346 / 419
竜の国
名前(3)
しおりを挟む
ルニルと触れ合っていると、妹竜が寂しそうに鳴きながらリーシャの背中を鼻で突いた。
「妹さん? どうかしたんですか?」
「キュン……」
甘えるような鳴き声だったけれど、何故そんな鳴き方をするのかリーシャにはわからない。
「ノア。妹さんなんだって?」
「私にも、だと。そいつがリーシャに名前を貰っているのを見て、自分も欲しくなったんだろう」
「えっ? 欲しいって、名前を? 私が? 妹さんに?」
妹竜の事を見ると、興奮しているのか鼻息を荒くして頭を何度も上下に動かしている。
「え、っと……それは愛称を考えて欲しいってこと、ですよね?」
親からもらった名前を差し置き、他人に別の名を付けさせようとしているとは思えない。
リーシャ自身、本当の名前のリリーシアから愛称だったリーシャへと変えている。どちらも親から貰った呼び名ではあったけれど、時間をかけて考えてくれた本当の名前を捨てるという決意は、なかなか固まってはくれなかった。
妹竜もきっと同じはず。リーシャから呼ばれるための名前が欲しいだけなのだろうと思い、それを確認したのだった。そもそも遥かに年上の妹竜の名前を考える等、恐れ多くてできるわけがない。
けれど妹竜は不満そうに鳴いた。そういう事ではないらしい。
その訴えを聞いたノアが口を開いた。
「…………愛称ではなく、人間の言葉で紡ぐ真の名が欲しいそうだ。そもそも竜には個体を識別する名前のようなものがない。あったとしても、それを人間の使う名前にはできないだろう」
「なんで? なんで名前は無理なの?」
「言葉を変換するには、該当する物に人間と竜のそれぞれの言葉で名称がついていなければ成り立たない。竜の声が意味している物を想像し、それは人間の言葉で何と呼ばれているか思い起こす必要があるんだ。竜の声を人間の言葉一文字ずつに当てはめているわけではない。故に名を訳すということはできない。竜の方も同じ。俺たちが持つ人間の名前が誰を指す言葉なのか理解できても、竜の言葉しか発せられないこいつらでは、その名前で呼びかけることはできない」
「言われてみれば、たしかにそうか。じゃあ、妹さんはいつも私の事、なんて呼んでるんだろう」
「“姉”という意味合いの言葉を使っている」
「へぇ、そうなんだ。なんか変な感じ。生きてきた年数的には、妹さんの方がお姉さんなのにね。けど、わかった。妹さん、そういう事なら、私が名前をつけさせてもらいますね」
妹竜はパァっと顔を輝かせた。その期待するような顔を見て、リーシャはそれに応えられるような名前を考えたいと、頭を回転させた。
(可愛い名前がいいよね。妹さん、キラキラしたものが好きだっていうし……うーんと……)
いろいろと思いついた名前を頭の中で並べていき、そのなかでこれがいいのではと思えた名前を口に出した。
「えっと、じゃあ、クリスティナなんてどうですか? 宝石をイメージして出てきた名前なんですけど。可愛いと思いますし」
「! キュルル‼」
嬉しそうな鳴き声が上がった。どうやら期待に答えられたようで、リーシャはほっとした。
「満足したみたいだな」
「うん。よかったぁ」
これまで妹竜のことをどう呼べば良いか分からず“妹さん“呼びをしていたせいなのか、どことなく距離を詰めきれずにいた。けれど、これでもっと親しくなれる。なんとなくそんな気がしたのだった。
「妹さん? どうかしたんですか?」
「キュン……」
甘えるような鳴き声だったけれど、何故そんな鳴き方をするのかリーシャにはわからない。
「ノア。妹さんなんだって?」
「私にも、だと。そいつがリーシャに名前を貰っているのを見て、自分も欲しくなったんだろう」
「えっ? 欲しいって、名前を? 私が? 妹さんに?」
妹竜の事を見ると、興奮しているのか鼻息を荒くして頭を何度も上下に動かしている。
「え、っと……それは愛称を考えて欲しいってこと、ですよね?」
親からもらった名前を差し置き、他人に別の名を付けさせようとしているとは思えない。
リーシャ自身、本当の名前のリリーシアから愛称だったリーシャへと変えている。どちらも親から貰った呼び名ではあったけれど、時間をかけて考えてくれた本当の名前を捨てるという決意は、なかなか固まってはくれなかった。
妹竜もきっと同じはず。リーシャから呼ばれるための名前が欲しいだけなのだろうと思い、それを確認したのだった。そもそも遥かに年上の妹竜の名前を考える等、恐れ多くてできるわけがない。
けれど妹竜は不満そうに鳴いた。そういう事ではないらしい。
その訴えを聞いたノアが口を開いた。
「…………愛称ではなく、人間の言葉で紡ぐ真の名が欲しいそうだ。そもそも竜には個体を識別する名前のようなものがない。あったとしても、それを人間の使う名前にはできないだろう」
「なんで? なんで名前は無理なの?」
「言葉を変換するには、該当する物に人間と竜のそれぞれの言葉で名称がついていなければ成り立たない。竜の声が意味している物を想像し、それは人間の言葉で何と呼ばれているか思い起こす必要があるんだ。竜の声を人間の言葉一文字ずつに当てはめているわけではない。故に名を訳すということはできない。竜の方も同じ。俺たちが持つ人間の名前が誰を指す言葉なのか理解できても、竜の言葉しか発せられないこいつらでは、その名前で呼びかけることはできない」
「言われてみれば、たしかにそうか。じゃあ、妹さんはいつも私の事、なんて呼んでるんだろう」
「“姉”という意味合いの言葉を使っている」
「へぇ、そうなんだ。なんか変な感じ。生きてきた年数的には、妹さんの方がお姉さんなのにね。けど、わかった。妹さん、そういう事なら、私が名前をつけさせてもらいますね」
妹竜はパァっと顔を輝かせた。その期待するような顔を見て、リーシャはそれに応えられるような名前を考えたいと、頭を回転させた。
(可愛い名前がいいよね。妹さん、キラキラしたものが好きだっていうし……うーんと……)
いろいろと思いついた名前を頭の中で並べていき、そのなかでこれがいいのではと思えた名前を口に出した。
「えっと、じゃあ、クリスティナなんてどうですか? 宝石をイメージして出てきた名前なんですけど。可愛いと思いますし」
「! キュルル‼」
嬉しそうな鳴き声が上がった。どうやら期待に答えられたようで、リーシャはほっとした。
「満足したみたいだな」
「うん。よかったぁ」
これまで妹竜のことをどう呼べば良いか分からず“妹さん“呼びをしていたせいなのか、どことなく距離を詰めきれずにいた。けれど、これでもっと親しくなれる。なんとなくそんな気がしたのだった。
0
お気に入りに追加
217
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる