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竜の国

巨大な蜘蛛の群(2)

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 リーシャは飛び出すとすぐさま手を伸ばし、掌を地面に向けた。

「炎よ!」

 リーシャの掌から1つの小さな灯が零れ落ちた。チュリワイトたちが一斉にリーシャの方へ寄ってきているのが音でわかる。けれどチュリワイトたちが到達するよりも早くリーシャの攻撃は発動した。
 零れ落ちた灯は地面に落ちた途端零した水のように一気に広がり、洞窟内全体を照らし出す炎へと姿を変えると、チュリワイトたちを襲い始めた。火力は十分。地面にいる小さなチュリワイトはあっという間に燃え尽き、隅へと化していく。

(もう少し火力上げても大丈夫だよね?)

 ここは洞窟の中で木々に燃え移る心配はない。竜王の妹もチュリワイトの集団から離れたところに放置されているようなので、多少火力が大きくてもすぐには影響を受けないだろう。
 リーシャは次なる魔法を発動させる。

「風よ」

 リーシャの周囲から強風が巻き起こる。風は炎に威力を与え、アラクネのいる柱へと炎を巻き上げ、小型のアラクネを焼き尽くした。
 このまま一掃とも考えたけれど、やはりそう簡単にはいかなかった。
 リーダーだと思われるアラクネが、よりにもよって水の魔法を会得していた。基本的に虫型の魔物は無属性の魔力しか持ち合わせていないけれど、稀にこういう個体がいるため油断は禁物なのだ。
 相性の悪い水の魔法を使われたとはいえ、あの火力の炎を消化してしまえるのは驚きだった。さすがこの規模をまとめられる個体だけある。
 群れの数はかなり減らせたけれど、それでもまだ多い。
 リーシャは全体攻撃はやめ、個々への攻撃へと切り替える。ここからが面相くさい局面の始まりだ。リーシャは身体強化することでチュリワイトからの攻撃をかわしながら、複数の火の玉を連続発射させて次々と燃やしていく。
 アラクネ型のチュリワイトも火の球を水でどんどん打ち消し、群れを守っている。いっそのこと闇の炎を使って殲滅しようかとも考えたけれど、閉鎖的な空間でエリアルたちに万が一のことが起こらないとも限らなかったため、その策はすぐに捨てた。
 少しずつ、確実にチュリワイトの数を減らしているとエリアルが大声を上げた。どうやらチュリワイトたちの注意を完全に逸らせていたようだ。

「ねぇさん! 竜王のにぃさんの妹っぽいの出てきた!」

 その声が耳に届いたリーシャは風の魔法を放ち1度で辺り一帯のチュリワイトを吹き飛ばすと、エリアルの元へ駆けつけた。

「よくやったね、エリアル!」
「うん。けど……」

 火の魔法で照らすと痛々しい傷を負い、横倒れた竜がいた。
 たしかに竜王の妹のようで、白い鱗を持っている。ただ広い範囲が血で赤く染まっていた。しかもチュリワイトの毒で溶けているところもあり、下の脆い部分まで酷くただれている。毒というよりも酸を使われたという方が正しいように思える。
 リーシャは顔をしかめた。

「生きてる?」
「うん。かろうじで、だと思うけど。もうほとんど魔力が消えかかっちゃてる」
「……」

 リーシャは動揺して一瞬動きを止めたものの、すぐに腰に着けた袋の中を漁り始めた。まだ死んでいないというのならば、立ち止まっている暇などない。

「エリアル。回復の魔道具を使うから、その間エリアルが私たちを守って!」
「えぇぇ⁉ 僕があんなキモチワルイのと戦うの⁉」
「大丈夫、エリアルならできるから。風魔法で近づいて来る蜘蛛を押し返して。あと、できれば倒すときは火で。風とかで切り裂くと毒が撒き散って、最悪毒が気化して危ないから」
「きか?」
「空気みたいになって、その辺飛び回るの。吸い続けたら毒が体に溜まって死んじゃうし、そのうち竜の鱗を溶かすような毒も出てくるよ、たぶん」
「! それは危ないね。わかった、僕、やるよ」
「ちなみに、チュリワイトの毒は熱に弱いから、燃やしちゃえば問題ないよ」
「たぶんわかった。倒すときは火の魔法を使えばいいんだよね。と、とりあえず……風よ!」

 エリアルは向きを変えると強風を起こし、迫りくるチュリワイトの群れを一気に押し返した。

(これなら大丈夫そう)

 リーシャは袋から親友のハンナから貰った回復のブレスレッドを見つけると、すぐに腕にはめ竜王の妹に手を掲げた。魔力を魔道具に送り始めると魔道具から光が溢れ出し、竜王の妹の体を包み込んだ。
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