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竜の国
戦場と化した王都(2)
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5匹の竜とほぼ同じ大きさへと戻ったファイドラスは小さい方の火竜の喉元に暗い付き、さらにそのままもう1匹の火竜の首を手でがっしりと掴んで王都の壁の外へと連れ去った。
これで王都へと攻撃する竜は残り3匹。けれどまだまだ戦力差は大きい。
「ところでリーシャ、ノアとルシアはどうした」
フェンリルが問いかけた。
「ノアは、空を飛んだ方が早いからってエリアルに私を運ばせて、自分は走って戻るって。ルシアは、今日はディフェルドさんのところへ修行しに行ったよ」
「ノアはいないのか。飛べないと言っても、アイツがいるといないとじゃあ、だいぶ戦力が違うんだがな……仕方ない。ルアード、とりあえずお前は王都にいるルシアの方を探してこい」
ルアードと呼ばれた青年はビクつきながらも「はい」と返事をすると、魔道具工房がある方角へ向かって駆けて行った。
フェンリルは口元に手を当て、悩み始めた。
そうしている間にも結界にひびが入る速度が速くなってきている。魔法使いたちの魔力の限界が近いようだ。
「どうするかな……そうだ。なあリーシャ、シャノウはどうだ? 連れて来てるんだろ?」
「連れては来てるけど、助けてくれるかな……どっちかというと、襲ってきた竜たちと似たような思考してるし。一応は聞いてみるけど」
リーシャはカルディスの指輪に向かって念じるように話しかけた。
「シャノウさん。お願いがあるんですけど、聞こえてますか? シャノウさん?」
何度も呼びかけるけれど、シャノウからの返事はない。
シャノウは指輪の中にいても周りの音は聞いているようなので、今がどういう状況はわかっているはずだ。それなのに返事をしないという事は、協力するつもりはないという無言の意思表示なのだろう。
リーシャは首を横に振った。
「やっぱりだめ。返事すらしてくれない」
「そうか」
フェンリルも期待はしていなかったようで、声は冷静だった。
「仕方ない。人命優先だ。殺さないようにとか考えてる場合じゃないな。リーシャ、すまないが竜1体の相手を頼まれてくれるか? 最悪殺すことになっても構わない。全力で行ってくれ」
「いいけど……期待はしないでね」
「わかってる」
「それで? 他の2匹は? 算段はあるの?」
「正直なところない。あの高さだ。ろくにこっちの攻撃は当たらないだろうからな。とりあえずは俺の隊の半数を、今結界張ってるやつらと交代させて守りを強化。残りの半数で魔法攻撃ってところだ」
見上げる先にいる竜たちはかなり上空を飛んでいる。並みの魔法使いでは、あの高さまで魔法が届くとは思えない。優秀な魔法使いでも、地上からでは標的に攻撃を当てるのは至難の業だろう。
「……ねぇ、上手くいくかわからないけど、私が戦ってる間、結界で2匹の動きを封じるとかはできないかな? それに私が倒せなくても、もしかしたらファイさん、さっきの火竜がその間に追い払ってくれるかもしれないし」
「出来なくはないだろうが、その場合だと王都の守りが手薄になっちまう。お前らの乱闘の流れ弾が降って来たら被害が尋常じゃなくなるんだが……」
「そうだった」
王都の守りを考慮していなかったリーシャは、余計なことを言ってしまったと後悔した。
すると肩をツンツンと突かれた。
「なに? エリアル?」
「あのさ、結界ならスコッチのおじちゃんに頼んでみたら? おじちゃん結界得意でしょ?」
「!」
リーシャは名案だと思い、目を見開いた。けれど、すぐにその案の大きな穴に気がつき、冷静になった。
「ううん。それは無理だと思う。さすがに池からここまでの距離を考えたら……いくらスコッチさんが結界得意でも、距離が遠い分必要な魔力量が尋常じゃないから、届かないと思う。それに仮に届いたとしても攻撃に耐えられる強度じゃないはずだよ」
「でもさ、スコッチのおじちゃんに頼まなくても状況変わんなそうなら、聞くだけ聞いてみた方が良いんじゃない? いろいろ知ってるし、手伝ってくれるかもよ?」
リーシャはそれもありかもしれないと思った。
結界と一括りに言っても、相手を拘束したり、攻撃から身を守る一般的に使われているものだけではなく、空間を歪ませ入り込んだものを彷徨わせるような変わったものまである。
もしかするとスコッチが扱える変わった結界の中に、距離の影響を気にせず、現状打破を可能とする結界もあるかもしれない。
それにそんな結界はなかったとしても、知恵の回るスコッチならば、リーシャには思いつかない方法を思いつくかもしれない。
「……そうだね。わかった。じゃあエリアルはスコッチさんにどうにかこの状況を切り抜けそうな手がないか、聞いて来てもらってもいい?」
「うん! まっかせといてー」
エリアルは嬉しそうな表情をし、人の姿のまま翼を出し、宙へ飛び上がった。
「じゃあ、おじちゃんのとこ行ってくるね」
「お願いね」
「はーい!」
エリアルは元気な返事をすると、急いでスコッチのいる池へと向かって飛んで行った。
これで王都へと攻撃する竜は残り3匹。けれどまだまだ戦力差は大きい。
「ところでリーシャ、ノアとルシアはどうした」
フェンリルが問いかけた。
「ノアは、空を飛んだ方が早いからってエリアルに私を運ばせて、自分は走って戻るって。ルシアは、今日はディフェルドさんのところへ修行しに行ったよ」
「ノアはいないのか。飛べないと言っても、アイツがいるといないとじゃあ、だいぶ戦力が違うんだがな……仕方ない。ルアード、とりあえずお前は王都にいるルシアの方を探してこい」
ルアードと呼ばれた青年はビクつきながらも「はい」と返事をすると、魔道具工房がある方角へ向かって駆けて行った。
フェンリルは口元に手を当て、悩み始めた。
そうしている間にも結界にひびが入る速度が速くなってきている。魔法使いたちの魔力の限界が近いようだ。
「どうするかな……そうだ。なあリーシャ、シャノウはどうだ? 連れて来てるんだろ?」
「連れては来てるけど、助けてくれるかな……どっちかというと、襲ってきた竜たちと似たような思考してるし。一応は聞いてみるけど」
リーシャはカルディスの指輪に向かって念じるように話しかけた。
「シャノウさん。お願いがあるんですけど、聞こえてますか? シャノウさん?」
何度も呼びかけるけれど、シャノウからの返事はない。
シャノウは指輪の中にいても周りの音は聞いているようなので、今がどういう状況はわかっているはずだ。それなのに返事をしないという事は、協力するつもりはないという無言の意思表示なのだろう。
リーシャは首を横に振った。
「やっぱりだめ。返事すらしてくれない」
「そうか」
フェンリルも期待はしていなかったようで、声は冷静だった。
「仕方ない。人命優先だ。殺さないようにとか考えてる場合じゃないな。リーシャ、すまないが竜1体の相手を頼まれてくれるか? 最悪殺すことになっても構わない。全力で行ってくれ」
「いいけど……期待はしないでね」
「わかってる」
「それで? 他の2匹は? 算段はあるの?」
「正直なところない。あの高さだ。ろくにこっちの攻撃は当たらないだろうからな。とりあえずは俺の隊の半数を、今結界張ってるやつらと交代させて守りを強化。残りの半数で魔法攻撃ってところだ」
見上げる先にいる竜たちはかなり上空を飛んでいる。並みの魔法使いでは、あの高さまで魔法が届くとは思えない。優秀な魔法使いでも、地上からでは標的に攻撃を当てるのは至難の業だろう。
「……ねぇ、上手くいくかわからないけど、私が戦ってる間、結界で2匹の動きを封じるとかはできないかな? それに私が倒せなくても、もしかしたらファイさん、さっきの火竜がその間に追い払ってくれるかもしれないし」
「出来なくはないだろうが、その場合だと王都の守りが手薄になっちまう。お前らの乱闘の流れ弾が降って来たら被害が尋常じゃなくなるんだが……」
「そうだった」
王都の守りを考慮していなかったリーシャは、余計なことを言ってしまったと後悔した。
すると肩をツンツンと突かれた。
「なに? エリアル?」
「あのさ、結界ならスコッチのおじちゃんに頼んでみたら? おじちゃん結界得意でしょ?」
「!」
リーシャは名案だと思い、目を見開いた。けれど、すぐにその案の大きな穴に気がつき、冷静になった。
「ううん。それは無理だと思う。さすがに池からここまでの距離を考えたら……いくらスコッチさんが結界得意でも、距離が遠い分必要な魔力量が尋常じゃないから、届かないと思う。それに仮に届いたとしても攻撃に耐えられる強度じゃないはずだよ」
「でもさ、スコッチのおじちゃんに頼まなくても状況変わんなそうなら、聞くだけ聞いてみた方が良いんじゃない? いろいろ知ってるし、手伝ってくれるかもよ?」
リーシャはそれもありかもしれないと思った。
結界と一括りに言っても、相手を拘束したり、攻撃から身を守る一般的に使われているものだけではなく、空間を歪ませ入り込んだものを彷徨わせるような変わったものまである。
もしかするとスコッチが扱える変わった結界の中に、距離の影響を気にせず、現状打破を可能とする結界もあるかもしれない。
それにそんな結界はなかったとしても、知恵の回るスコッチならば、リーシャには思いつかない方法を思いつくかもしれない。
「……そうだね。わかった。じゃあエリアルはスコッチさんにどうにかこの状況を切り抜けそうな手がないか、聞いて来てもらってもいい?」
「うん! まっかせといてー」
エリアルは嬉しそうな表情をし、人の姿のまま翼を出し、宙へ飛び上がった。
「じゃあ、おじちゃんのとこ行ってくるね」
「お願いね」
「はーい!」
エリアルは元気な返事をすると、急いでスコッチのいる池へと向かって飛んで行った。
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