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竜の国
小さな雷竜(2)
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「やめておいた方がいい、リーシャ。ペットを飼おうとしているわけではないんだ。お前ではこの竜をあるべき姿のまま成長させることはできない」
「大丈夫だよ。ノアたちもこうして、ちゃんと大きくなれたんだから!」
「おい。竜王の言葉を思い出せ。俺たちはあいつに異端児扱いされたんだぞ? この子供も二の舞になるのが目に見えている。それにな、あの家にこれ以上雄を増やすような事態、俺は認めないぞ」
真剣にそう告げるノアにリーシャは唖然とした。子供の竜の育ち方がどうのというより、そこが1番引っかかっているところなのだろう。雷竜の子供が成長した時に人間の姿になり、リーシャの番に名乗りを上げるのではないかと心配しているようだ。
ノアたち兄弟が互いにリーシャの番になる事を許し合っているのは、物心つきたての幼い時代からずっと一緒にいたことで、互いを必要としているから。後から現れた何の繋がりもない存在を、その輪に招き入れることは許さないという拒絶なのだろう。
リーシャとしても、番だの何だの申し出てくる存在を増やしたくて言っているわけではない。
「大丈夫だって。この子とは適切な距離をちゃんととるから。ほら、今は周りに竜王様や妹さんがいるから、どれくらいの距離感が正しいのか聞きながら育てられるでしょ?」
「だが……」
「ノア。この子は放っておいても自力で生きていける子だと思う?」
「……いや」
「だったら、手を貸してあげようよ。1匹でも大丈夫になったらすぐ送り出すから」
リーシャがあやすように小さな竜の頭を撫でていると、泣き出しそうだった顔は、いつの間にか不思議そうな顔になっていた。自分を抱えている初めて見た生き物が、甘えても良い生き物なのか様子を見ているようだ。
ノアにはその様子が面白くなかったらしく、余計に不機嫌な雰囲気を纏った。
いつもならノアが不機嫌になると、機嫌を取ろうとリーシャは下手に出がちだ。けれど今、目の前の命が天秤にかけられているのを知ったリーシャが、この程度で意見を変えるわけがない。それはノアも知っている。リーシャの意見を変えるにはもっと理由が必要だ。
「……エリアル。お前はどう思う? この子供を迎え入れてもいいと思うか?」
「えっ、僕に聞くの?」
2人の結論待ちの姿勢をしていたエリアルは驚いていた。まさか話を振られるとは思っていなかったようだ。
エリアルは傍観者でいてはいけないのだとわかったため、真面目に頭を悩ませ始めた。
「うーん、ねぇさんが育てたいって言ってるんなら、いいんじゃないかな?」
「いずれリーシャをとられる可能性があるが、いいのか?」
「それはやだよ! やだけど、こんなに小さい子なのに無視して、何もしてあげないなんてかわいそうだよ。それにこのままだと死んじゃうかもしれないんでしょ?」
「そうだが、それが竜としてのあるべき姿だ」
「けどさ、それを言ったら僕らだってねぇさんがいなかったら、生きられたかわからなかったんだし、ちょっと手助けするくらいならいいんじゃないの? えーっと、ご飯持って来てあげるくらいとかさ。どうしても遊びたそうにしてたら、僕が遊んであげるし」
エリアルにも、できれば雷竜の子供をリーシャの傍に置きたくないという気持ちはあるらしい。
けれどエリアルは自分が末っ子で、兄たちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる姿を見てきたからか、自分より小さい者に対する思いやりの心が強い。魔法学校に滞在した時、リーシャの生徒だった幼いステファニーに対して、兄のように振る舞う姿をよく見たものだ。
エリアルを味方につけたリーシャはふふんと勝ち誇った笑みを浮かべた。
それでもノアは諦めきれない様子だ。
「……結論はルシアの意見も聞いてからだ。忙しくしていると言っても、アイツも無関係じゃないんだ」
「いいよ。けど、ルシアがダメだって言っても、それで2対2なんだからね。この子をすぐに追い出そうとしないでよ?」
「わかっている」
ノアの顔は諦めと、その諦めを認めたくない思いの交じり合ったような、なんとも複雑そうな表情をしていた。
そんな2人の様子を小さな黄色い竜は不思議そうに見ていた。自分の事で対立しているとなど、全くわかっていないだろう。
「大丈夫だよ。ノアたちもこうして、ちゃんと大きくなれたんだから!」
「おい。竜王の言葉を思い出せ。俺たちはあいつに異端児扱いされたんだぞ? この子供も二の舞になるのが目に見えている。それにな、あの家にこれ以上雄を増やすような事態、俺は認めないぞ」
真剣にそう告げるノアにリーシャは唖然とした。子供の竜の育ち方がどうのというより、そこが1番引っかかっているところなのだろう。雷竜の子供が成長した時に人間の姿になり、リーシャの番に名乗りを上げるのではないかと心配しているようだ。
ノアたち兄弟が互いにリーシャの番になる事を許し合っているのは、物心つきたての幼い時代からずっと一緒にいたことで、互いを必要としているから。後から現れた何の繋がりもない存在を、その輪に招き入れることは許さないという拒絶なのだろう。
リーシャとしても、番だの何だの申し出てくる存在を増やしたくて言っているわけではない。
「大丈夫だって。この子とは適切な距離をちゃんととるから。ほら、今は周りに竜王様や妹さんがいるから、どれくらいの距離感が正しいのか聞きながら育てられるでしょ?」
「だが……」
「ノア。この子は放っておいても自力で生きていける子だと思う?」
「……いや」
「だったら、手を貸してあげようよ。1匹でも大丈夫になったらすぐ送り出すから」
リーシャがあやすように小さな竜の頭を撫でていると、泣き出しそうだった顔は、いつの間にか不思議そうな顔になっていた。自分を抱えている初めて見た生き物が、甘えても良い生き物なのか様子を見ているようだ。
ノアにはその様子が面白くなかったらしく、余計に不機嫌な雰囲気を纏った。
いつもならノアが不機嫌になると、機嫌を取ろうとリーシャは下手に出がちだ。けれど今、目の前の命が天秤にかけられているのを知ったリーシャが、この程度で意見を変えるわけがない。それはノアも知っている。リーシャの意見を変えるにはもっと理由が必要だ。
「……エリアル。お前はどう思う? この子供を迎え入れてもいいと思うか?」
「えっ、僕に聞くの?」
2人の結論待ちの姿勢をしていたエリアルは驚いていた。まさか話を振られるとは思っていなかったようだ。
エリアルは傍観者でいてはいけないのだとわかったため、真面目に頭を悩ませ始めた。
「うーん、ねぇさんが育てたいって言ってるんなら、いいんじゃないかな?」
「いずれリーシャをとられる可能性があるが、いいのか?」
「それはやだよ! やだけど、こんなに小さい子なのに無視して、何もしてあげないなんてかわいそうだよ。それにこのままだと死んじゃうかもしれないんでしょ?」
「そうだが、それが竜としてのあるべき姿だ」
「けどさ、それを言ったら僕らだってねぇさんがいなかったら、生きられたかわからなかったんだし、ちょっと手助けするくらいならいいんじゃないの? えーっと、ご飯持って来てあげるくらいとかさ。どうしても遊びたそうにしてたら、僕が遊んであげるし」
エリアルにも、できれば雷竜の子供をリーシャの傍に置きたくないという気持ちはあるらしい。
けれどエリアルは自分が末っ子で、兄たちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる姿を見てきたからか、自分より小さい者に対する思いやりの心が強い。魔法学校に滞在した時、リーシャの生徒だった幼いステファニーに対して、兄のように振る舞う姿をよく見たものだ。
エリアルを味方につけたリーシャはふふんと勝ち誇った笑みを浮かべた。
それでもノアは諦めきれない様子だ。
「……結論はルシアの意見も聞いてからだ。忙しくしていると言っても、アイツも無関係じゃないんだ」
「いいよ。けど、ルシアがダメだって言っても、それで2対2なんだからね。この子をすぐに追い出そうとしないでよ?」
「わかっている」
ノアの顔は諦めと、その諦めを認めたくない思いの交じり合ったような、なんとも複雑そうな表情をしていた。
そんな2人の様子を小さな黄色い竜は不思議そうに見ていた。自分の事で対立しているとなど、全くわかっていないだろう。
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