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ネクロノーム家
思いがけない再会(2)
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「あら、私ではご不満でしたか? 先生」
「‼ ハンナ⁉」
勢いよく顔を向けると、書庫の入口にハンナ・マグダレーノの姿があった。彼女と会ったのは、ステファニーに魔法の使い方を教えるために魔法学校へ赴いた時が最後なので、少しだけ久々の再開だ。
リーシャはハンナの姿を見るなり、彼女の元へと足早に近づいて行った。
2人で再開を喜んでいると、ハンナを案内してきたメリッサが控えめに声をかけてきた。
「リーシャ様、私はこれで」
「ありがとうございました、メリッサさん!」
リーシャがお礼を言うと、メリッサは一礼して通常運転の無表情のままスタスタと歩いて行ってしまった。彼女は顔に感情が出にくいだけで、感情に乏しいわけではないし、とても気づかいのできる人だ。早々に立ち去って行ったのは、リーシャとハンナの邪魔をしないようにと気を利かせてくれたのだろう。
リーシャはメリッサを見送ると改めてハンナに視線を向けた。
「ハンナ、どうしてここに?」
「もちろん、先生に会うためですよ」
「えっ、この別邸に連れて来られてるってことは一部の人しか知らないんじゃないの? よくここにいるってわかったね」
「父に頼んで、この場所を探り当ててもらいました」
「わざわざ探してくれてたの?」
「ええ。先生がいなくなったと聞いて、いてもたってもいられませんでしたので。それに、気になる噂を耳にしてましたから……」
「噂?」
「私、最近実家の方へ戻ってきたところなのですが、先生がシリウス様とご婚約したという噂が流れているのを耳にしてしまいまして。けど、どうしてもそれが真実だとは思えなくて。だから私、先生に直接聞こうと思い、始めはネクロノームの本邸へ行ったのです。けれど、先生は滞在されていないと言われてしまいました。そのまま引き下がる事も出来ませんでしたので、それでしたらと思って、父に頼んで僭越ながら探させていただいたのですよ」
ハンナはそう言うと、リーシャを見ながら恥ずかしそうに微笑んだ。
普段ハンナはマグダレーノ家の力に頼る事は滅多にしない。そんな彼女が親を頼り、わざわざ探し当ててくれたという事は、それほどリーシャの事を気に掛けていてくれたのだろう。
そう思うとリーシャの胸はじんと熱くなった。
「それで、先生。先生は本当にシリウス様とご婚約されたのですか? あんなに嫌がっていらっしゃったのに……」
ハンナはそう言って、反応のないリーシャの顔を心配そうに覗き込んだ。そしてリーシャは、はっと我に返った。
「そんなわけないよ! クレドニアムの騎士団の人たちと一緒に出た撃退任務で偶然あの人と一緒になって。その時誘拐されたんだよ!」
「誘拐って……まあ、あの方ならやりかねませんね。けれど、本意でないなら、何故まだこちらにいらっしゃるのです? 先生ほどの方なら容易にこの屋敷から抜け出せると思うのですが……」
「うーん、それがね」
リーシャは手首にはめられた魔道具を見せた。これさえなければとうの昔にこの屋敷から抜け出し、クレドニアムに向けて旅立っていたはずだった。
リーシャが困った顔をしていると、ハンナはすぐにそれが何かを理解したようで眉間に皺を寄せた。
「‼ ハンナ⁉」
勢いよく顔を向けると、書庫の入口にハンナ・マグダレーノの姿があった。彼女と会ったのは、ステファニーに魔法の使い方を教えるために魔法学校へ赴いた時が最後なので、少しだけ久々の再開だ。
リーシャはハンナの姿を見るなり、彼女の元へと足早に近づいて行った。
2人で再開を喜んでいると、ハンナを案内してきたメリッサが控えめに声をかけてきた。
「リーシャ様、私はこれで」
「ありがとうございました、メリッサさん!」
リーシャがお礼を言うと、メリッサは一礼して通常運転の無表情のままスタスタと歩いて行ってしまった。彼女は顔に感情が出にくいだけで、感情に乏しいわけではないし、とても気づかいのできる人だ。早々に立ち去って行ったのは、リーシャとハンナの邪魔をしないようにと気を利かせてくれたのだろう。
リーシャはメリッサを見送ると改めてハンナに視線を向けた。
「ハンナ、どうしてここに?」
「もちろん、先生に会うためですよ」
「えっ、この別邸に連れて来られてるってことは一部の人しか知らないんじゃないの? よくここにいるってわかったね」
「父に頼んで、この場所を探り当ててもらいました」
「わざわざ探してくれてたの?」
「ええ。先生がいなくなったと聞いて、いてもたってもいられませんでしたので。それに、気になる噂を耳にしてましたから……」
「噂?」
「私、最近実家の方へ戻ってきたところなのですが、先生がシリウス様とご婚約したという噂が流れているのを耳にしてしまいまして。けど、どうしてもそれが真実だとは思えなくて。だから私、先生に直接聞こうと思い、始めはネクロノームの本邸へ行ったのです。けれど、先生は滞在されていないと言われてしまいました。そのまま引き下がる事も出来ませんでしたので、それでしたらと思って、父に頼んで僭越ながら探させていただいたのですよ」
ハンナはそう言うと、リーシャを見ながら恥ずかしそうに微笑んだ。
普段ハンナはマグダレーノ家の力に頼る事は滅多にしない。そんな彼女が親を頼り、わざわざ探し当ててくれたという事は、それほどリーシャの事を気に掛けていてくれたのだろう。
そう思うとリーシャの胸はじんと熱くなった。
「それで、先生。先生は本当にシリウス様とご婚約されたのですか? あんなに嫌がっていらっしゃったのに……」
ハンナはそう言って、反応のないリーシャの顔を心配そうに覗き込んだ。そしてリーシャは、はっと我に返った。
「そんなわけないよ! クレドニアムの騎士団の人たちと一緒に出た撃退任務で偶然あの人と一緒になって。その時誘拐されたんだよ!」
「誘拐って……まあ、あの方ならやりかねませんね。けれど、本意でないなら、何故まだこちらにいらっしゃるのです? 先生ほどの方なら容易にこの屋敷から抜け出せると思うのですが……」
「うーん、それがね」
リーシャは手首にはめられた魔道具を見せた。これさえなければとうの昔にこの屋敷から抜け出し、クレドニアムに向けて旅立っていたはずだった。
リーシャが困った顔をしていると、ハンナはすぐにそれが何かを理解したようで眉間に皺を寄せた。
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