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ネクロノーム家

見え始めた可能性(3)

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 ハンナはリーシャの背中に回ると、扉に向かってリーシャの背中を押し始めた。ここまで強引な事をするのは珍しい。
 そんな一面を見せているハンナに、リーシャは戸惑わずにはいられなかった。

「ハンナ? いったいどうしたの?」
「さあさあ。早くしないと私が帰れなくなって、お父様に怒られてしまいますから」
「ちょっと、ハンナ⁉」

 リーシャの背中をグイグイと、書庫の出口へと向けて押していく。思った以上の力で押され、リーシャは戸惑いながらもされるままに扉の方へ足を進めた。
 マークレンとシリウスも、初めて見るハンナの姿に呆然としているようだった。
 扉が閉まるとリーシャは即座に尋ねた。

「ハンナ? ほんとどうしたの?」

 ハンナが稀に強引な手段を使ってくるのはだいたい恋愛話だ。けれど、リーシャを押していた時の力の込められ方からして、そんな話ではないような気がした。
 リーシャが、状況が呑み込めないと言った様子で尋ねると、ハンナは呆れたようだった。そして書庫に残った2人に聞こえないように小声で言った。

「先生、もうお忘れですか? ノアさんたちにお手紙送るのでしょう? こっそり送らないといけないのに、シリウス様のいる前でお預かりするわけにはいかないではないですか」
「あっ、そういうことかぁ」
「もう、先生ったら。お忘れだったんですね」
「いやー、忘れてたわけじゃないんだけど。じゃあさ、既に1枚かいたのがあるからそれを送ってほしいんだけど、いいかな?」
「もちろんです。さあ、早く行きましょう。ここで話をして、聞かれてしまってもいけませんし」
「うん、わかった。じゃあハンナ、ついてきて」
「ええ」

 2人はリーシャが与えられた部屋へ急いだ。
 自信に与えられた部屋に入ると、リーシャは壁端の方に設置してある机へと直行した。そして引き出しを開けると、中に唯一仕舞われていた封筒を取り出し、ハンナに差し出した。

「これをお願いできる?」
「ええ、わかりました。すぐに出しては怪しまれるかもしれませんので、数日お時間いただきますね」
「うん、そのへんは任せるよ」

 ハンナは封筒を受け取るとワンピースのポケットの中へとしまった。
 するとハンナは突然何かを期待するように、ニコニコと笑い始めた。

「何? 今度はどうしたの?」
「先生。せっかくですし、よろしければ少しばかりほんのお話でもしませんか? すぐに出て行っては、シリウス様に怪しまれるかもしれませんし」

 シリウスは確実に結果を得るために、背後で手を回す程度には用心深い。もしかするとどこからか様子を窺っている可能性がある。こっそりと聞きたい事があると言って出てきたのに、このまますぐにハンナが部屋から出て来たとなると怪しまれるかもしれない。
 それにリーシャもハンナと同じ気持ちだったため、断る理由はなかった。

「そうだね。時間大丈夫ならせっかくだし、私もハンナともうちょっとお話したいな」
「ふふっ、やはり先生とは気が合いますね」
「そうだね」
「それでは本のお話をいたしましょう! 実は、先日購入した小説がとても面白かったので先生にご紹介したかったのです!」
「んー、やっぱりそうなるよねぇ」

 そのままリーシャとハンナはしばらくの間、会わない間に新たに読んだ本について語り合った。久々に語り合う趣味の話はとても楽しく、あっという間に時間は過ぎていく。
 途中でハンナが帰らなければ門限に間に合わなくなると慌て始めるまで語り合い、そしてまた会おうと約束してリーシャはエントランスまで見送った。別れ際、ハンナはこっそりと「例の件、待っていてくださいね」と言って立ち去って行った。

(これでノアたちに居場所を伝えられる)

 リーシャはハンナの後姿を見ながら、手紙が無事に届くように祈るのだった。
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