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竜の国
竜の家族と3兄弟(1)
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妹竜に危険が及んでいるかもしれないというのに、竜王の口調はあまりにも他人事のようだった。リーシャの方が数十倍は慌てていて、どちらの妹の話をしているのかわからなくなりそうなほど。
それでもなお、竜王の態度は変わらなかった。
「妹っていっても母親が同じってだけだから。私とは生まれた時期が、そうだなぁ、1500は違うだろうし、あまり関わることもないから。ただ、体が強くないから気にはかけるようにはしていてね。それを知っていた彼女が一応報告に来てくれたんだ。どうやら数日前に、外へ遊びに出てから戻ってきていないらしい」
「そんな……家族なのに……」
「君たち人間の家族という概念はよくわからないけど、私たち竜にとって守るべき相手は番だけ。私は全ての上に立つ者として、助けを乞われればよく知らない子だろうと手を差し伸べるし、種を絶やさないために必要な最低限の事はする。国という体制をとるようになって協力し合う事は増えてきたけど、本来それが己の住処を守ってきた私たちにとっての本能なんだよ」
「え、でも……」
リーシャは竜王の言葉とノアたちの姿に齟齬を感じ、素直には受け入れられなかった。竜王の言うように、竜にとって親兄弟という繋がりが本当に希薄な物ならば、ノアたち兄弟が互いに離れようとしない事と矛盾している。
リーシャの視線がちらりとノアたちの方を向くと、竜王は何を言いたいのか察したようだ。
「彼らが異例なんだよ。まず、彼らが生まれた時期は同じでしょう? 本来なら複数の卵が同時に孵るなんて無いに等しい。1つも孵らない事だって多いんだ。そしてこの子たちは生まれてからずっと同じ住処で暮らしていたんじゃないかい?」
「はい。この子たちの親の竜は農家を荒らしていたので、討伐の依頼があって……私もその討伐に参加していました。討伐後に近くの森の中を歩いていたら偶然、まだ卵から孵ったばかりのこの子たちを見つけて。そこからはずっと私がお世話をしていました」
竜王の反応を気にして、心臓をバクバクさせながらリーシャは真実を話した。竜の討伐に参加していた事に不快感を示してくるかと思っていたけれど、反応はあっさりとしたものだった。
「うん、やっぱりそれが1番の原因だろうね」
「えっ……」
妹竜に対する考えを吐露され、あまり他の竜に対する関心がないという事は感じ取っていた。けれど多少なりとも不快な顔をされると思っていたため、予想外な反応にリーシャが拍子抜けな顔になった。
その表情に気がついた竜王は不思議そうに尋ねた。
「ん? どうかしたのかい?」
「あ、いえ。怒って唸られるんじゃないかって思ってたので……なんというか、ちょっとびっくりして」
「討伐に参加していたという話の事かな?」
「はい」
「まあ一応君と私たちは種族が違うし、一方的な殺戮ってわけじゃないなら、私個人としてはまあ気にはならないかな。私にとってその話は他人の事だから生死にはあまり興味はないし、先に手を出したのが同胞というのならばそれは自己責任だ。私は関与しないよ……けどもし、それが理由もない乱獲だったとするなら話は別。この国にいる竜でもそうでなくても、種を守るため、君にだって牙を向ける」
竜王の声は徐々に冷たく感情の乏しくなるように聞こえてきた。見据えられるリーシャの背筋にゾクリとした悪寒が走る。
けれどそれは、ほんの一瞬の出来事。竜王はすぐになんでもなかったように声を切り替えた。
それでもなお、竜王の態度は変わらなかった。
「妹っていっても母親が同じってだけだから。私とは生まれた時期が、そうだなぁ、1500は違うだろうし、あまり関わることもないから。ただ、体が強くないから気にはかけるようにはしていてね。それを知っていた彼女が一応報告に来てくれたんだ。どうやら数日前に、外へ遊びに出てから戻ってきていないらしい」
「そんな……家族なのに……」
「君たち人間の家族という概念はよくわからないけど、私たち竜にとって守るべき相手は番だけ。私は全ての上に立つ者として、助けを乞われればよく知らない子だろうと手を差し伸べるし、種を絶やさないために必要な最低限の事はする。国という体制をとるようになって協力し合う事は増えてきたけど、本来それが己の住処を守ってきた私たちにとっての本能なんだよ」
「え、でも……」
リーシャは竜王の言葉とノアたちの姿に齟齬を感じ、素直には受け入れられなかった。竜王の言うように、竜にとって親兄弟という繋がりが本当に希薄な物ならば、ノアたち兄弟が互いに離れようとしない事と矛盾している。
リーシャの視線がちらりとノアたちの方を向くと、竜王は何を言いたいのか察したようだ。
「彼らが異例なんだよ。まず、彼らが生まれた時期は同じでしょう? 本来なら複数の卵が同時に孵るなんて無いに等しい。1つも孵らない事だって多いんだ。そしてこの子たちは生まれてからずっと同じ住処で暮らしていたんじゃないかい?」
「はい。この子たちの親の竜は農家を荒らしていたので、討伐の依頼があって……私もその討伐に参加していました。討伐後に近くの森の中を歩いていたら偶然、まだ卵から孵ったばかりのこの子たちを見つけて。そこからはずっと私がお世話をしていました」
竜王の反応を気にして、心臓をバクバクさせながらリーシャは真実を話した。竜の討伐に参加していた事に不快感を示してくるかと思っていたけれど、反応はあっさりとしたものだった。
「うん、やっぱりそれが1番の原因だろうね」
「えっ……」
妹竜に対する考えを吐露され、あまり他の竜に対する関心がないという事は感じ取っていた。けれど多少なりとも不快な顔をされると思っていたため、予想外な反応にリーシャが拍子抜けな顔になった。
その表情に気がついた竜王は不思議そうに尋ねた。
「ん? どうかしたのかい?」
「あ、いえ。怒って唸られるんじゃないかって思ってたので……なんというか、ちょっとびっくりして」
「討伐に参加していたという話の事かな?」
「はい」
「まあ一応君と私たちは種族が違うし、一方的な殺戮ってわけじゃないなら、私個人としてはまあ気にはならないかな。私にとってその話は他人の事だから生死にはあまり興味はないし、先に手を出したのが同胞というのならばそれは自己責任だ。私は関与しないよ……けどもし、それが理由もない乱獲だったとするなら話は別。この国にいる竜でもそうでなくても、種を守るため、君にだって牙を向ける」
竜王の声は徐々に冷たく感情の乏しくなるように聞こえてきた。見据えられるリーシャの背筋にゾクリとした悪寒が走る。
けれどそれは、ほんの一瞬の出来事。竜王はすぐになんでもなかったように声を切り替えた。
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