上 下
316 / 419
竜の国

竜の家族と3兄弟(1)

しおりを挟む
 妹竜に危険が及んでいるかもしれないというのに、竜王の口調はあまりにも他人事のようだった。リーシャの方が数十倍は慌てていて、どちらの妹の話をしているのかわからなくなりそうなほど。
 それでもなお、竜王の態度は変わらなかった。

「妹っていっても母親が同じってだけだから。私とは生まれた時期が、そうだなぁ、1500は違うだろうし、あまり関わることもないから。ただ、体が強くないから気にはかけるようにはしていてね。それを知っていた彼女が一応報告に来てくれたんだ。どうやら数日前に、外へ遊びに出てから戻ってきていないらしい」
「そんな……家族なのに……」
「君たち人間の家族という概念はよくわからないけど、私たち竜にとって守るべき相手は番だけ。私は全ての上に立つ者として、助けを乞われればよく知らない子だろうと手を差し伸べるし、種を絶やさないために必要な最低限の事はする。国という体制をとるようになって協力し合う事は増えてきたけど、本来それが己の住処を守ってきた私たちにとっての本能なんだよ」
「え、でも……」

 リーシャは竜王の言葉とノアたちの姿に齟齬を感じ、素直には受け入れられなかった。竜王の言うように、竜にとって親兄弟という繋がりが本当に希薄な物ならば、ノアたち兄弟が互いに離れようとしない事と矛盾している。
 リーシャの視線がちらりとノアたちの方を向くと、竜王は何を言いたいのか察したようだ。

「彼らが異例なんだよ。まず、彼らが生まれた時期は同じでしょう? 本来なら複数の卵が同時に孵るなんて無いに等しい。1つも孵らない事だって多いんだ。そしてこの子たちは生まれてからずっと同じ住処で暮らしていたんじゃないかい?」
「はい。この子たちの親の竜は農家を荒らしていたので、討伐の依頼があって……私もその討伐に参加していました。討伐後に近くの森の中を歩いていたら偶然、まだ卵から孵ったばかりのこの子たちを見つけて。そこからはずっと私がお世話をしていました」

 竜王の反応を気にして、心臓をバクバクさせながらリーシャは真実を話した。竜の討伐に参加していた事に不快感を示してくるかと思っていたけれど、反応はあっさりとしたものだった。

「うん、やっぱりそれが1番の原因だろうね」
「えっ……」

 妹竜に対する考えを吐露され、あまり他の竜に対する関心がないという事は感じ取っていた。けれど多少なりとも不快な顔をされると思っていたため、予想外な反応にリーシャが拍子抜けな顔になった。
 その表情に気がついた竜王は不思議そうに尋ねた。

「ん? どうかしたのかい?」
「あ、いえ。怒って唸られるんじゃないかって思ってたので……なんというか、ちょっとびっくりして」
「討伐に参加していたという話の事かな?」
「はい」
「まあ一応君と私たちは種族が違うし、一方的な殺戮ってわけじゃないなら、私個人としてはまあ気にはならないかな。私にとってその話は他人の事だから生死にはあまり興味はないし、先に手を出したのが同胞というのならばそれは自己責任だ。私は関与しないよ……けどもし、それが理由もない乱獲だったとするなら話は別。この国にいる竜でもそうでなくても、種を守るため、君にだって牙を向ける」

 竜王の声は徐々に冷たく感情の乏しくなるように聞こえてきた。見据えられるリーシャの背筋にゾクリとした悪寒が走る。
 けれどそれは、ほんの一瞬の出来事。竜王はすぐになんでもなかったように声を切り替えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...