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ネクロノーム家

光の有無(3)

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「シャノウさん、ですよね? 私、魔力封じられてるのに、話しかけられるんですか?」
『貴様と言葉のやり取りをする程度の微弱な魔力ならずっと流れてきておるわ』
「じゃあ、これまで私が他の人と話してた事って……」
『筒抜けだ』
「そう、ですか」

 リーシャは密かに竜王を裏切るような発言をしなくてよかったとほっとした。

「それで、どうしたんですか?」
『あまりにもお前が鈍すぎるから、吉報でも教えてやろうかと思ってな』

 かなり見下しているような言い方にリーシャはカチンときた。
 シャノウが人間の事を嫌っているのは知っているけれど、こうして人の言葉を介して悪態をつかれると、ただの竜として見ていた時にはさほど気にならなかった態度も許しがたく見えてくる。
 リーシャは眉間に皺を寄せた。

「なんですか、吉報って?」
『光の魔法を使うモノなら、今も存在しているぞ』
「えっ⁉」

 指輪に付けられた石を覗き込んでもシャノウの姿は見えないというのに、リーシャは思わず指輪に顔を近づけた。傍から見ればひとりで指輪に向かって語り掛ける怪しい人物でしかなかっただろう。
 そんなリーシャの姿に、ハンナもさすがに若干引き気味になっていた。

「あの、先生。どうしたのですか?」
「シャノウさんが光の魔法を使える人? は、いるって」
「まあ! そうなのですか? それは幸運でしたね、先生」
「うん、ほんとにね」

 リーシャは、光の魔法について調べるのはこの別邸を脱出し、クレドニアムに戻ってからの話だと考えていた。そのためこんなにあっさりと見つかった事に拍子抜けしていた。しかも今も存在しているのであれば検証も可能かもしれない。

(あれ? けど、なんでシャノウさんは今も使える人がいるって言いきれるんだろう? 人なのか魔物かはわからないけど……もしかして私も会った事があるのかな? 指輪の中から見てたとか? うーん……まあいっか)

 そんな引っ掛かりはあったけれど、些細な事だとリーシャは深く考えはしなかった。
 魔力刻印を完成させるためには、いずれにせよその相手に会わなければならない。最終的には辿り着く疑問だ。

「ねぇ、リーシャ。指輪の竜に光の魔法が使えるのはいったい何者なのか。聞いてもらってもいいかな?」
「はい」

 マークレンの言葉に頷いたリーシャは、再び指輪へと視線を落とした。

「シャノウさん、光の魔法を使えるのは魔物ですか? それとも人間?」
『フン。やはり気がついていないのか。貴様はこれほどまでに魔に愛されている人間というのに。いや、人間の分際だから気が付けないのか』
「……言いたい放題ですね」
『言いたくもなる。牙をむかないだけありがたいと思え』
「そこは感謝しますけど……それで、光の魔法を使えるのはいったい」
『まったく……お前も会っているというのに』
「会ってる?」
『まだ気づかないのか。少なくとも貴様もヤツの事を異質には感じていたはずだろう。俺を圧倒したあの雄だ』
「シャノウさんを圧倒した?」

 リーシャは腕を組んで考えた。
 シャノウが対面した相手は数人。1人はクレドニアムの城で戦ったフェンリル。けれどあの戦いは圧倒したとは言い難く、彼に対して畏敬の念があったとしても異質に思ったことはない。
 ノアとルシアも初めて召喚した際に交戦したけれど、結果は惨敗。

(他に戦ってた人なんていない……)

 リーシャはふと思い出した。
 戦いにはなっていないけれど、シャノウを軽く抑え込んだ人物、いや、モノはもう1匹いた。そしてリーシャは彼の姿に異質さを感じてもいた。
 気づいた瞬間、思っていた言葉がかなりの声量で口から飛び出していた。

「竜王様⁉」
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