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竜の国
急ぎ王都へ(2)
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空高く飛び上がると、森の先にクレドニアムが見えた。既に戦闘が始まっているようで、飛び交う魔法と竜の息吹がぶつかり、大きな爆発を起こしている。
「エリアル!」
「うん、急ぐね」
エリアルはクレドニアムに向かって猛スピードで飛び出した。
リーシャは落とされないよう、エリアルの首にひしとしがみついた。
ふと、もう1匹の竜とはどんな竜だろうと思い、リーシャは自分たちが飛んできた方角を確認してみた。距離があるのか竜のような巨大な影は見当たらない。
まだ遠くにいるのだろうと一安心した時の事だった。いつの間にかほぼ真横を並走する何かの翼が視界に入った。
(追いつかれてた⁉)
リーシャは翼を持つモノの本体に視線を移した。しかしその影はリーシャが思っていた姿ではなかった。魔物や鳥の姿でもない。
赤髪の人の姿に、赤い翼。リーシャにはその姿に見覚えがあった。といっても、はっきり覚えているわけではなく、この姿に該当するのは彼しかいないと直感したのだった。
(ファイさん⁉)
リーシャは慌ててエリアルの背を叩いた。
「エリアル、止まって!」
「今それどころじゃないからちょっと待って!」
エリアルも並走されていることには気がついているようで、飛ぶ速度を緩めなかった。
「いいから止まって! 大丈夫だから!」
「えっ、あっう、うん!」
リーシャの必死な声にエリアルが速度を緩めると、並走するファイドラスも速度を緩めた。
「ファイさん!」
「やはりお前は……以前に会った人間か?」
「そうです!」
「そうか。私の名を知っているという事は王と会ったのか。その雄は以前の、と言いたいところだが別のようだな。あの雄の身内といったところか?」
「はい、この子はあの時に一緒にいたルシアの弟で、エリアルっていいます」
「兄弟竜か。本当にいたのだな」
ファイドラスがちらっと見ると、エリアルはビクッと体を震わせた。エリアルにとってファイドラスは得体のしれない危険な竜でしかない。
「ねぇちゃん、このにぃちゃん、だぁれ?」
「この人、というか竜はファイドラスさん。だいぶ前にルシアと森の中で狩りをしてたら、人の姿をした火竜にあったって言った事があるの覚えてる?」
「うーん、あったような……」
「その竜がファイさんなの」
「じゃあ、怖い竜じゃない?」
「それは……」
大丈夫だとは言えなかった。
知っている竜だったとはいえ、ファイドラスも人間に良い感情を持っていない事は間違いないのだ。
リーシャは恐る恐る尋ねた。
「あの、ファイさんはどうしてここに? もしかしてファイさんも王都を?」
「王都とはあそこにある人間の集落の事か?」
「はい」
「たしかに現状で用があるのはあの場所だが、お前が思っているような用件があるわけではない」
「そうですか」
リーシャは胸を撫で下ろした。
よくよく考えてみれば、ファイドラスは人間を憎みはしていても、どちらかというと人間との争いは望んでいないような口ぶりだったように思えた。
するとファイドラスが鋭い視線で王都のある方角を見た。
「むしろ、もしかするとあの地へ向かう理由はお前と似ているかもしれないが……」
「どういう事ですか?」
「なに、ちょっとした仕返しをしてやろうと思ってな」
「仕返し?」
「それはだな……いや、話は後にしよう。早く行かなければ、あの集落が消えてなくなるだろう。私にはどうでもよい事ではあるが、お前は違うだろう?」
たしかにこうしている間にもクレドニアムからは爆音が聞こえ続けている。正直言って、竜5匹を相手にこれほどの時間耐えているのが奇跡なのだ。
(早く戻らないと皆が!)
王都の住人、そしてギルドの仲間の事を案じ、リーシャはエリアルにすがるような視線を向けた。
「エリアルお願い」
「うん、わかった! いっくよー!」
リーシャが首にしっかりとしがみつくと、エリアルはファイドラスと共に王都に向けて再び飛行を始めた。
「エリアル!」
「うん、急ぐね」
エリアルはクレドニアムに向かって猛スピードで飛び出した。
リーシャは落とされないよう、エリアルの首にひしとしがみついた。
ふと、もう1匹の竜とはどんな竜だろうと思い、リーシャは自分たちが飛んできた方角を確認してみた。距離があるのか竜のような巨大な影は見当たらない。
まだ遠くにいるのだろうと一安心した時の事だった。いつの間にかほぼ真横を並走する何かの翼が視界に入った。
(追いつかれてた⁉)
リーシャは翼を持つモノの本体に視線を移した。しかしその影はリーシャが思っていた姿ではなかった。魔物や鳥の姿でもない。
赤髪の人の姿に、赤い翼。リーシャにはその姿に見覚えがあった。といっても、はっきり覚えているわけではなく、この姿に該当するのは彼しかいないと直感したのだった。
(ファイさん⁉)
リーシャは慌ててエリアルの背を叩いた。
「エリアル、止まって!」
「今それどころじゃないからちょっと待って!」
エリアルも並走されていることには気がついているようで、飛ぶ速度を緩めなかった。
「いいから止まって! 大丈夫だから!」
「えっ、あっう、うん!」
リーシャの必死な声にエリアルが速度を緩めると、並走するファイドラスも速度を緩めた。
「ファイさん!」
「やはりお前は……以前に会った人間か?」
「そうです!」
「そうか。私の名を知っているという事は王と会ったのか。その雄は以前の、と言いたいところだが別のようだな。あの雄の身内といったところか?」
「はい、この子はあの時に一緒にいたルシアの弟で、エリアルっていいます」
「兄弟竜か。本当にいたのだな」
ファイドラスがちらっと見ると、エリアルはビクッと体を震わせた。エリアルにとってファイドラスは得体のしれない危険な竜でしかない。
「ねぇちゃん、このにぃちゃん、だぁれ?」
「この人、というか竜はファイドラスさん。だいぶ前にルシアと森の中で狩りをしてたら、人の姿をした火竜にあったって言った事があるの覚えてる?」
「うーん、あったような……」
「その竜がファイさんなの」
「じゃあ、怖い竜じゃない?」
「それは……」
大丈夫だとは言えなかった。
知っている竜だったとはいえ、ファイドラスも人間に良い感情を持っていない事は間違いないのだ。
リーシャは恐る恐る尋ねた。
「あの、ファイさんはどうしてここに? もしかしてファイさんも王都を?」
「王都とはあそこにある人間の集落の事か?」
「はい」
「たしかに現状で用があるのはあの場所だが、お前が思っているような用件があるわけではない」
「そうですか」
リーシャは胸を撫で下ろした。
よくよく考えてみれば、ファイドラスは人間を憎みはしていても、どちらかというと人間との争いは望んでいないような口ぶりだったように思えた。
するとファイドラスが鋭い視線で王都のある方角を見た。
「むしろ、もしかするとあの地へ向かう理由はお前と似ているかもしれないが……」
「どういう事ですか?」
「なに、ちょっとした仕返しをしてやろうと思ってな」
「仕返し?」
「それはだな……いや、話は後にしよう。早く行かなければ、あの集落が消えてなくなるだろう。私にはどうでもよい事ではあるが、お前は違うだろう?」
たしかにこうしている間にもクレドニアムからは爆音が聞こえ続けている。正直言って、竜5匹を相手にこれほどの時間耐えているのが奇跡なのだ。
(早く戻らないと皆が!)
王都の住人、そしてギルドの仲間の事を案じ、リーシャはエリアルにすがるような視線を向けた。
「エリアルお願い」
「うん、わかった! いっくよー!」
リーシャが首にしっかりとしがみつくと、エリアルはファイドラスと共に王都に向けて再び飛行を始めた。
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