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ネクロノーム家

末っ子の意地(3)

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 リーシャたちがシリウスの魔道具について話した後も、エリアルの一方的な攻撃は続いていた。優勢に見えているけれど、エリアルは焦りの表情を浮かべていた。これだけ矛先を向けてもほとんどダメージにならないのだから仕方ない。
 逆にシリウスは涼しい顔のままだった。

「素晴らしいですね。あなたほどの実力があれば貴族から声がかかってもおかしくない。人間であれば、の話ですが」
「よくわかんないけど、そんなことはどうでもいいよ! 僕はねぇちゃんを守れればそれでいいんだ! お前になんかにねぇちゃんをあげるもんか!」
「フフフ……そうですか。彼女を諦めてくれるのなら、あなたを私たちの養子として迎え入れるのもよいかと思ったのですが、無理そうですね。このままでは再び牙を向けられかねない。歯向かおうという気を起こさないよう、牙をへし折った方がよさそうだ」

 シリウスが指をぱちんと鳴らした。すると小さな赤い球体が人差し指の先に現れた。
 シリウスは銃の標準を合わせるかのように指先をエリアルの方へ向けた。
 その球がかなりの魔力を圧縮させて作られた球だという事に、リーシャとエリアルは即座に気がついた。

「エリアル‼」
「ノアにぃちゃん‼ ねぇちゃんを‼」

 逃げても無駄だと悟ったエリアルは、叫んだと同時に目一杯地面に魔力を注ぎ土の防壁を作り上げた。
 ノアはエリアルの焦りようから、今からではリーシャやフェンリルたちを抱えて飛び上がっても攻撃の巻き添えを避ける事は不可能だと察したのだろう。エリアルに駆け寄ろうとするリーシャの事を両腕で抱え込むと、そして背から巨大な竜の翼を伸ばし、他の3人共々覆い隠した。
 シリウスが怪しく微笑んだ。

「ばん」

 赤い球はエリアルに向けて超スピードで放たれた。弾は防壁に着弾すると同時に破裂し、見た目からは想像できないほどの爆音と爆風を発した。
 ノアの防御にも優れた羽に包まれているにもかかわらず、熱が体を突き刺すようだった。
 爆風が収まると、リーシャを包み込んでいた腕が解かれた。ほっと息を漏らした次の瞬間、ノアが崩れるように両膝を地面についた。
 ノアの開かれた翼は爆発により炭と化し、ボロボロと崩れていった。

「ノア! 翼が‼」
「……かまわない。お前の命に、比べれば、俺の、翼など」
「バカ言わないでよ‼ これじゃあ、もうノアは空飛べないじゃない‼」
「ルシアがいる。エリアルも。あいつらの背を借りれば……」
「そういうこと言ってるんじゃないの‼」

 リーシャの目からは大粒の涙が溢れ出た。

(魔法さえ封じられてなかったら、こんなことになんて‼)

 これまでで最も胸が張り裂けそうな思いだった。
 ノアは指で流れる涙をすくうと、その掌でそっとリーシャの頬を撫でた。

「本当に、大丈夫だ。死にはしない。それより、エリアルの、様子を、見てくれ。目がかすんで、よく、見えない」

 すぐ傍にいるノアにばかりにとらわれていたリーシャは、慌てて振り返った。
 そこにはどうにかという様子で立つエリアルの姿があった。全身酷い火傷をしていて、目を覆いたくなるほど皮膚がただれていた。とくに首筋の火傷がひどい。

「あ……ああ……いや、エリアル……」

 リーシャは駆けだそうとしたけれど、腕を掴まれ前に出る事は許されなかった。

「待て、リーシャ!」
「放してルシア‼ エリアルが‼」
「今行っても何もできないだろ」
「けど!」

 ルシアの手に痛いほどの力が込められた。何もできずに悔しいのはルシアも同じ。むしろ守りたい弟の悲惨な姿に1番打ちのめされているのは日々世話を焼いているルシアだろう。

「俺だってすぐに行ってやりたい! けど、まだエリアルは諦めてねえんだ。あいつのリーシャを守りたいって気持ちを無駄にさせないでやってくれ」
「もう……もういいよぉ。私なんかのために。私があの人のところに行けば。みんながもう傷つかずにすむなら……」
「バカ言うな‼ そんなことになったら俺らで人間を滅ぼしてでもお前の事取り返してやる‼ 俺らにとってリーシャ以上に大事なものはねえんだ! ちょっと離れただけでも気が狂いそうになるっていうのに……」

 ルシアはリーシャを抱きしめた。まるで壊れそうなものを周りから守ろうとするようだ。
 そしてかすれた声で言った。

「今は、信じて待つんだ。エリアルが勝つ。勝てる……って」

 ルシアの言葉はリーシャにだけではなく、自分にも言い聞かせているようだった。
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