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竜の国
和解のために(1)
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竜の国到着翌日から、ルシアはシャノウの解放に向け、竜王のねぐらに入り浸りになっていた。光属性の解放の刻印を生み出し、魔法陣として仕上げる作業を嫌がっていた割には、まじめな姿勢を見せている。
その努力の成果はすでに姿を現し始めていた。
数日前、竜王の元から帰って来たルシアの口から「なんとなくだけど、なんかぼんやり形がわかってきたような気がする。気のせいかもしんねぇけど」という言葉が早くも出てきたのだ。完成までの道のりはまだまだ長そうだけれども、着実に前進はしている。
この日も、ルシアは竜王の元へ通うつもりのようだ。まだ出かける気にならないのか、ルシアはエリアルに合成魔法を教えているリーシャの背後で、土壁を背にその様子をずっと眺めている。上機嫌に愛しむような視線が背中に刺さり続け、リーシャには少しこそばゆかった。
視線に気がつかない振りをしてエリアルと戯れていると、ルシアの横に腰を下ろしていたノアが問いかけた。
「ルシア、そろそろ行かなくていいのか? あまりのんびりしていると、また竜王がここまでくるんじゃないか?」
「あー……」
ルシアはまだ目の前の光景を堪能したそうな声を出すと、洞窟入口の地面に落とされた光の形に視線を向けた。
少し前の話、長期の間、慣れない外での寝起きをし続けているせいか、ルシアの調子があまりよくない日があった。
いつもならとうの昔に竜王と刻印を作る作業に入っている時間にもかかわらず、ルシアは横になってぼんやりと天井を見つめていた。するといくら待っても来ないルシアの様子を見に、竜王がやって来た。体調の悪さがそれほど顔色に出ていなかったせいなのだろう。竜王は言い分を聞かず、そのままルシアの事を担いで連れて行ってしまったのだ。
リーシャにとってはたいした事件ではないのだけれど、どうやら担がれるという情けない姿を見られてしまった事がルシアにはかなり堪えたようで、それからは洞窟の中に日向が届き始めるとすぐに出かけるようになっていた。
今がまさにその時間なのだ。
「そうだな。そろそろ行ったほうがいいか。なあ、リーシャ。今から竜王のとこ行ってくる。いつも通り、日が暮れる前には戻ってくるつもりだから」
「わかった。頑張ってね」
リーシャが青い火の魔法を浮かべたまま振り向くと、ルシアは嬉しそうに笑った。
「おう。ところで、そっちは今日もアイツのとこ行くのか?」
「そのつもり」
「ふーん。めげねぇのな」
「そりゃね。めげたりなんてしないよ。怪我の具合が酷くて、あの日のうちにきちんと傷を治してあげられなかったし。できることなら私にできる範囲で綺麗にしてあげたいんだ。ほら竜とはいっても、女の子だし、傷だらけのままなんてかわいそうでしょ?」
リーシャは竜王の妹をチュリワイトの巣から救い出した翌日から毎日のように、様子を見に彼女のねぐらへ通っている。怪我の具合が心配だからという理由がほとんどなのだけど、実のところあわよくば妹竜と仲良くなれればという思いもあった。
せっかく関わりを持てそうな竜ができたのに、ここで打ち解けられないようであれば、人間への攻撃を仕掛けようとする竜たちと交渉するなど夢のまた夢。
そういう思いもあって仲良くなろうと訪れてはみるけれど、人間に良い感情を持っていない竜と仲良くなるのがそう簡単に上手くいくわけはなかった。もしかするとそういう算段を見抜いているのかもしれない。
リーシャはねぐらを訪れる度、入り口に立っただけで警戒されて唸られ続けている。いまだに警戒が解ける気配は全く感じられない。
この日もリーシャはいつものように、今日こそはねぐらに入れてもらおうと、妹竜のところを訪れようとしていた。
その努力の成果はすでに姿を現し始めていた。
数日前、竜王の元から帰って来たルシアの口から「なんとなくだけど、なんかぼんやり形がわかってきたような気がする。気のせいかもしんねぇけど」という言葉が早くも出てきたのだ。完成までの道のりはまだまだ長そうだけれども、着実に前進はしている。
この日も、ルシアは竜王の元へ通うつもりのようだ。まだ出かける気にならないのか、ルシアはエリアルに合成魔法を教えているリーシャの背後で、土壁を背にその様子をずっと眺めている。上機嫌に愛しむような視線が背中に刺さり続け、リーシャには少しこそばゆかった。
視線に気がつかない振りをしてエリアルと戯れていると、ルシアの横に腰を下ろしていたノアが問いかけた。
「ルシア、そろそろ行かなくていいのか? あまりのんびりしていると、また竜王がここまでくるんじゃないか?」
「あー……」
ルシアはまだ目の前の光景を堪能したそうな声を出すと、洞窟入口の地面に落とされた光の形に視線を向けた。
少し前の話、長期の間、慣れない外での寝起きをし続けているせいか、ルシアの調子があまりよくない日があった。
いつもならとうの昔に竜王と刻印を作る作業に入っている時間にもかかわらず、ルシアは横になってぼんやりと天井を見つめていた。するといくら待っても来ないルシアの様子を見に、竜王がやって来た。体調の悪さがそれほど顔色に出ていなかったせいなのだろう。竜王は言い分を聞かず、そのままルシアの事を担いで連れて行ってしまったのだ。
リーシャにとってはたいした事件ではないのだけれど、どうやら担がれるという情けない姿を見られてしまった事がルシアにはかなり堪えたようで、それからは洞窟の中に日向が届き始めるとすぐに出かけるようになっていた。
今がまさにその時間なのだ。
「そうだな。そろそろ行ったほうがいいか。なあ、リーシャ。今から竜王のとこ行ってくる。いつも通り、日が暮れる前には戻ってくるつもりだから」
「わかった。頑張ってね」
リーシャが青い火の魔法を浮かべたまま振り向くと、ルシアは嬉しそうに笑った。
「おう。ところで、そっちは今日もアイツのとこ行くのか?」
「そのつもり」
「ふーん。めげねぇのな」
「そりゃね。めげたりなんてしないよ。怪我の具合が酷くて、あの日のうちにきちんと傷を治してあげられなかったし。できることなら私にできる範囲で綺麗にしてあげたいんだ。ほら竜とはいっても、女の子だし、傷だらけのままなんてかわいそうでしょ?」
リーシャは竜王の妹をチュリワイトの巣から救い出した翌日から毎日のように、様子を見に彼女のねぐらへ通っている。怪我の具合が心配だからという理由がほとんどなのだけど、実のところあわよくば妹竜と仲良くなれればという思いもあった。
せっかく関わりを持てそうな竜ができたのに、ここで打ち解けられないようであれば、人間への攻撃を仕掛けようとする竜たちと交渉するなど夢のまた夢。
そういう思いもあって仲良くなろうと訪れてはみるけれど、人間に良い感情を持っていない竜と仲良くなるのがそう簡単に上手くいくわけはなかった。もしかするとそういう算段を見抜いているのかもしれない。
リーシャはねぐらを訪れる度、入り口に立っただけで警戒されて唸られ続けている。いまだに警戒が解ける気配は全く感じられない。
この日もリーシャはいつものように、今日こそはねぐらに入れてもらおうと、妹竜のところを訪れようとしていた。
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