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ネクロノーム家

苛立ち(2)

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 けれどリーシャは好感を持たれても嬉しくもないし、むしろその話には触れたくはなかった。一瞬嫌な顔になってしまったものの、聞かなかった事にして話を進めた。

「それなら、当主様に本当の事を言えば帰してもらえますか?」
「うーん、どうだろう。すでにシリウスが事をやらかしてしまっているわけだし……下手に訴えかけたら、事実をなかった事にしようとして君が退路を断たれるだけになるのがオチかな。助けを待った方がいいと思うよ」
「そうですか……」

 逃げ道がなかなか見えてこなくて、気分が沈んでしまったリーシャは近くにあった椅子に脱力したように座った。
 そのまま気落ちしていると、マークレンが励まそうとするように、肩に優しく手を乗せた。

「それじゃあ、私はいったん本邸に戻ってくるよ」
「えっ、今からですか?」
「うん」
「ここに何か用事があったんじゃないんですか? 調べ物とか」

 マークレンがここへ来たのはリーシャと話をするためというわけではないはずだ。部屋に入って来た時、彼はリーシャがいる事を知らなかったような反応をしていた。
 それなのに来てからずっと本を読むわけでもなく、話をしていただけだ。元々の用事はいいのだろうかとリーシャは首を傾げた。

「ここへ来たのはシリウスが戻ってくるまでの、ただの時間つぶしさ。それにのんびりしていたら、君のお迎えが来てしまうだろう? 早く調べて来ないと、君と交わした約束がなかった事になってしまう」

 マークレンは優しげに笑った。自分の利のためというより、どちらかというとリーシャのためという意識の方が強いように感じた。
 そんな表情にリーシャは戸惑い、彼の顔をじっと見つめた。

「どうかした?」
「なんだか、マークレン様って私が思ってた貴族像に当てはまらなくて……」

 リーシャが言った事に自覚でもあるのか、マークレンは困った顔をした。

「よく言われるよ。父上からも、もっと家の事を考えろって。小さい頃からみんな出来の良いシリウスにかかりっきりだったのに、責務だけはきっちり押し付けてくるんだ。放置され続けてきた私としては放っておいてくれ、って感じなのさ。ほら、私の興味って魔物の方に向いてるから、魔法とか貴族社会とか興味ないんだ。もし行動を改めないと勘当するって言われたら、私は迷わず出て行くよ」

 マークレンは呆れ気味で、冗談を言っているようには見えなかった。
 ネクロノームという家を嫌っているわけではないようだけれど、家に固執していない。魔法貴族とは思えないそんな態度にリーシャは好感を抱いた。
 呆然とするリーシャを他所に、マークレンは扉の方へと歩いて行き、出る前にリーシャの方へ振り返った。

「そういう事だから、またね。交換条件、忘れないでね」
「はい……」

 マークレンが立ち去り、書庫で1人になった。彼の言う事を信じるなら、この書庫にリーシャの目的のものは存在していない。探すだけ時間の無駄だ。
 リーシャは使用人のメリッサがくるまで、この場にある本を読む事にした。気になる本を先ほどたくさん見つけたのだ。
 リーシャは興味引かれる本を見つけると、次々にテーブルへ運び、それを片っ端から読み続けた。
 メリッサが姿を見せたのは夕食の時刻。用意ができたと呼びに来た時だった。
 リーシャはまたシリウスと顔を合わせる事になるのかと欝々とした気分になった。けれど、連れて行かれた部屋にはリーシャ分の食事だけが並べられていて、シリウスの姿は見えなかった。
 リーシャはほっと息を零した。
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