、ずっと私の事気に掛けてくれるかなって思いましたの……」
「クリスティナさん……そういう事なら、わかったよ。これでいいんだよね?」
クリスティナは顔を輝かせてコクコクと頷いた。
「はい! あと、できれば“さん”もつけずに、クリスティナと呼んでいただけたら、もっと嬉しいんですの!」
「わかったよ、クリスティナ」
「ありがとうございます、お姉様! それじゃあお姉様、久々にお会いできましたし、お出かけしませんこと?」
「病み上がりなのに、大丈夫?」
「むしろ今の方が、調子がいいくらいですわ!」
言葉より体で。クリスティナは自身が元気なのを表現してみせた。元気いっぱいを両腕で表現する様子が何とも可愛らしい。これで500歳というのは信じがたい。
リーシャが苦笑していると、クリスティナが問いかけた。
「そういえばお姉様。ルニルさんに狩りの仕方とか、食べ物を集める術を教えていますか?」
「まだ教えてないよ」
「では、今日はルニルさんに自分で食べ物を取る方法を教えましょう」
「えっ、もう? 早くない?」
「竜の成長は早いんですのよ? 今から始めるのでは遅いくらいですわ」
「そっか。遅いんだ……」
「さあ、そうと決まりましたらお姉様! さっそく私の背中に……って、あら、どうしましょう」
「どうしたの?」
「あの、これ、どうやったら竜の姿に戻れるんですの?」
「あー……」
やはりというべきだろう。
リーシャが知る限り、初めての擬態は本人の意思は関係なく、そしてその解き方は偶然がないかぎり自身での習得はなかなかできないようなのだ。
リーシャはノアに視線を送った。
「ノア。悪いんだけど、クリスティナに擬態の解き方を教えてあげてくれる?」
「……はあ。嫌だと言っても、何が何でもさせるんだろう? はなから俺に選択肢はないじゃないか」
「ごめんね、ノア。お願いします」
「わかった」
ノアは渋々クリスティナに擬態の解き方を伝授し始めた。
クリスティナは気だるげに説明をするノアの言葉を真剣に聞き、擬態を解く方法を学んだのだった。
リーシャが躊躇いがちに尋ねると、クリスティナは再び感極まったようにリーシャへと近づいた。
「ああ、お姉様! 私が死ぬのではないかと心配してくださっているのですね。ですが、そこは問題ありませんわ。そう簡単に立ち直れはしないとは思いますけど、お姉様の後を追うようなマネはしないとお約束しますわ!」
「そ、そうですか。それならよかった。クリスティナさんまで私の後を追っちゃうんじゃないかって、ちょっと焦りました」
「フフッ。大丈夫ですわ。お姉様は知らないのかもしれませんが、後を追って死を選ぶ者は、亡くなった相手の事を番として求めるようになった竜だけですから。たぶん、人間を番に求める事と人間の姿を手に入れる事は必ずしも同時に成り立つものではないはずです。事実私もそうですし、そもそもそうでなければ、人間の女性を慕い、人間の姿を手に入れたお兄様も、この国を出て行かれたファイドラス様も、今生きていませんわ」
「あっ、そういえばそうですね」
以前竜王は人間の女性を慕い、人間の姿を手に入れ、そしてその女性を亡くしたと言っていた。つまり、慕ってはいたけれど番にしたいとまではまだ思っていなかったという事。
程度はわからないけれど、恋愛感情でなくとも人間に対するある程度の高い好感を持ち、同じ姿を求める事が擬態という能力を手にする条件なのかもしれない。
「……お姉様ってば!」
「はっ!」
リーシャは仮説の修正に集中していて、クリスティナが呼びかけていたことに気がついていなかった。
クリスティナは頬を膨らましている。
「ご、ごめんなさい。何ですか?」
「もう、お姉様ったら。まあいいですわ。あのですね、私、お姉様にお願いがありますの」
「私にできる事なら何でもしますよ」
「その、よければもっと楽な話し方をしてくれませんこと? 私、お姉様がノアさんたちと話している時のようにお話したいんですの」
「えっ、いいんですか? 圧倒的に年下の私にそんな口調で話されて」
「かまわないから言っておりますの! 私はお姉様の妹になりたいんですの‼」
クリスティナは幼い子供のようにムキになって声を上げた。
「なんでそこまで妹にこだわるんですか?」
「だって、ノアさんたちが羨ましくて……」
「羨ましい?」
「ほら、私たち竜ってあまりお互いに干渉したりしませんでしょ? お兄様も例に洩れずな感じの距離感で。私、体が弱いせいで体調の悪い日が多いから、お家に篭っている日が多くてとても心細かったんですの。このまま1人で死んでいくのかしらって。お兄様は私の事を気にはかけてくれているけれど、それは兄としてではなく王だから。私を気にかけるのは白い竜という種の存続のためであって、私自身を心配してくれているのではないって知ってましたから。本当はずっとお兄様に側にいて欲しかったのに……」
唇をかみしめて俯くクリスティナ。寂しい思いをし続けたのは、様子を見ていればよくわかる。群れるのを嫌がる竜とはいえ、病弱で暗く狭い場所に長い間篭り続けていれば、価値観も変わってくるのだろう。
クリスティナはおずおずと視線を上げる。
「そうしたらお姉様たちがやって来て。種が違うのにお姉様とノアさん方は本当の家族みたいで羨ましかったんですの。それに私の事を心配してくれて。私嬉しくて、私もその輪の中に入りたいって思ってしまいましたの。けど、私にはノアさんたちみたいに家族になる事はできない。ですから、せめて形だけでも、お姉様と呼び続けていれば、ずっと私の事気に掛けてくれるかなって思いましたの……」
「クリスティナさん……そういう事なら、わかったよ。これでいいんだよね?」
クリスティナは顔を輝かせてコクコクと頷いた。
「はい! あと、できれば“さん”もつけずに、クリスティナと呼んでいただけたら、もっと嬉しいんですの!」
「わかったよ、クリスティナ」
「ありがとうございます、お姉様! それじゃあお姉様、久々にお会いできましたし、お出かけしませんこと?」
「病み上がりなのに、大丈夫?」
「むしろ今の方が、調子がいいくらいですわ!」
言葉より体で。クリスティナは自身が元気なのを表現してみせた。元気いっぱいを両腕で表現する様子が何とも可愛らしい。これで500歳というのは信じがたい。
リーシャが苦笑していると、クリスティナが問いかけた。
「そういえばお姉様。ルニルさんに狩りの仕方とか、食べ物を集める術を教えていますか?」
「まだ教えてないよ」
「では、今日はルニルさんに自分で食べ物を取る方法を教えましょう」
「えっ、もう? 早くない?」
「竜の成長は早いんですのよ? 今から始めるのでは遅いくらいですわ」
「そっか。遅いんだ……」
「さあ、そうと決まりましたらお姉様! さっそく私の背中に……って、あら、どうしましょう」
「どうしたの?」
「あの、これ、どうやったら竜の姿に戻れるんですの?」
「あー……」
やはりというべきだろう。
リーシャが知る限り、初めての擬態は本人の意思は関係なく、そしてその解き方は偶然がないかぎり自身での習得はなかなかできないようなのだ。
リーシャはノアに視線を送った。
「ノア。悪いんだけど、クリスティナに擬態の解き方を教えてあげてくれる?」
「……はあ。嫌だと言っても、何が何でもさせるんだろう? はなから俺に選択肢はないじゃないか」
「ごめんね、ノア。お願いします」
「わかった」
ノアは渋々クリスティナに擬態の解き方を伝授し始めた。
クリスティナは気だるげに説明をするノアの言葉を真剣に聞き、擬態を解く方法を学んだのだった。
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