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竜の国
心配性な竜(1)
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しばらくの間、リーシャは清々しい気持ちで寝転びながら空を眺めた。
竜王の妹の事はエリアルが見張っているけれど、逃げ出す様子はないようだ。
(もう少し休んでもいいよね)
リーシャは目を閉じた。気合いを入れすぎたようで、魔力の消費が激しく、体が気怠い。少ししか経っていないのに、もう睡魔が誘惑を始める始末だ。
「あっ! にぃさぁぁぁぁぁぁん!」
「……⁉」
エリアルの声で睡魔は振り払われ、リーシャは目を見開いた。空に白と黒の2つの竜の姿が見える。2匹は地面へと降りてきた。
黒い竜は地面に下りてくるなり、背中に乗る者の存在など忘れているように、慌てて人間へと姿を変えた。
「リーシャァァァァ‼ すげぇデカい音がしたけど、大丈夫か⁉ 何があったんだよ! 怪我して……んじゃねぇか‼ マジで何が⁉」
「うるさい、落ち着け」
ルシアは後から追ってきたノアに後頭部を思いっきり叩かれ、うずくまった。ノアの方が落ち着いては見えるけれど、責めるような雰囲気が圧倒的に怖い。
「リーシャ、その怪我はどうした。何があった?」
「えーっと……」
見つめてくる目が怖い。何も悪い事はしていないのに、恐怖で言葉が出てこない。というよりも、真実を話せば竜王の妹がどうなるかがわからず、上手くきり出せなかった。
「竜王様の妹がねぇさんにケガさせた‼」
「エリアル⁉」
リーシャが言うのを躊躇っていた事をいともあっさり、しかもいろいろ情報を吹っ飛ばした状態でエリアルが白状してしまった。
エリアルの言葉と同時にノアが完全に動きを止めた。
これから何が起こるのか。リーシャは暗い採掘場の1本道を歩いている時よりも恐怖を感じた。もちろんチュリワイトたちに襲い掛かられた時とは比になどならない。こんな事ならすぐにでも魔法で怪我を完全に消してしまっておけばよかったと後悔した。ただ、服の裂け目と染み付いた血でバレはしただろう。けれどここまでの恐怖は感じずに済んだかもしれない。
今からでも遅くはないのではないかと、そっと傷口に手をかざした。
「リーシャ?」
「はい、なんでしょうノアさん……?」
「竜王は妹に近づくなと言ってくれていなかったか? 怪我をするかもしれないからと」
「……はい、言われました……」
恐怖で俯き、逸らした視線を再びノアの方へ恐る恐る向ける。
「ひっ……!」
口元が弧を描いているけれど、目が笑っていない。普通に怒られるより、こういう怒り方をしている相手の方が断然怖いのはリーシャもよく知っている。
何を言われるのか、されるのか。短い小言で済むなら万々歳だ。ただ、そんな事で済むはずはないとノアの顔は語っている。
リーシャの額から冷や汗が流れ落ちた。
竜王の妹の事はエリアルが見張っているけれど、逃げ出す様子はないようだ。
(もう少し休んでもいいよね)
リーシャは目を閉じた。気合いを入れすぎたようで、魔力の消費が激しく、体が気怠い。少ししか経っていないのに、もう睡魔が誘惑を始める始末だ。
「あっ! にぃさぁぁぁぁぁぁん!」
「……⁉」
エリアルの声で睡魔は振り払われ、リーシャは目を見開いた。空に白と黒の2つの竜の姿が見える。2匹は地面へと降りてきた。
黒い竜は地面に下りてくるなり、背中に乗る者の存在など忘れているように、慌てて人間へと姿を変えた。
「リーシャァァァァ‼ すげぇデカい音がしたけど、大丈夫か⁉ 何があったんだよ! 怪我して……んじゃねぇか‼ マジで何が⁉」
「うるさい、落ち着け」
ルシアは後から追ってきたノアに後頭部を思いっきり叩かれ、うずくまった。ノアの方が落ち着いては見えるけれど、責めるような雰囲気が圧倒的に怖い。
「リーシャ、その怪我はどうした。何があった?」
「えーっと……」
見つめてくる目が怖い。何も悪い事はしていないのに、恐怖で言葉が出てこない。というよりも、真実を話せば竜王の妹がどうなるかがわからず、上手くきり出せなかった。
「竜王様の妹がねぇさんにケガさせた‼」
「エリアル⁉」
リーシャが言うのを躊躇っていた事をいともあっさり、しかもいろいろ情報を吹っ飛ばした状態でエリアルが白状してしまった。
エリアルの言葉と同時にノアが完全に動きを止めた。
これから何が起こるのか。リーシャは暗い採掘場の1本道を歩いている時よりも恐怖を感じた。もちろんチュリワイトたちに襲い掛かられた時とは比になどならない。こんな事ならすぐにでも魔法で怪我を完全に消してしまっておけばよかったと後悔した。ただ、服の裂け目と染み付いた血でバレはしただろう。けれどここまでの恐怖は感じずに済んだかもしれない。
今からでも遅くはないのではないかと、そっと傷口に手をかざした。
「リーシャ?」
「はい、なんでしょうノアさん……?」
「竜王は妹に近づくなと言ってくれていなかったか? 怪我をするかもしれないからと」
「……はい、言われました……」
恐怖で俯き、逸らした視線を再びノアの方へ恐る恐る向ける。
「ひっ……!」
口元が弧を描いているけれど、目が笑っていない。普通に怒られるより、こういう怒り方をしている相手の方が断然怖いのはリーシャもよく知っている。
何を言われるのか、されるのか。短い小言で済むなら万々歳だ。ただ、そんな事で済むはずはないとノアの顔は語っている。
リーシャの額から冷や汗が流れ落ちた。
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