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ネクロノーム家

書庫にて(1)

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 食事を終えたリーシャは少し食後の休息を挟んだ後、メリッサにこの別邸にあるという書庫へと案内してもらった。

「こちらでございます」

 そう言って開かれた広い部屋の中には数千にも上るような数の本が、いくつもの棚にずらりと並べられていた。

「うわぁぁぁぁ‼」

 もはや書庫というより図書館と言う方がふさわしいレベルの本を前に、リーシャは感嘆の声を上げた。
 ここまで本が多いと、どこに何があるかわかっていなければ、目当ての本はいつまでたっても見つけられないだろう。
 小さな子供のように目を輝かせるリーシャに、メリッサはフフッと笑った。

「本、お好きなのですか?」
「はい! 魔法や魔物に関する文献をよく読むんです。ここには及ばないですけど、家にかなりの数の本がありますし。あっ、あと、物語なんかも大好きです!」
「そうですか。やはり、シリウス様がリーシャ様を婚約者にと強く望まれるのは、そのような魔法への強い追求心に関心を持たれたからなのかもしれませんね。シリウス様もよくこちらで魔法や魔道具に関する調べ物をよくされているんですよ」
「へ、へぇぇ。そうなんですね」

 メリッサは悪気があって言っているのではないのだろうけれど、突然シリウスとの共通点を持ち出され、リーシャは複雑そうな笑顔を浮かべた。
 そして、メリッサの思い違いが気にかかった。

「けど、あの人は私に関心があるわけじゃないと思いますよ? ただ、家の意向を汲んで結婚に持ち込もうとしているだけだと思いますけど」
「いえ、シリウス様はリーシャ様にかなり好感を抱いていると思います」
「え?」

 思わぬ返答にリーシャの方が言葉に詰まってしまった。
 リーシャは、数か月前まで自分がことごとく恋愛対象から除外され続けてきた事を知っている。最近モテ期でも来たかのような状態ではあるけれど、それまでがそれまでだったため、昨日が初対面の相手からかなりの好感を持たれていると言われても、簡単には信じられなかった。

「聞いた話なので本当かどうかはわかりませんが、ハンナ様……以前のご婚約者様とはあまり乗り気ではなかったそうです。けれど、リーシャ様をこちらへお連れになられた際のシリウス様は、何と言いますか、とても嬉しそうにされておいででしたよ」
「そう、ですか」

 リーシャは眉間にうっすらと皺を寄せた。

(多分あの人は、メリッサさんが思ってるような感情があって嬉しそうにしてたわけじゃないと思うんだけどな……)

 リーシャは、シリウスが嬉しそうにしていた理由は自分に好感を抱いているからというわけではなく、ただ観察対象として面白そうな人間が手に入った、というくらいにしか思っていないだろうと感じていた。
 もうこれ以上シリウスの事を考えたくないリーシャは、話を切り替えたくなった。

「あの、メリッサさん。この書庫のどこに何があるか、把握してたりしますか?」
「申し訳ございません。書庫を専門として管理している使用人がおりますので、私はこちらの事には一切かかわっておりません」
「じゃあ、その管理してる使用人さんは?」
「昨日からご実家の方に帰られております。こちらの方に戻ってくるのは明日の昼頃かと」
「そうですか……」

 リーシャは落胆した。
 明日まで待てば作業は多少楽にはなるだろうけれど、少しでも早く調べる作業に取り掛かりたかったリーシャは根気よく探すことを決意した。

「あのメリッサさん」
「はい、なんでしょう?」
「私、日が暮れるまではこの部屋にいようと思うので、メリッサさんは他のお仕事をしていてください」
「いえ、私の仕事は貴女様のお世話です。離れるわけにはまいりません。書物もこの通り、膨大な数がございますのでお手伝いいたします」

 リーシャは首を横に振った。これから何を調べようとしているのか、知られるわけにはいかない。
 周りに漏れれば騒ぎになり、カルディスの指輪を取り上げられる可能性が出てきてしまう。それでは竜王との約束は守れない。
 万が一にも余計な情報が流出する恐れをなくすため、下手に手伝われるのは避けたかった。

「大丈夫です。時間なら、今のところ余るほどありますから。それに、使用人の人たちはお掃除とか、する事多いんじゃないですか?」
「しかし……」
「私が本を読み始めたら暇になると思いますよ? 何か必要になったら呼ぶので」
「……わかりました。それでは、失礼させていただきます」

 メリッサは悩んでいたけれど、リーシャが頑なに断るのには何か理由があるのだろうと察したのか、渋々提案に納得した。
 そして書庫を出ようと扉を開いたところで、リーシャの方へ振り返った。

「ですが、くれぐれも逃げようとは思われないでくださいね。屋敷を警備している人間もいます。もし逃げようとしていることがわかれば、部屋からも出られなくなる可能性もありますので、重々ご承知を」
「……は、はい」

 全く考えなかったわけではないリーシャは苦笑いで答えた。
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