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ネクロノーム家
闇と夜明け(1)
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エリアルを襲った炎はあまりの勢いに、周りの木々を燃やし始めていた。炎は徐々に勢いを増していく。
「ああ、失念していました。ここは森の中でしたね」
シリウスは火を纏う木々を見回した。
そしてエリアルの存在を忘れているかのように、広げた掌を天に掲げたかと思うと巨大な水の球を作り出した。そのまま握りつぶすかのような動きをすると水は弾け飛び、周りの炎を鎮火していった。
あれほどの威力がある魔法を使った後にまだこんな大きさの魔法を使えるのかと、リーシャは苦虫をかみつぶしたような表情をした。やはりエリアルが勝てるような相手ではない。
火が完全に消えるとシリウスはようやくエリアルの方を向いた。
「もう諦めてはいかがですが? 勝敗は見えていますよ」
「……」
エリアルの口が開いたり閉じたりしている。何か言っているようだけれど、口からは空気が吐き出されるだけで声になっていなかった。爆風に喉を焼かれたようだ。
エリアルは自分の喉を掴むとその手に魔力を込めた。白い光が舞い始めると喉元の火傷は徐々に消えていった。ただ、エリアルもリーシャ同様回復の魔法は苦手のようで、火傷を完全には消す事はできなかったようだ。
シリウスはエリアルが回復の魔法を使う間、攻撃を仕掛けはしなかった。勝利を確信心しているからだろう。
「あ"ーっ、あ"ー……」
少しかすれはするものの、声が出る事を確認するとエリアルは喉から手を放した。
「まだ、負けてない。僕にはまだ、とっておきの魔法があるん、だもん」
「でしたら出し惜しみなどせずに出すべきでしたね。そこまでボロボロで魔力も底をついたような状態では、そのとっておきという魔法があっても形成の逆転は不可能でしょう」
「できる……」
エリアルの残りの魔力が手に集まり始めた。そして思い切り地面を両手で叩いた。
一瞬土の魔法を使ったのかと思ったけれど、どうも様子が違う。
「来て!」
エリアルの呼ぶ声に何が反応するのかと、その時を待つけれど一向にその時は来ない。辺りは沈黙に包まれていた。
「もしかして、失敗?」
やはりエリアルがシリウスに勝つのは無理だと、リーシャが諦めの色に染められていると、脳に直接響いてくるような声が聞こえた。
『違う。来る』
「えっ?」
シャノウの声が聞こえた直後、エリアルの目の前の地面がひび割れた。しかもそれは1つではなく、無数のひびが現れた。
「な、なに?」
裂け目は広がり、その中心から萎びれた枝のようなものが生えてきた。ぱっと見ではわからなかったけれど、どことなく人間の腕のような形をした枝がいくらか混ざっているようだ。
そしてすぐにそれが“ような”ではないことが明らかになった。
枝の付け根が地表に現れると、さらにその先にあるものが地面を押し破って姿を現した。
続々と姿を現したそれは人間や動物、魔物のミイラのような姿をした生物だった。こんな生き物など見た事はない。もはや魔物と表現した方が適切な姿だ。
地上へと湧き出て、唸りながら目的もなく歩き回る魔物たちに、いつも冷静なシリウスも驚きを隠せずにいた。
「ああ、失念していました。ここは森の中でしたね」
シリウスは火を纏う木々を見回した。
そしてエリアルの存在を忘れているかのように、広げた掌を天に掲げたかと思うと巨大な水の球を作り出した。そのまま握りつぶすかのような動きをすると水は弾け飛び、周りの炎を鎮火していった。
あれほどの威力がある魔法を使った後にまだこんな大きさの魔法を使えるのかと、リーシャは苦虫をかみつぶしたような表情をした。やはりエリアルが勝てるような相手ではない。
火が完全に消えるとシリウスはようやくエリアルの方を向いた。
「もう諦めてはいかがですが? 勝敗は見えていますよ」
「……」
エリアルの口が開いたり閉じたりしている。何か言っているようだけれど、口からは空気が吐き出されるだけで声になっていなかった。爆風に喉を焼かれたようだ。
エリアルは自分の喉を掴むとその手に魔力を込めた。白い光が舞い始めると喉元の火傷は徐々に消えていった。ただ、エリアルもリーシャ同様回復の魔法は苦手のようで、火傷を完全には消す事はできなかったようだ。
シリウスはエリアルが回復の魔法を使う間、攻撃を仕掛けはしなかった。勝利を確信心しているからだろう。
「あ"ーっ、あ"ー……」
少しかすれはするものの、声が出る事を確認するとエリアルは喉から手を放した。
「まだ、負けてない。僕にはまだ、とっておきの魔法があるん、だもん」
「でしたら出し惜しみなどせずに出すべきでしたね。そこまでボロボロで魔力も底をついたような状態では、そのとっておきという魔法があっても形成の逆転は不可能でしょう」
「できる……」
エリアルの残りの魔力が手に集まり始めた。そして思い切り地面を両手で叩いた。
一瞬土の魔法を使ったのかと思ったけれど、どうも様子が違う。
「来て!」
エリアルの呼ぶ声に何が反応するのかと、その時を待つけれど一向にその時は来ない。辺りは沈黙に包まれていた。
「もしかして、失敗?」
やはりエリアルがシリウスに勝つのは無理だと、リーシャが諦めの色に染められていると、脳に直接響いてくるような声が聞こえた。
『違う。来る』
「えっ?」
シャノウの声が聞こえた直後、エリアルの目の前の地面がひび割れた。しかもそれは1つではなく、無数のひびが現れた。
「な、なに?」
裂け目は広がり、その中心から萎びれた枝のようなものが生えてきた。ぱっと見ではわからなかったけれど、どことなく人間の腕のような形をした枝がいくらか混ざっているようだ。
そしてすぐにそれが“ような”ではないことが明らかになった。
枝の付け根が地表に現れると、さらにその先にあるものが地面を押し破って姿を現した。
続々と姿を現したそれは人間や動物、魔物のミイラのような姿をした生物だった。こんな生き物など見た事はない。もはや魔物と表現した方が適切な姿だ。
地上へと湧き出て、唸りながら目的もなく歩き回る魔物たちに、いつも冷静なシリウスも驚きを隠せずにいた。
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