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ネクロノーム家
書庫にて(2)
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メリッサが一礼して部屋から立ち去ると、さっそく闇の魔力や召喚の指輪に関する本がないか端の本棚から探し始めた。
リーシャは今の目的とは関係のない本を1冊手に取った。
「すごい……王都の図書館にもこんな本なかったよ。すっごい気になるんだけど、今はなぁ……」
この辺りの本棚にあるのはかなり古い本で、昔の魔法の考えられ方や魔法発動の原理などが書かれているようだ。
リーシャは欲求を抑え込み、手元の本を元の場所に戻し、知りたいことが書かれた本を再び探し始めた。
1冊1冊タイトルをしっかりと確認していく。
(うーん……やっぱり大変だよ……見落としてそうだし)
探し続けていると、書庫の扉がガチャリと開く音がした。
「あれっ? 誰?」
この部屋にはリーシャ1人しかいない。声をかけられ、驚いて振り向くと1人の男性が立っていた。
一瞬シリウスに見えたけれど、纏う雰囲気が違うような気がした。
「えっと、私は……」
「ああ。もしかして、シリウスが連れて来た子かな?」
「はっ、はい」
シリウスと似てはいるけれど、目の前の男性は話し方が彼よりも砕けていて、あっさりとした印象だった。
「そうか。君が」
男性はにっこりと笑った。
「あの、あなたはネクロノーム……シリウス様のご家族の方ですか?」
「そうだよ。話はシリウスから軽く聞いている。私はマークレン。マークレン・ネクロノームだ。君の従兄でもあるね、リリーシア」
マークレンに悪気はないのだろう。けれど真の名を呼ばれたリーシャは眉間に濃い皺を寄せて視線を逸らした。
そんなリーシャの様子にマークレンは気づき、思い出したような顔をした。
「ああ、そうか。今はリーシャだっけ。君はネクロノームを嫌っているんだったね。ごめんね」
「いえ」
「ところで、リーシャはこんなところで何をしてるんだい?」
「ちょっと、調べ物を……」
リーシャは口ごもった。
相手はネクロノームの人間。事情を説明したくないし、借りを作りたくもなかった。
リーシャの一歩引いた態度も気にせず、マークレンは親し気に話しかけ続けてきた。
「調べ物か。この量の本の中から探すのは大変だろう。どんな本を探しているんだい? 大体の場所はわかってるから教えてくれたら案内するよ」
「いえ、自分で探すのでいいです」
「……ネクロノームの人間には聞きにくい事?」
リーシャはドキリとした。
ネクロノームの人間相手に「はい」とも言えず、リーシャは口を閉じていた。額が汗ばんできたように感じた。
「そうか。教えたくないって言うなら無理にとは言わないよ。けど、ネクロノーム発生で一般の書物に書かれていないような魔法に関するものを探しているんだったらここにはないよ」
「え?」
「そういった本は本邸の持ち出し禁止の書物を集めた書庫に並べられているから」
「そう、ですか……」
無駄足を踏まずに済んだことは良かったけれど、手掛かりが遠のいてしまった事にリーシャは落胆した。
「やっぱり、そっち系の本を探してたんだね」
マークレンに鎌をかけられたことに気がついたリーシャは苦い顔をした。
「ここまでバレてるんだから、何を探してるのか聞いてみないかい?」
何か裏があるとしか思えないリーシャは、シリウスの兄という男に対して気軽に手助けを求める事はできなかった。
「……何か目的があるんですか?」
「目的? うーん、強いて言うなら、竜に関する話が聞きたいから、かな」
リーシャは身構えた。
あのシリウスの兄だというのだ。話だけで終わる気がしなかった。関心が強くなってノアたちに手を出してこないとも限らない。
マークレンは自分が警戒された理由に気がついたのか、困ったような表情を浮かべた。
「ああそうか。別に君の竜になにかしようとかは思ってないからね? 私は魔物とかそっち方面について調査するのが趣味なんだ」
「は、はあ……」
シリウスと似た顔なのに彼よりも話が通じそうな回答が帰って来て、リーシャはマークレンにどう接していいのかよくわからなくなった。
リーシャは今の目的とは関係のない本を1冊手に取った。
「すごい……王都の図書館にもこんな本なかったよ。すっごい気になるんだけど、今はなぁ……」
この辺りの本棚にあるのはかなり古い本で、昔の魔法の考えられ方や魔法発動の原理などが書かれているようだ。
リーシャは欲求を抑え込み、手元の本を元の場所に戻し、知りたいことが書かれた本を再び探し始めた。
1冊1冊タイトルをしっかりと確認していく。
(うーん……やっぱり大変だよ……見落としてそうだし)
探し続けていると、書庫の扉がガチャリと開く音がした。
「あれっ? 誰?」
この部屋にはリーシャ1人しかいない。声をかけられ、驚いて振り向くと1人の男性が立っていた。
一瞬シリウスに見えたけれど、纏う雰囲気が違うような気がした。
「えっと、私は……」
「ああ。もしかして、シリウスが連れて来た子かな?」
「はっ、はい」
シリウスと似てはいるけれど、目の前の男性は話し方が彼よりも砕けていて、あっさりとした印象だった。
「そうか。君が」
男性はにっこりと笑った。
「あの、あなたはネクロノーム……シリウス様のご家族の方ですか?」
「そうだよ。話はシリウスから軽く聞いている。私はマークレン。マークレン・ネクロノームだ。君の従兄でもあるね、リリーシア」
マークレンに悪気はないのだろう。けれど真の名を呼ばれたリーシャは眉間に濃い皺を寄せて視線を逸らした。
そんなリーシャの様子にマークレンは気づき、思い出したような顔をした。
「ああ、そうか。今はリーシャだっけ。君はネクロノームを嫌っているんだったね。ごめんね」
「いえ」
「ところで、リーシャはこんなところで何をしてるんだい?」
「ちょっと、調べ物を……」
リーシャは口ごもった。
相手はネクロノームの人間。事情を説明したくないし、借りを作りたくもなかった。
リーシャの一歩引いた態度も気にせず、マークレンは親し気に話しかけ続けてきた。
「調べ物か。この量の本の中から探すのは大変だろう。どんな本を探しているんだい? 大体の場所はわかってるから教えてくれたら案内するよ」
「いえ、自分で探すのでいいです」
「……ネクロノームの人間には聞きにくい事?」
リーシャはドキリとした。
ネクロノームの人間相手に「はい」とも言えず、リーシャは口を閉じていた。額が汗ばんできたように感じた。
「そうか。教えたくないって言うなら無理にとは言わないよ。けど、ネクロノーム発生で一般の書物に書かれていないような魔法に関するものを探しているんだったらここにはないよ」
「え?」
「そういった本は本邸の持ち出し禁止の書物を集めた書庫に並べられているから」
「そう、ですか……」
無駄足を踏まずに済んだことは良かったけれど、手掛かりが遠のいてしまった事にリーシャは落胆した。
「やっぱり、そっち系の本を探してたんだね」
マークレンに鎌をかけられたことに気がついたリーシャは苦い顔をした。
「ここまでバレてるんだから、何を探してるのか聞いてみないかい?」
何か裏があるとしか思えないリーシャは、シリウスの兄という男に対して気軽に手助けを求める事はできなかった。
「……何か目的があるんですか?」
「目的? うーん、強いて言うなら、竜に関する話が聞きたいから、かな」
リーシャは身構えた。
あのシリウスの兄だというのだ。話だけで終わる気がしなかった。関心が強くなってノアたちに手を出してこないとも限らない。
マークレンは自分が警戒された理由に気がついたのか、困ったような表情を浮かべた。
「ああそうか。別に君の竜になにかしようとかは思ってないからね? 私は魔物とかそっち方面について調査するのが趣味なんだ」
「は、はあ……」
シリウスと似た顔なのに彼よりも話が通じそうな回答が帰って来て、リーシャはマークレンにどう接していいのかよくわからなくなった。
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