266 / 419
ネクロノーム家
末っ子の意地(3)
しおりを挟む
リーシャたちがシリウスの魔道具について話した後も、エリアルの一方的な攻撃は続いていた。優勢に見えているけれど、エリアルは焦りの表情を浮かべていた。これだけ矛先を向けてもほとんどダメージにならないのだから仕方ない。
逆にシリウスは涼しい顔のままだった。
「素晴らしいですね。あなたほどの実力があれば貴族から声がかかってもおかしくない。人間であれば、の話ですが」
「よくわかんないけど、そんなことはどうでもいいよ! 僕はねぇちゃんを守れればそれでいいんだ! お前になんかにねぇちゃんをあげるもんか!」
「フフフ……そうですか。彼女を諦めてくれるのなら、あなたを私たちの養子として迎え入れるのもよいかと思ったのですが、無理そうですね。このままでは再び牙を向けられかねない。歯向かおうという気を起こさないよう、牙をへし折った方がよさそうだ」
シリウスが指をぱちんと鳴らした。すると小さな赤い球体が人差し指の先に現れた。
シリウスは銃の標準を合わせるかのように指先をエリアルの方へ向けた。
その球がかなりの魔力を圧縮させて作られた球だという事に、リーシャとエリアルは即座に気がついた。
「エリアル‼」
「ノアにぃちゃん‼ ねぇちゃんを‼」
逃げても無駄だと悟ったエリアルは、叫んだと同時に目一杯地面に魔力を注ぎ土の防壁を作り上げた。
ノアはエリアルの焦りようから、今からではリーシャやフェンリルたちを抱えて飛び上がっても攻撃の巻き添えを避ける事は不可能だと察したのだろう。エリアルに駆け寄ろうとするリーシャの事を両腕で抱え込むと、そして背から巨大な竜の翼を伸ばし、他の3人共々覆い隠した。
シリウスが怪しく微笑んだ。
「ばん」
赤い球はエリアルに向けて超スピードで放たれた。弾は防壁に着弾すると同時に破裂し、見た目からは想像できないほどの爆音と爆風を発した。
ノアの防御にも優れた羽に包まれているにもかかわらず、熱が体を突き刺すようだった。
爆風が収まると、リーシャを包み込んでいた腕が解かれた。ほっと息を漏らした次の瞬間、ノアが崩れるように両膝を地面についた。
ノアの開かれた翼は爆発により炭と化し、ボロボロと崩れていった。
「ノア! 翼が‼」
「……かまわない。お前の命に、比べれば、俺の、翼など」
「バカ言わないでよ‼ これじゃあ、もうノアは空飛べないじゃない‼」
「ルシアがいる。エリアルも。あいつらの背を借りれば……」
「そういうこと言ってるんじゃないの‼」
リーシャの目からは大粒の涙が溢れ出た。
(魔法さえ封じられてなかったら、こんなことになんて‼)
これまでで最も胸が張り裂けそうな思いだった。
ノアは指で流れる涙をすくうと、その掌でそっとリーシャの頬を撫でた。
「本当に、大丈夫だ。死にはしない。それより、エリアルの、様子を、見てくれ。目がかすんで、よく、見えない」
すぐ傍にいるノアにばかりにとらわれていたリーシャは、慌てて振り返った。
そこにはどうにかという様子で立つエリアルの姿があった。全身酷い火傷をしていて、目を覆いたくなるほど皮膚がただれていた。とくに首筋の火傷がひどい。
「あ……ああ……いや、エリアル……」
リーシャは駆けだそうとしたけれど、腕を掴まれ前に出る事は許されなかった。
「待て、リーシャ!」
「放してルシア‼ エリアルが‼」
「今行っても何もできないだろ」
「けど!」
ルシアの手に痛いほどの力が込められた。何もできずに悔しいのはルシアも同じ。むしろ守りたい弟の悲惨な姿に1番打ちのめされているのは日々世話を焼いているルシアだろう。
「俺だってすぐに行ってやりたい! けど、まだエリアルは諦めてねえんだ。あいつのリーシャを守りたいって気持ちを無駄にさせないでやってくれ」
「もう……もういいよぉ。私なんかのために。私があの人のところに行けば。みんながもう傷つかずにすむなら……」
「バカ言うな‼ そんなことになったら俺らで人間を滅ぼしてでもお前の事取り返してやる‼ 俺らにとってリーシャ以上に大事なものはねえんだ! ちょっと離れただけでも気が狂いそうになるっていうのに……」
ルシアはリーシャを抱きしめた。まるで壊れそうなものを周りから守ろうとするようだ。
そしてかすれた声で言った。
「今は、信じて待つんだ。エリアルが勝つ。勝てる……って」
ルシアの言葉はリーシャにだけではなく、自分にも言い聞かせているようだった。
逆にシリウスは涼しい顔のままだった。
「素晴らしいですね。あなたほどの実力があれば貴族から声がかかってもおかしくない。人間であれば、の話ですが」
「よくわかんないけど、そんなことはどうでもいいよ! 僕はねぇちゃんを守れればそれでいいんだ! お前になんかにねぇちゃんをあげるもんか!」
「フフフ……そうですか。彼女を諦めてくれるのなら、あなたを私たちの養子として迎え入れるのもよいかと思ったのですが、無理そうですね。このままでは再び牙を向けられかねない。歯向かおうという気を起こさないよう、牙をへし折った方がよさそうだ」
シリウスが指をぱちんと鳴らした。すると小さな赤い球体が人差し指の先に現れた。
シリウスは銃の標準を合わせるかのように指先をエリアルの方へ向けた。
その球がかなりの魔力を圧縮させて作られた球だという事に、リーシャとエリアルは即座に気がついた。
「エリアル‼」
「ノアにぃちゃん‼ ねぇちゃんを‼」
逃げても無駄だと悟ったエリアルは、叫んだと同時に目一杯地面に魔力を注ぎ土の防壁を作り上げた。
ノアはエリアルの焦りようから、今からではリーシャやフェンリルたちを抱えて飛び上がっても攻撃の巻き添えを避ける事は不可能だと察したのだろう。エリアルに駆け寄ろうとするリーシャの事を両腕で抱え込むと、そして背から巨大な竜の翼を伸ばし、他の3人共々覆い隠した。
シリウスが怪しく微笑んだ。
「ばん」
赤い球はエリアルに向けて超スピードで放たれた。弾は防壁に着弾すると同時に破裂し、見た目からは想像できないほどの爆音と爆風を発した。
ノアの防御にも優れた羽に包まれているにもかかわらず、熱が体を突き刺すようだった。
爆風が収まると、リーシャを包み込んでいた腕が解かれた。ほっと息を漏らした次の瞬間、ノアが崩れるように両膝を地面についた。
ノアの開かれた翼は爆発により炭と化し、ボロボロと崩れていった。
「ノア! 翼が‼」
「……かまわない。お前の命に、比べれば、俺の、翼など」
「バカ言わないでよ‼ これじゃあ、もうノアは空飛べないじゃない‼」
「ルシアがいる。エリアルも。あいつらの背を借りれば……」
「そういうこと言ってるんじゃないの‼」
リーシャの目からは大粒の涙が溢れ出た。
(魔法さえ封じられてなかったら、こんなことになんて‼)
これまでで最も胸が張り裂けそうな思いだった。
ノアは指で流れる涙をすくうと、その掌でそっとリーシャの頬を撫でた。
「本当に、大丈夫だ。死にはしない。それより、エリアルの、様子を、見てくれ。目がかすんで、よく、見えない」
すぐ傍にいるノアにばかりにとらわれていたリーシャは、慌てて振り返った。
そこにはどうにかという様子で立つエリアルの姿があった。全身酷い火傷をしていて、目を覆いたくなるほど皮膚がただれていた。とくに首筋の火傷がひどい。
「あ……ああ……いや、エリアル……」
リーシャは駆けだそうとしたけれど、腕を掴まれ前に出る事は許されなかった。
「待て、リーシャ!」
「放してルシア‼ エリアルが‼」
「今行っても何もできないだろ」
「けど!」
ルシアの手に痛いほどの力が込められた。何もできずに悔しいのはルシアも同じ。むしろ守りたい弟の悲惨な姿に1番打ちのめされているのは日々世話を焼いているルシアだろう。
「俺だってすぐに行ってやりたい! けど、まだエリアルは諦めてねえんだ。あいつのリーシャを守りたいって気持ちを無駄にさせないでやってくれ」
「もう……もういいよぉ。私なんかのために。私があの人のところに行けば。みんながもう傷つかずにすむなら……」
「バカ言うな‼ そんなことになったら俺らで人間を滅ぼしてでもお前の事取り返してやる‼ 俺らにとってリーシャ以上に大事なものはねえんだ! ちょっと離れただけでも気が狂いそうになるっていうのに……」
ルシアはリーシャを抱きしめた。まるで壊れそうなものを周りから守ろうとするようだ。
そしてかすれた声で言った。
「今は、信じて待つんだ。エリアルが勝つ。勝てる……って」
ルシアの言葉はリーシャにだけではなく、自分にも言い聞かせているようだった。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった
むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。
✳✳✳
夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。
目覚めた場所は小さな泉の辺り。
転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。
何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?!
だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。
本編完結済み。たまに番外編投稿します。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる