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竜の国
お気に入りの場所(1)
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リーシャたちは騒がしく出かけて行ったルシアの影の残る宙を、苦笑いを浮かべながら見つめていた。何が起こったかわからない妹竜も不思議そうに外を見ている。
「あの」
リーシャが妹竜に話し掛けると、彼女は首を傾げながら顔を向けた。そこで今まで通訳してくれていた存在がいなくなったのだと気がついた。
ノアかエリアルのどちらかに頼もうと振り返った時、ノアと視線が合った。
「えーっと、ノア。私が言った事を妹さんに伝えてもらってもいい?」
「ああ」
「それじゃあ、さっそくですけどお気に入りの場所に連れて行ってもらってもいいですか? って伝えて。あっ。あんまり失礼な態度で言わないようにね」
「……わかった」
ノアの竜の声は、何を言っているのかわからないリーシャですら、柔らかに伝えているのがわかる声色だった。
妹竜は頷くとノソノソ外へと歩いて行く。リーシャたちが後ろを追いかけると、妹竜は崖の前で伏せて「グルル」と鳴いた。
「乗るぞ」
ノアはそう言うと、さっさと妹竜の背にまたがった。
仲がそれほどよくないとはいえ、彼女は王と呼ばれる竜の妹だ。そんな竜に躊躇いなく乗るノアをリーシャは焦って止めようとした。
「ちょっと、ノア! そんないきなり背中に乗るなんて!」
「本人がいいと言っているんだ。かまわないだろう」
「そうなの?」
「どれくらい離れた場所か確認した時、俺の翼がダメになっていることを伝えたら、3人まとめて運ぶと申し出てくれた」
「そっか。ノアが飛べないの、忘れてた……」
リーシャは風魔法でどうにか飛行できるとしても、さすがにノアを抱えての飛行は困難だ。エリアルも無理。最近移動を任せっきりにしているルシアがいない今、ノアの移動方法は徒歩しかない。
さらにもう1つ問題を上げるとすると、風魔法での飛行は竜の飛行の速度よりもかなり遅く、妹竜の飛行速度にはついて行けないだろう。広大な竜の国を移動するにはかなり時間がかかってしまう。
「妹さんがいいって言ってるなら、お言葉に甘えちゃおうかな」
「ああ、そうしろ」
リーシャが妹竜の背に手を掛けると、ノアが手を差し伸べてくれた。リーシャは当たり前のようにその手を取り、引き上げられる。
エリアルも軽々と乗ると妹竜は翼を上下し始めた。ノアとルシア以外の竜の背に乗るのは少し緊張する。
妹竜が空へ向けて飛び立つと、どこからか1匹の風竜が姿を現した。
それに気がついたエリアルは不審そうにその竜を見ていた。
「なんだろ、あの竜のにぃさん。ずっとついて来てるよ」
「竜王が言っていた護衛の竜だろう。攻撃を仕掛けようとしているわけでもない。放っておけばいい」
「そう言えばそんなこと言ってたね。わかった」
ノアに諭されるとエリアルは前を向き直す。
妹竜は後方を気にすることなく、お気に入りの場所に向けて羽を進めた。
「あの」
リーシャが妹竜に話し掛けると、彼女は首を傾げながら顔を向けた。そこで今まで通訳してくれていた存在がいなくなったのだと気がついた。
ノアかエリアルのどちらかに頼もうと振り返った時、ノアと視線が合った。
「えーっと、ノア。私が言った事を妹さんに伝えてもらってもいい?」
「ああ」
「それじゃあ、さっそくですけどお気に入りの場所に連れて行ってもらってもいいですか? って伝えて。あっ。あんまり失礼な態度で言わないようにね」
「……わかった」
ノアの竜の声は、何を言っているのかわからないリーシャですら、柔らかに伝えているのがわかる声色だった。
妹竜は頷くとノソノソ外へと歩いて行く。リーシャたちが後ろを追いかけると、妹竜は崖の前で伏せて「グルル」と鳴いた。
「乗るぞ」
ノアはそう言うと、さっさと妹竜の背にまたがった。
仲がそれほどよくないとはいえ、彼女は王と呼ばれる竜の妹だ。そんな竜に躊躇いなく乗るノアをリーシャは焦って止めようとした。
「ちょっと、ノア! そんないきなり背中に乗るなんて!」
「本人がいいと言っているんだ。かまわないだろう」
「そうなの?」
「どれくらい離れた場所か確認した時、俺の翼がダメになっていることを伝えたら、3人まとめて運ぶと申し出てくれた」
「そっか。ノアが飛べないの、忘れてた……」
リーシャは風魔法でどうにか飛行できるとしても、さすがにノアを抱えての飛行は困難だ。エリアルも無理。最近移動を任せっきりにしているルシアがいない今、ノアの移動方法は徒歩しかない。
さらにもう1つ問題を上げるとすると、風魔法での飛行は竜の飛行の速度よりもかなり遅く、妹竜の飛行速度にはついて行けないだろう。広大な竜の国を移動するにはかなり時間がかかってしまう。
「妹さんがいいって言ってるなら、お言葉に甘えちゃおうかな」
「ああ、そうしろ」
リーシャが妹竜の背に手を掛けると、ノアが手を差し伸べてくれた。リーシャは当たり前のようにその手を取り、引き上げられる。
エリアルも軽々と乗ると妹竜は翼を上下し始めた。ノアとルシア以外の竜の背に乗るのは少し緊張する。
妹竜が空へ向けて飛び立つと、どこからか1匹の風竜が姿を現した。
それに気がついたエリアルは不審そうにその竜を見ていた。
「なんだろ、あの竜のにぃさん。ずっとついて来てるよ」
「竜王が言っていた護衛の竜だろう。攻撃を仕掛けようとしているわけでもない。放っておけばいい」
「そう言えばそんなこと言ってたね。わかった」
ノアに諭されるとエリアルは前を向き直す。
妹竜は後方を気にすることなく、お気に入りの場所に向けて羽を進めた。
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