魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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ネクロノーム家

夜明けのとき(1)

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 遠くの空が白み始め、闇の時間は終わりを迎えようとしていた。
 まだ消えるには十分な光ではないのか、アンデッドの群れはまだシリウスを襲い続けている。長時間応戦し続けているシリウスの体にはアンデッドたちに付けられた傷が刻まれていた。けれど勝負を左右するほどの大きな傷は負っていない。
 魔法の威力は長時間魔法を使用しているため、格段に落ちてきていた。ただ、脆いアンデッドの体はその程度の威力にも耐えきれずにボロボロと零れ落ちる。そして再び地中から現れるといった状況を繰り返していた。
 外野にいるリーシャたちは、その耐久戦を息を呑んで見守っていた。まさか自分たちがアンデッドという魔物の勝利を願う羽目になるとは思ってもみなかった。

(お願い……頑張って……)

 目の前に迫るリミットに、リーシャは両手を力いっぱい握り合わせながら祈りを捧げた。けれどその願いを天が受け取ってくれる事はなかった。
 山陰に隠れていた日がついに顔を出し、リーシャたちのいるところまで光を届けてしまった。

「あ"……あ"あ"あ"あ"……」

 神々しい光を浴びたアンデッドは、先ほどにも増して苦し気な声を上げ始めた。体は徐々に砂と化し、1体、また1体と自然へと返っていく。
 時間だ。これで動けずにいるエリアルの代わりに戦う戦力はいなくなった。戦いの場にはシリウスと身動き一つせずに座り込んだエリアルの姿だけが残っていた。
 シリウスがエリアルの方へとゆっくりと足を進めた。

「エリアル‼ 逃げて‼ エリアルってば‼」

 リーシャは焦る声でエリアルを呼び続けた。
 シリウスがエリアルに近づく理由がこの戦いの本来の目的とは異なっているような気がしたのだ。ただ決着をつけるためだけではないような、そんな感じだ。
 シリウスはエリアルの前に立つと、顔へと手を伸ばした。

「素晴らしい。素晴らしいです。あれが闇の魔力……これは研究のしがいがありそうです」

 邪な感情を持つ手が頬に触れた瞬間、エリアルの顔が突然上を向き、伸ばされた手を掴んだ。そして苦し気にニッと笑った。

「近づいて、くれて、ありがとう。にぃちゃんが、今まで使ってた、魔道具、これ、でしょ?」

 シリウスは複数の指輪やブレスレッドをしている。
 エリアルはその中の透明な石がはめ込まれたブレスレッドを握りしめた。

「なっ! 気づいてっ‼」
「業火の、炎よ!」

 わずかに回復したのであろう魔力を精一杯込めて発動させた黒い炎は、あっという間にブレスレッドだけを燃やし尽くした。どうやら闇の炎は生き物だけでなく、金属ですら跡形もなく消し去ってしまうようだ。

「これで、魔法、使えないでしょ?」

 シリウスは想定外の事態に目を丸くした。そして、壊れたかのように大声で笑い始めた。
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