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ネクロノーム家
封印と解放(2)
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「ということは、先生はその指輪の中の魔物を解放しようとしているのですか? たしか、行方不明だった指輪に封じ込められていたのは竜だったはず。竜は人間の事をよろしく思っていないようですし、それはあまりに危険な事なのでは……?」
「うん。この中にいる竜も人間の事とっても恨んでると思うよ。それでも私は指輪から解放してあげないといけない。危険な事をしようとしてるっていうのはそういう事なの」
指輪から解放したところで、シャノウが人間を許すはずはない。けれどリーシャは、シャノウにこれ以上人間への憎しみを深くしてほしくはなかった。
そんな願いを込め、指輪の緑色の石の部分を優しく撫でた。
そんなリーシャを見て、ハンナは納得したように微笑んだ。
「そうでしたね。やめた方がいいのでは、と言いたいところなのですが、先生が何の意味もなくそのような無謀な事をするとも思えませんし。何か事情があるのですね」
「うん。事情は聞きたい?」
「聞きたいですけど、今はそちらの竜の解放方法を優先しましょう。マークレン兄様」
マークレンは頷いた。
「それじゃあ、話すよ。まずは、魔物をこの指輪に封じる方法について説明しようと思う。ただ私は魔道具に詳しいわけではないから、あまり詳しい事までは説明できない。その辺は省略させてもらうよ」
「わかりました」
マークレンの得意分野は魔物についてだ。シリウスに聞けばより詳しいことを知っているかもしれないけれど、彼に手を借りるような事はしたくはない。
わからなかったところはクレドニアムに戻ってから調べたら良いと思い、リーシャは頷いた。
マークレンはニコリと笑い、説明を始めた。
「魔物を魔道具に封じるには、召喚の魔道具の他に封印の魔道具というものが必要らしい。つまり召喚の魔道具自体に魔物を封じる力は無くて、ただの器だと考えなければならないようだ」
「器……それなら、器を壊せば中の魔物は解放されるんじゃあないんですか?」
マークレンは首を横に振った。そう単純な話ではないらしい。
「魔物の体は封印の魔道具によって魔力に近い物質に変換され、召喚の指輪と同化させるものだとあった。おそらくだけど、指輪を壊してしまえば中の魔物も共に消滅する」
「そんな……!」
魔物を実際に物質化するという思想にリーシャはゾッとして思わず叫んでいた。
(もし私がこの指輪を壊すようなことがあったら、シャノウさんが……)
シャノウがどう思っているかはわからない。
けれどどんなにそっけなくされようとも、リーシャにとってシャノウは既に家族も同然の存在だ。失うような事などあってはならないと、リーシャは指輪を手で守るように包み込んだ。
「落ち着いて、肝心なのはここからだから」
「すみません、マークレン様。取り乱してしまって……」
「君はその竜を大切にしてるんだね」
「はい……すみません……」
人間を襲うような竜を大切に思っているなんてと嫌悪されるのではと思い、リーシャの顔に影が落ちた。
マークレンの手がリーシャの肩に乗せられた。気にするなと言ってくれているようだった。ハンナもリーシャが不安に思っていたような表情はしていない。
「それじゃあ、続けようか。先人は封印だけではなく、解放する手段も導き出していたんだ。しいて言うなら解放の魔道具。それがあれば、その指輪から死竜を解放することができる」
「ほんとですか! じゃあ、その刻印も」
「あるにはあった。ただ、その刻印の図案に問題があったんだ。さっき不可能かもしれないと言った理由はこれなんだ」
「どういう事ですか?」
「まずはこれを見てほしい」
マークレンはポケットから1枚の紙を取り出し、机の上に広げた。
描かれているものは、どうやら魔力刻印の図案のようだ。これまで見た刻印の中で1番と言っていいほどに模様が書き込まれている。
ただ不思議なことが1つあった。その刻印には、本来模様が描かれているはずの中央の部分に何も描かれていなかったのだ。
「これが封印のための魔力刻印。かなり雑に書いたから正確ではないんだけど、この真ん中の空白の部分に、封じたい魔物の属性と同じ有属性魔法の刻印を彫るんだ。死竜は闇だったはずだから闇の刻印を、複合した魔力を持つ魔物ならそれらを合成した刻印をね」
「かなり細かい刻印ですね。作るのが大変そう……解放の魔道具はこれ以上に繊細な模様だったとかですか?」
封印の魔力刻印の方を描いて、解放の魔力刻印を描いて来ていないというのはそういう事なのかもしれない。
マークレンを見ると、困ったように眉をひそめていた。
「うーん。まあ、それもあるんだけど。解放の魔道具はこの部分に当たるところに魔物の持つ有属性の魔力に対して、優勢な属性の刻印を刻まなければならないんだ。火なら水の、水なら雷の刻印を。複合したものならそれぞれに優勢となる刻印を」
「なるほど」
リーシャが納得していると、ハンナが戸惑うような声を発した。
「あの、ちょっと待ってください。封じられている竜はたしか属性が闇でしたよね? 闇に優勢な魔力って、いったい……」
「そこなんだよ、問題は……」
マークレンは腕を組み、難題を考えるように眉間に皺を寄せた。
闇の魔力は異質なものだ。おそらく火、水、雷、土、風のいずれの魔力も優劣の影響は受けないだろう。
だとすればいったいどんな有属性魔法の刻印が必要になるのか。可能性のある仮説を立て、片っ端から検証していくしかない。
「それじゃあ、全ての属性を合わせる? とかどうですか?」
「いや、それは先人が既に検証して失敗に終わっているみたいだ」
「そうですか……」
3人は揃って頭を悩ませた。
たしかにこれは不可能と言わざるを得ないような難問だった。
「うん。この中にいる竜も人間の事とっても恨んでると思うよ。それでも私は指輪から解放してあげないといけない。危険な事をしようとしてるっていうのはそういう事なの」
指輪から解放したところで、シャノウが人間を許すはずはない。けれどリーシャは、シャノウにこれ以上人間への憎しみを深くしてほしくはなかった。
そんな願いを込め、指輪の緑色の石の部分を優しく撫でた。
そんなリーシャを見て、ハンナは納得したように微笑んだ。
「そうでしたね。やめた方がいいのでは、と言いたいところなのですが、先生が何の意味もなくそのような無謀な事をするとも思えませんし。何か事情があるのですね」
「うん。事情は聞きたい?」
「聞きたいですけど、今はそちらの竜の解放方法を優先しましょう。マークレン兄様」
マークレンは頷いた。
「それじゃあ、話すよ。まずは、魔物をこの指輪に封じる方法について説明しようと思う。ただ私は魔道具に詳しいわけではないから、あまり詳しい事までは説明できない。その辺は省略させてもらうよ」
「わかりました」
マークレンの得意分野は魔物についてだ。シリウスに聞けばより詳しいことを知っているかもしれないけれど、彼に手を借りるような事はしたくはない。
わからなかったところはクレドニアムに戻ってから調べたら良いと思い、リーシャは頷いた。
マークレンはニコリと笑い、説明を始めた。
「魔物を魔道具に封じるには、召喚の魔道具の他に封印の魔道具というものが必要らしい。つまり召喚の魔道具自体に魔物を封じる力は無くて、ただの器だと考えなければならないようだ」
「器……それなら、器を壊せば中の魔物は解放されるんじゃあないんですか?」
マークレンは首を横に振った。そう単純な話ではないらしい。
「魔物の体は封印の魔道具によって魔力に近い物質に変換され、召喚の指輪と同化させるものだとあった。おそらくだけど、指輪を壊してしまえば中の魔物も共に消滅する」
「そんな……!」
魔物を実際に物質化するという思想にリーシャはゾッとして思わず叫んでいた。
(もし私がこの指輪を壊すようなことがあったら、シャノウさんが……)
シャノウがどう思っているかはわからない。
けれどどんなにそっけなくされようとも、リーシャにとってシャノウは既に家族も同然の存在だ。失うような事などあってはならないと、リーシャは指輪を手で守るように包み込んだ。
「落ち着いて、肝心なのはここからだから」
「すみません、マークレン様。取り乱してしまって……」
「君はその竜を大切にしてるんだね」
「はい……すみません……」
人間を襲うような竜を大切に思っているなんてと嫌悪されるのではと思い、リーシャの顔に影が落ちた。
マークレンの手がリーシャの肩に乗せられた。気にするなと言ってくれているようだった。ハンナもリーシャが不安に思っていたような表情はしていない。
「それじゃあ、続けようか。先人は封印だけではなく、解放する手段も導き出していたんだ。しいて言うなら解放の魔道具。それがあれば、その指輪から死竜を解放することができる」
「ほんとですか! じゃあ、その刻印も」
「あるにはあった。ただ、その刻印の図案に問題があったんだ。さっき不可能かもしれないと言った理由はこれなんだ」
「どういう事ですか?」
「まずはこれを見てほしい」
マークレンはポケットから1枚の紙を取り出し、机の上に広げた。
描かれているものは、どうやら魔力刻印の図案のようだ。これまで見た刻印の中で1番と言っていいほどに模様が書き込まれている。
ただ不思議なことが1つあった。その刻印には、本来模様が描かれているはずの中央の部分に何も描かれていなかったのだ。
「これが封印のための魔力刻印。かなり雑に書いたから正確ではないんだけど、この真ん中の空白の部分に、封じたい魔物の属性と同じ有属性魔法の刻印を彫るんだ。死竜は闇だったはずだから闇の刻印を、複合した魔力を持つ魔物ならそれらを合成した刻印をね」
「かなり細かい刻印ですね。作るのが大変そう……解放の魔道具はこれ以上に繊細な模様だったとかですか?」
封印の魔力刻印の方を描いて、解放の魔力刻印を描いて来ていないというのはそういう事なのかもしれない。
マークレンを見ると、困ったように眉をひそめていた。
「うーん。まあ、それもあるんだけど。解放の魔道具はこの部分に当たるところに魔物の持つ有属性の魔力に対して、優勢な属性の刻印を刻まなければならないんだ。火なら水の、水なら雷の刻印を。複合したものならそれぞれに優勢となる刻印を」
「なるほど」
リーシャが納得していると、ハンナが戸惑うような声を発した。
「あの、ちょっと待ってください。封じられている竜はたしか属性が闇でしたよね? 闇に優勢な魔力って、いったい……」
「そこなんだよ、問題は……」
マークレンは腕を組み、難題を考えるように眉間に皺を寄せた。
闇の魔力は異質なものだ。おそらく火、水、雷、土、風のいずれの魔力も優劣の影響は受けないだろう。
だとすればいったいどんな有属性魔法の刻印が必要になるのか。可能性のある仮説を立て、片っ端から検証していくしかない。
「それじゃあ、全ての属性を合わせる? とかどうですか?」
「いや、それは先人が既に検証して失敗に終わっているみたいだ」
「そうですか……」
3人は揃って頭を悩ませた。
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