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竜の国
大きな魔力刻印(2)
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「それじゃあ、まずは君たちも言っていた事でもあるんだけど、彼は召喚の魔道具へ魔物の封印、解放するには、別途で刻印が必要になるんじゃないかと言っていたよ。あくまで召喚の刻印は魔道具に同化させた生き物を出し入れするためだけの刻印であって、生き物を封じたり解放したりといった力はないはず。おそらく封印には生き物の体を魔力へと変換して召喚の魔道具に同化させるための刻印が必要で、解放するには同化をほどき、生き物としての肉体を再構成させるための刻印が必要になるって」
どんな魔道具なのかだけを聞いて、仕組みを考え、必要な条件を導き出していたのは驚きだ。その人はやはり魔道具技師として逸材だったに違いない。
リーシャは目を瞬かせた。
「なんか、すごい人ですね。まさかそこまで」
「うん。ほとんど情報がない状態で、これほど正確な答えに辿り着いていたとは私も思っていなかったよ。参考くらいにはなるかなってくらいのつもりで聞いてみただけだったんだけど。これなら彼の見解は全体的に合っていると考えてよさそうだね」
「他にも何か?」
「うん。あとは、刻印は魔道具として使うんじゃなくて、何だったかな。魔法……魔法ず……?」
竜王は、魔法に続きそうな言葉をあてがっていった。なかなかしっくりくる言葉に辿り着けないようだ。
魔道具以外で魔力刻印を使うもの。思い当たる言葉がリーシャには1つあった。
「もしかして、魔法陣ですか?」
「そうそれ。魔法陣だ。魔道具に刻む程度の大きさの魔力刻印では、竜を変質させるには力不足だろうって言っていたよ」
「ってことは、封印や解放って思った以上に魔力が必要な事なんですね」
リーシャは魔法陣の特性を記憶の奥底から引き出し、考えた。
(魔法陣か。本来1人で発動させるようなものじゃないけど、大丈夫かな? もし光の魔力が必要だったら……けど、人数が必要なのは多くの魔力が必要ってだけだし、竜王様ほどの魔力量があれば1人でも発動できるかな?)
リーシャが1人で頭の中をぐるぐるとさせていると、背後から肩を突かれた。振り向いた先ではルシアが困った表情でリーシャを見ている。
「どうしたの?」
「あのさ、魔法陣って? 魔道具とは何が違うんだ?」
「えっ、魔法陣習わなかった?」
「たぶん」
近年では魔法陣を使うような事はないに等しい。それ故なのか、魔道具技師の教育内容からは切り離されているようだ。思い返せば、リーシャの持つ魔道具に関する本の中に魔法陣の項目はなかったような気がした。
「そっか。魔法陣と魔道具は扱いが別だったんだね。えっと、魔法陣は十人単位で魔法を発動させるときに使う、地面に描いた魔力刻印の事だよ。大きな魔法を使うには、刻印も魔力に見合うような大きいものが必要になるから、地面に大きく描いて魔力を流れやすくする鉱石とかを埋め込んで作るはず。私もあんまりよく覚えてないから、後はこれを読んで」
リーシャは腰に下げている異空間に繋がる袋の中から、愛用している魔法書を取り出した。これには簡単にだけれど魔法陣について書かれていたはずだ。
ルシアは受け取るとパラパラっと中を確認する。
「シャノウさんってかなり魔力多いですし、普通よりも大きい魔力が必要になるのかもしれませんね。竜王様の寝床くらいの大きさは必要になるのかな……」
「はぁ⁉ そんなでっけえ刻印を俺に描けって言うのかよ⁉ 刻印でかく描くの難しいんだぞ⁉ ちょっと大きくしただけでも調整するのにかなり時間かかるのに⁉」
リーシャの話に耳を傾けていたルシアは声を荒らげた。
大きく刻印を描くというのは全体のバランスを捉えるのが難しい事なのだろう。ただ、その定義を考えたのはリーシャではないのだから実際のところは何もわからないし、わかったところで事実を変える事はできない。
「それを私に言われても……私が考えたんじゃないもん。それにルシアよりも勉強してないんだから、実際にどれくらいの大きさの刻印が必要なのかなんてわかるわけないよ。ただ、何十人分もの魔力を使うっていったら、それくらいの大きさが必要なのかなって思って言っただけだもん。もしかしたらもっと大きいのが必要かもしれないし」
「嘘だろー……」
ルシアはがっくりと項垂れた。
手伝いたくともリーシャには技術がない。こればかりは大変でもルシアに任せるしかない。苦笑いを浮かべる事しかできなかった。竜王も「アハハ」と苦笑している。
「まあそういうことで、私からは以上だよ。今日はもうお休み」
「はい、ありがとうございます」
「ああもうほら、シャノウ。君もリーシャたちについて行くんだよ。ここは私の寝床なんだから」
竜王は自分の寝床に居座り続けていたシャノウを、グイグイと外へと押し出していく。ようやく追い出すことに成功すると、竜王はルシアの方へ顔を向けた。
「それじゃあルシア。明日から協力してあげるから、一緒に頑張ろう」
「……なあ、逃げていいか? できる気がしねぇんだけど……」
「ダメに決まってるだろう。君、何のためにわざわざここまで来たんだい? それに彼を自由にするという約束は何年かかってもちゃんと守ってもらうつもりから、逃がさないよ」
「だよなー……はあ……」
ルシアはげんなりとした声を出した。
シャノウの解放までは前途多難そうだ。
どんな魔道具なのかだけを聞いて、仕組みを考え、必要な条件を導き出していたのは驚きだ。その人はやはり魔道具技師として逸材だったに違いない。
リーシャは目を瞬かせた。
「なんか、すごい人ですね。まさかそこまで」
「うん。ほとんど情報がない状態で、これほど正確な答えに辿り着いていたとは私も思っていなかったよ。参考くらいにはなるかなってくらいのつもりで聞いてみただけだったんだけど。これなら彼の見解は全体的に合っていると考えてよさそうだね」
「他にも何か?」
「うん。あとは、刻印は魔道具として使うんじゃなくて、何だったかな。魔法……魔法ず……?」
竜王は、魔法に続きそうな言葉をあてがっていった。なかなかしっくりくる言葉に辿り着けないようだ。
魔道具以外で魔力刻印を使うもの。思い当たる言葉がリーシャには1つあった。
「もしかして、魔法陣ですか?」
「そうそれ。魔法陣だ。魔道具に刻む程度の大きさの魔力刻印では、竜を変質させるには力不足だろうって言っていたよ」
「ってことは、封印や解放って思った以上に魔力が必要な事なんですね」
リーシャは魔法陣の特性を記憶の奥底から引き出し、考えた。
(魔法陣か。本来1人で発動させるようなものじゃないけど、大丈夫かな? もし光の魔力が必要だったら……けど、人数が必要なのは多くの魔力が必要ってだけだし、竜王様ほどの魔力量があれば1人でも発動できるかな?)
リーシャが1人で頭の中をぐるぐるとさせていると、背後から肩を突かれた。振り向いた先ではルシアが困った表情でリーシャを見ている。
「どうしたの?」
「あのさ、魔法陣って? 魔道具とは何が違うんだ?」
「えっ、魔法陣習わなかった?」
「たぶん」
近年では魔法陣を使うような事はないに等しい。それ故なのか、魔道具技師の教育内容からは切り離されているようだ。思い返せば、リーシャの持つ魔道具に関する本の中に魔法陣の項目はなかったような気がした。
「そっか。魔法陣と魔道具は扱いが別だったんだね。えっと、魔法陣は十人単位で魔法を発動させるときに使う、地面に描いた魔力刻印の事だよ。大きな魔法を使うには、刻印も魔力に見合うような大きいものが必要になるから、地面に大きく描いて魔力を流れやすくする鉱石とかを埋め込んで作るはず。私もあんまりよく覚えてないから、後はこれを読んで」
リーシャは腰に下げている異空間に繋がる袋の中から、愛用している魔法書を取り出した。これには簡単にだけれど魔法陣について書かれていたはずだ。
ルシアは受け取るとパラパラっと中を確認する。
「シャノウさんってかなり魔力多いですし、普通よりも大きい魔力が必要になるのかもしれませんね。竜王様の寝床くらいの大きさは必要になるのかな……」
「はぁ⁉ そんなでっけえ刻印を俺に描けって言うのかよ⁉ 刻印でかく描くの難しいんだぞ⁉ ちょっと大きくしただけでも調整するのにかなり時間かかるのに⁉」
リーシャの話に耳を傾けていたルシアは声を荒らげた。
大きく刻印を描くというのは全体のバランスを捉えるのが難しい事なのだろう。ただ、その定義を考えたのはリーシャではないのだから実際のところは何もわからないし、わかったところで事実を変える事はできない。
「それを私に言われても……私が考えたんじゃないもん。それにルシアよりも勉強してないんだから、実際にどれくらいの大きさの刻印が必要なのかなんてわかるわけないよ。ただ、何十人分もの魔力を使うっていったら、それくらいの大きさが必要なのかなって思って言っただけだもん。もしかしたらもっと大きいのが必要かもしれないし」
「嘘だろー……」
ルシアはがっくりと項垂れた。
手伝いたくともリーシャには技術がない。こればかりは大変でもルシアに任せるしかない。苦笑いを浮かべる事しかできなかった。竜王も「アハハ」と苦笑している。
「まあそういうことで、私からは以上だよ。今日はもうお休み」
「はい、ありがとうございます」
「ああもうほら、シャノウ。君もリーシャたちについて行くんだよ。ここは私の寝床なんだから」
竜王は自分の寝床に居座り続けていたシャノウを、グイグイと外へと押し出していく。ようやく追い出すことに成功すると、竜王はルシアの方へ顔を向けた。
「それじゃあルシア。明日から協力してあげるから、一緒に頑張ろう」
「……なあ、逃げていいか? できる気がしねぇんだけど……」
「ダメに決まってるだろう。君、何のためにわざわざここまで来たんだい? それに彼を自由にするという約束は何年かかってもちゃんと守ってもらうつもりから、逃がさないよ」
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ルシアはげんなりとした声を出した。
シャノウの解放までは前途多難そうだ。
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