269 / 419
ネクロノーム家
夜明けのとき(1)
しおりを挟む
遠くの空が白み始め、闇の時間は終わりを迎えようとしていた。
まだ消えるには十分な光ではないのか、アンデッドの群れはまだシリウスを襲い続けている。長時間応戦し続けているシリウスの体にはアンデッドたちに付けられた傷が刻まれていた。けれど勝負を左右するほどの大きな傷は負っていない。
魔法の威力は長時間魔法を使用しているため、格段に落ちてきていた。ただ、脆いアンデッドの体はその程度の威力にも耐えきれずにボロボロと零れ落ちる。そして再び地中から現れるといった状況を繰り返していた。
外野にいるリーシャたちは、その耐久戦を息を呑んで見守っていた。まさか自分たちがアンデッドという魔物の勝利を願う羽目になるとは思ってもみなかった。
(お願い……頑張って……)
目の前に迫るリミットに、リーシャは両手を力いっぱい握り合わせながら祈りを捧げた。けれどその願いを天が受け取ってくれる事はなかった。
山陰に隠れていた日がついに顔を出し、リーシャたちのいるところまで光を届けてしまった。
「あ"……あ"あ"あ"あ"……」
神々しい光を浴びたアンデッドは、先ほどにも増して苦し気な声を上げ始めた。体は徐々に砂と化し、1体、また1体と自然へと返っていく。
時間だ。これで動けずにいるエリアルの代わりに戦う戦力はいなくなった。戦いの場にはシリウスと身動き一つせずに座り込んだエリアルの姿だけが残っていた。
シリウスがエリアルの方へとゆっくりと足を進めた。
「エリアル‼ 逃げて‼ エリアルってば‼」
リーシャは焦る声でエリアルを呼び続けた。
シリウスがエリアルに近づく理由がこの戦いの本来の目的とは異なっているような気がしたのだ。ただ決着をつけるためだけではないような、そんな感じだ。
シリウスはエリアルの前に立つと、顔へと手を伸ばした。
「素晴らしい。素晴らしいです。あれが闇の魔力……これは研究のしがいがありそうです」
邪な感情を持つ手が頬に触れた瞬間、エリアルの顔が突然上を向き、伸ばされた手を掴んだ。そして苦し気にニッと笑った。
「近づいて、くれて、ありがとう。にぃちゃんが、今まで使ってた、魔道具、これ、でしょ?」
シリウスは複数の指輪やブレスレッドをしている。
エリアルはその中の透明な石がはめ込まれたブレスレッドを握りしめた。
「なっ! 気づいてっ‼」
「業火の、炎よ!」
わずかに回復したのであろう魔力を精一杯込めて発動させた黒い炎は、あっという間にブレスレッドだけを燃やし尽くした。どうやら闇の炎は生き物だけでなく、金属ですら跡形もなく消し去ってしまうようだ。
「これで、魔法、使えないでしょ?」
シリウスは想定外の事態に目を丸くした。そして、壊れたかのように大声で笑い始めた。
まだ消えるには十分な光ではないのか、アンデッドの群れはまだシリウスを襲い続けている。長時間応戦し続けているシリウスの体にはアンデッドたちに付けられた傷が刻まれていた。けれど勝負を左右するほどの大きな傷は負っていない。
魔法の威力は長時間魔法を使用しているため、格段に落ちてきていた。ただ、脆いアンデッドの体はその程度の威力にも耐えきれずにボロボロと零れ落ちる。そして再び地中から現れるといった状況を繰り返していた。
外野にいるリーシャたちは、その耐久戦を息を呑んで見守っていた。まさか自分たちがアンデッドという魔物の勝利を願う羽目になるとは思ってもみなかった。
(お願い……頑張って……)
目の前に迫るリミットに、リーシャは両手を力いっぱい握り合わせながら祈りを捧げた。けれどその願いを天が受け取ってくれる事はなかった。
山陰に隠れていた日がついに顔を出し、リーシャたちのいるところまで光を届けてしまった。
「あ"……あ"あ"あ"あ"……」
神々しい光を浴びたアンデッドは、先ほどにも増して苦し気な声を上げ始めた。体は徐々に砂と化し、1体、また1体と自然へと返っていく。
時間だ。これで動けずにいるエリアルの代わりに戦う戦力はいなくなった。戦いの場にはシリウスと身動き一つせずに座り込んだエリアルの姿だけが残っていた。
シリウスがエリアルの方へとゆっくりと足を進めた。
「エリアル‼ 逃げて‼ エリアルってば‼」
リーシャは焦る声でエリアルを呼び続けた。
シリウスがエリアルに近づく理由がこの戦いの本来の目的とは異なっているような気がしたのだ。ただ決着をつけるためだけではないような、そんな感じだ。
シリウスはエリアルの前に立つと、顔へと手を伸ばした。
「素晴らしい。素晴らしいです。あれが闇の魔力……これは研究のしがいがありそうです」
邪な感情を持つ手が頬に触れた瞬間、エリアルの顔が突然上を向き、伸ばされた手を掴んだ。そして苦し気にニッと笑った。
「近づいて、くれて、ありがとう。にぃちゃんが、今まで使ってた、魔道具、これ、でしょ?」
シリウスは複数の指輪やブレスレッドをしている。
エリアルはその中の透明な石がはめ込まれたブレスレッドを握りしめた。
「なっ! 気づいてっ‼」
「業火の、炎よ!」
わずかに回復したのであろう魔力を精一杯込めて発動させた黒い炎は、あっという間にブレスレッドだけを燃やし尽くした。どうやら闇の炎は生き物だけでなく、金属ですら跡形もなく消し去ってしまうようだ。
「これで、魔法、使えないでしょ?」
シリウスは想定外の事態に目を丸くした。そして、壊れたかのように大声で笑い始めた。
0
お気に入りに追加
217
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる