310 / 419
竜の国
ひとやすみ(4)
しおりを挟む
「近い周囲には人間の集落もない。人間が好んで住むような場所でもないからな」
「って言うと、やっぱり国は高い山の上とかですか?」
「まあ、そんなところだ。果てしなく続く森林の中に聳え立つ岩山の中だ。山の頂上が窪みになっていてな。空からしか入れないようになっているのさ」
「なるほど」
「ああ、そうそう。国と言っても、人間が暮らしているような住処はないぞ? 山の岩肌にそれぞれが穴を開けて作った寝床があるくらいだ」
「じゃあ、普段は何してるんですか? 寝床しかないって言うならやっぱり頻繁に外の世界に出たりしてるんですか?」
知りたいことが多くて、リーシャの警戒心は吹き飛び、体は質問を重ねるごとにどんどん前のめりになっていく。この好奇心の強さにノアは頭を抱えていた。
迫られているファイドラスの方は単調に笑った。
「ははっ。興味津々だな」
面白がられているわけではない笑いに、リーシャはハッと我に返った。
「あっ、すみません。やっぱり、人間に安易に教えたりはできませんよね……」
次から次へと質問をぶつけ過ぎて怪しまれたかもしれない。よくて引かれたといったところだろう。
リーシャが即座に謝ると、ファイドラスの笑いが柔らかくなった。
「いや。その程度の事なら何ら問題はない。故に謝る必要もない。ただ思った以上に食い入るように聞いてくるから、少々驚いただけだ。国に住む竜たちが普段何しているかという疑問だったな。そうだな、私の場合は空を飛びまわり、周囲の森で狩りをし、暇なときは日の当たるところで昼寝をして、といったところだ。周囲の森へも人間は近づかないから、わりと自由に出入りはしていた。ただ、あまり頻繁に遠出はした事はない。人間に出くわし、感づかれる危険があるからな。他の者も大して変わらないだろう」
「そうなんですね。ありがとうございました……」
知りたいという思いが湧いてくるのはいつもの事。けれど、どことなくいつも以上に自分が抑えられていないような気がしたリーシャは羞恥を隠したくて両手で顔を覆った。
そんなリーシャを見ていたファイドラスが口をひらいた。
「さて、欲求を満たせたなら、お嬢さんもひと眠りしたらどうだい? 見るからに魔力とやらもかなり減っているようだ。彼らの側では安心できないというのなら、私の傍へ来るといい。起きるまで手出しされないように見張っていてやるぞ?」
「いえ、大丈夫です。寝た方がいいって言うなら、ここで横になるので。あ、もしよければノアが意地悪しないように見張っててもらえると」
「ああ、かまわないよ」
「ありがとう。お願いします」
リーシャは不満そうな顔をするノアの横で体を倒した。そしてノアの顔を見上げて微笑んだ。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ノアの手が眠ろうとするリーシャの頭を優しく撫でていった。
リーシャは自分でも驚くほどに疲れていたようで、目を閉じるとすぐに意識が眠りの海へと沈んでいった。ノアとファイドラスはその後も何かを話していたようだったけれど、リーシャの耳には全く届いてはいなかった。
数時間後――
リーシャが目覚めた時、離れて眠るルシアの腕の中ではエリアルが眠っていた。どうやらこれはリーシャがともに寝ていない時のいつもの光景のようで、目覚めたエリアルは文句を言うことなく腕から抜け出し、何事もなかったようにリーシャの傍へと寄って行った。
その後続けてルシアも目覚め、一向は再び目的地に向けて飛び立った。
飛び立ってすぐにはるか先まで続く森が見えてきた。どうやらそこが竜の国を囲んでいるという大森林のようだ。そして休息を終えて半日も経たないうちに、森林の先に巨大な岩山が見えてきた。
ファイドラスがリーシャたちの方へと視線を向けた。
「見えたぞ。竜の国はあの岩山の中だ」
「って言うと、やっぱり国は高い山の上とかですか?」
「まあ、そんなところだ。果てしなく続く森林の中に聳え立つ岩山の中だ。山の頂上が窪みになっていてな。空からしか入れないようになっているのさ」
「なるほど」
「ああ、そうそう。国と言っても、人間が暮らしているような住処はないぞ? 山の岩肌にそれぞれが穴を開けて作った寝床があるくらいだ」
「じゃあ、普段は何してるんですか? 寝床しかないって言うならやっぱり頻繁に外の世界に出たりしてるんですか?」
知りたいことが多くて、リーシャの警戒心は吹き飛び、体は質問を重ねるごとにどんどん前のめりになっていく。この好奇心の強さにノアは頭を抱えていた。
迫られているファイドラスの方は単調に笑った。
「ははっ。興味津々だな」
面白がられているわけではない笑いに、リーシャはハッと我に返った。
「あっ、すみません。やっぱり、人間に安易に教えたりはできませんよね……」
次から次へと質問をぶつけ過ぎて怪しまれたかもしれない。よくて引かれたといったところだろう。
リーシャが即座に謝ると、ファイドラスの笑いが柔らかくなった。
「いや。その程度の事なら何ら問題はない。故に謝る必要もない。ただ思った以上に食い入るように聞いてくるから、少々驚いただけだ。国に住む竜たちが普段何しているかという疑問だったな。そうだな、私の場合は空を飛びまわり、周囲の森で狩りをし、暇なときは日の当たるところで昼寝をして、といったところだ。周囲の森へも人間は近づかないから、わりと自由に出入りはしていた。ただ、あまり頻繁に遠出はした事はない。人間に出くわし、感づかれる危険があるからな。他の者も大して変わらないだろう」
「そうなんですね。ありがとうございました……」
知りたいという思いが湧いてくるのはいつもの事。けれど、どことなくいつも以上に自分が抑えられていないような気がしたリーシャは羞恥を隠したくて両手で顔を覆った。
そんなリーシャを見ていたファイドラスが口をひらいた。
「さて、欲求を満たせたなら、お嬢さんもひと眠りしたらどうだい? 見るからに魔力とやらもかなり減っているようだ。彼らの側では安心できないというのなら、私の傍へ来るといい。起きるまで手出しされないように見張っていてやるぞ?」
「いえ、大丈夫です。寝た方がいいって言うなら、ここで横になるので。あ、もしよければノアが意地悪しないように見張っててもらえると」
「ああ、かまわないよ」
「ありがとう。お願いします」
リーシャは不満そうな顔をするノアの横で体を倒した。そしてノアの顔を見上げて微笑んだ。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ノアの手が眠ろうとするリーシャの頭を優しく撫でていった。
リーシャは自分でも驚くほどに疲れていたようで、目を閉じるとすぐに意識が眠りの海へと沈んでいった。ノアとファイドラスはその後も何かを話していたようだったけれど、リーシャの耳には全く届いてはいなかった。
数時間後――
リーシャが目覚めた時、離れて眠るルシアの腕の中ではエリアルが眠っていた。どうやらこれはリーシャがともに寝ていない時のいつもの光景のようで、目覚めたエリアルは文句を言うことなく腕から抜け出し、何事もなかったようにリーシャの傍へと寄って行った。
その後続けてルシアも目覚め、一向は再び目的地に向けて飛び立った。
飛び立ってすぐにはるか先まで続く森が見えてきた。どうやらそこが竜の国を囲んでいるという大森林のようだ。そして休息を終えて半日も経たないうちに、森林の先に巨大な岩山が見えてきた。
ファイドラスがリーシャたちの方へと視線を向けた。
「見えたぞ。竜の国はあの岩山の中だ」
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった
むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。
✳✳✳
夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。
目覚めた場所は小さな泉の辺り。
転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。
何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?!
だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。
本編完結済み。たまに番外編投稿します。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる