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竜の国

竜への認識(2)

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 リーシャが戸惑って口を閉じていると、反応を待っていたであろうルシアが口を開いた。

「まあいいや。これからどうすんだ? あと緑のヤツが2匹残ってるけど、お前ヘロヘロだし、大丈夫なのか?」
「ほんとだね。どうしよ……」
「どうしよって……お前なぁ」

 リーシャの魔力はほぼ底をついている。このまま連戦をとはいかない。
 エリアルの方は魔法を使えるだけの魔力は残っているけれど、竜を閉じ込める結界を1匹ずつ解いたとしても、ずっと1人で戦わせるというのは荷が重いだろう。
 そうなるとリーシャの魔力がある程度回復するまで、スコッチに2匹の風竜の動きを封じていてもらうのが最善のはずだ。幸いにも、スコッチの結界は内側から風竜たちの攻撃を受け続けてもびくともしていない。

「ルシア。いったんフェンリルのところに戻ってくれる? このまま風竜の結界を解くのは……」
「グルアァァァァァァァァ!」

 リーシャが指示を出そうとした時、耳を覆いたくなるほどの大きな咆哮が上がった。咆哮は1つ。どうやら王都の外から聞こえてきたようだ。
 辺りを見渡すと赤い竜が1匹、フラフラとどこかへ飛び去って行く姿があった。おそらくその竜は王都を襲撃してきた火竜。残り1匹とその2匹と戦っていたはずのファイドラスの姿は見えなかった。
 すると今度は近くで別の竜の叫びが上がった。先ほどまで王都の方に向かって結界を破ろうとしていた風竜2匹が、飛び去る火竜の方へと向きを変え、息吹を放っていた。息吹が結界に阻まれ続けると、声を上げながら今度は体当たりをし始める。まるで火竜の後を追おうとしているようだ。

「ルシア。さっきのすごく大きな竜の声、なんて言ってた?」
「ん? 火竜のだったら、退却って感じの意味合いだったぞ。んで、残ってる緑色のやつらはここから出せとか待ってくれって言ってる。とりあえず、ここを攻撃するのは諦めたみたいだな」
「そう。よかった」

 リーシャはほっと息を零した。
 残りの竜たちが去ってくれるというのなら、これ以上拘束し続ける必要はない。

「ルシア。スコッチさんのところに戻って。あの結界を解いてもらおう」
「いいのか?」
「うん。戦わずにすむなら、それに越した事はないから」
「ふーん。リーシャがいいならいいけど」

 ルシアはそう言うと空をぐるりと旋回し、リーシャの指示に従って地上へと高度を下げ始めた。
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