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竜の国

ひとやすみ(4)

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「近い周囲には人間の集落もない。人間が好んで住むような場所でもないからな」
「って言うと、やっぱり国は高い山の上とかですか?」
「まあ、そんなところだ。果てしなく続く森林の中に聳え立つ岩山の中だ。山の頂上が窪みになっていてな。空からしか入れないようになっているのさ」
「なるほど」
「ああ、そうそう。国と言っても、人間が暮らしているような住処はないぞ? 山の岩肌にそれぞれが穴を開けて作った寝床があるくらいだ」
「じゃあ、普段は何してるんですか? 寝床しかないって言うならやっぱり頻繁に外の世界に出たりしてるんですか?」

 知りたいことが多くて、リーシャの警戒心は吹き飛び、体は質問を重ねるごとにどんどん前のめりになっていく。この好奇心の強さにノアは頭を抱えていた。
 迫られているファイドラスの方は単調に笑った。

「ははっ。興味津々だな」

 面白がられているわけではない笑いに、リーシャはハッと我に返った。

「あっ、すみません。やっぱり、人間に安易に教えたりはできませんよね……」

 次から次へと質問をぶつけ過ぎて怪しまれたかもしれない。よくて引かれたといったところだろう。
 リーシャが即座に謝ると、ファイドラスの笑いが柔らかくなった。

「いや。その程度の事なら何ら問題はない。故に謝る必要もない。ただ思った以上に食い入るように聞いてくるから、少々驚いただけだ。国に住む竜たちが普段何しているかという疑問だったな。そうだな、私の場合は空を飛びまわり、周囲の森で狩りをし、暇なときは日の当たるところで昼寝をして、といったところだ。周囲の森へも人間は近づかないから、わりと自由に出入りはしていた。ただ、あまり頻繁に遠出はした事はない。人間に出くわし、感づかれる危険があるからな。他の者も大して変わらないだろう」
「そうなんですね。ありがとうございました……」

 知りたいという思いが湧いてくるのはいつもの事。けれど、どことなくいつも以上に自分が抑えられていないような気がしたリーシャは羞恥を隠したくて両手で顔を覆った。
 そんなリーシャを見ていたファイドラスが口をひらいた。

「さて、欲求を満たせたなら、お嬢さんもひと眠りしたらどうだい? 見るからに魔力とやらもかなり減っているようだ。彼らの側では安心できないというのなら、私の傍へ来るといい。起きるまで手出しされないように見張っていてやるぞ?」
「いえ、大丈夫です。寝た方がいいって言うなら、ここで横になるので。あ、もしよければノアが意地悪しないように見張っててもらえると」
「ああ、かまわないよ」
「ありがとう。お願いします」

 リーシャは不満そうな顔をするノアの横で体を倒した。そしてノアの顔を見上げて微笑んだ。

「おやすみ」
「ああ、おやすみ」

 ノアの手が眠ろうとするリーシャの頭を優しく撫でていった。
 リーシャは自分でも驚くほどに疲れていたようで、目を閉じるとすぐに意識が眠りの海へと沈んでいった。ノアとファイドラスはその後も何かを話していたようだったけれど、リーシャの耳には全く届いてはいなかった。




 数時間後――
 
 リーシャが目覚めた時、離れて眠るルシアの腕の中ではエリアルが眠っていた。どうやらこれはリーシャがともに寝ていない時のいつもの光景のようで、目覚めたエリアルは文句を言うことなく腕から抜け出し、何事もなかったようにリーシャの傍へと寄って行った。
 その後続けてルシアも目覚め、一向は再び目的地に向けて飛び立った。
 飛び立ってすぐにはるか先まで続く森が見えてきた。どうやらそこが竜の国を囲んでいるという大森林のようだ。そして休息を終えて半日も経たないうちに、森林の先に巨大な岩山が見えてきた。
 ファイドラスがリーシャたちの方へと視線を向けた。

「見えたぞ。竜の国はあの岩山の中だ」
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