238 / 419
ネクロノーム家
機会(1)
しおりを挟む
出された食事を食べ続けていると、ふとこういう時にこそ情報収集すべきではないかと、リーシャは思った。何気ない世間話のように尋ねて聞けば怪しまれないはずだ。
「そういえば、私一人で食べちゃってよかったんですかね? ネクロノーム様は?」
「シリウス様ですか?」
「はい」
シリウスはリーシャをこの屋敷に無理やり連れて来た張本人だ。悪知恵がよく働くようなので下手に逃げ出そうとすればすぐに追いつかれ、連れ戻されるのがオチだ。本心では知りたくもないと思ってはいるのだけれど、逃げ出すためには彼の動向を探らなければならない。
シリウスの婚約者と紹介されているとはいえ、メリッサにとってリーシャは得体のしれない相手だ。主人の動向を教えてくれるだろうかと、少し心配だった。けれど、メリッサはためらうことなく彼の行先を告げた。
「シリウス様は、現ご当主様に先日の任務についての報告と、リリーシア……リーシャ様がこちらの別宅に滞在していらっしゃる旨の報告のため、本邸に戻られておいでです。こちらへ戻るのに時間がかかるだろうという事で、今くらいの時刻に食事を持っていくようにと仰せつかいました。ですので問題ありません」
「そうですか」
リーシャはメリッサの答えにそっけなく返したけれど、内心喜び、ガッツポーズを決めていた。厄介な相手が不在という事は、リーシャにとっては逃げ出す算段を付ける絶好のタイミングだ。
(逃げるならあの人がこの屋敷に戻ってくるまでに逃げたいところかな。そのためにも、もっと情報を集めないと)
リーシャは不自然にならないように、何気ない雰囲気を装いながらさらにメリッサへ質問を続けた。
「ここって、本邸から近いんですか?」
「いえ、数あるお屋敷の中では遠い方かと」
「そんなにお屋敷があるんですね。ちなみに、ここはどこなんですか? 外を見てもまったく見覚えがなくて、ずっと気になってたんです。建物の造りも雰囲気も私が暮らしてたところと、かなり違いますし」
「こちらの街はベルディアです。ずいぶんと王都からは離れた土地ですので、王都暮らしのリーシャ様にはそのように感じるのでしょうね」
「ベルディア、ですか……」
ベルディアはリーシャたちが住んでいるクレドニアムから優に3000キロは離れている中規模な都市。移動手段を持たず、魔法も封じられている今のリーシャでは王都へ帰るのは困難な距離だった。
しかもベルディアとクレドニアムの間には強力な魔物が大量にはびこる地域がいくつも点在している。それを迂回しながら行くとなると移動距離は3000キロどころではない。
それでなくとも人間の住んでいない地域であれば魔物はどこにでも住み付いている。長距離の移動をするのなら出会わない方が珍しいくらいだ。
戦う術を奪われ、護衛をも雇えない現状ではこの都市の外にも出られない。
リーシャは内心渋い顔をした。
「……本当に遠いんですね。たしかネクロノーム家の本邸があるのが……えーっと」
「アウディスニューアです」
「そうそう」
ネクロノームの本邸の場所をうろ覚えだったリーシャは、メリッサから教えられた情報で内心の顔はさらに渋い顔になった。
地理的に現在地であるベルディアは、アウディスニューアよりもクレドニアムから離れた位置にある。
シリウスはその辺りの事も考え、軟禁場所としてこの場所を選んだのかもしれない。
それだけ離れた場所に連れて来られたのならば、連れ去られてどれくらい経っているのかという事気になるところだった。
リーシャはノアたちが暴れ出し、周りに迷惑をかけていないか、余計に心配になった。
「あの、竜との戦いがあってから、どれくらい経ってますか?」
「おそらく、1日ほどでしょうか」
「1日⁉」
「はい。シリウス様がリーシャ様をお連れされたのが昨日の夕方前でしたので」
「そんな短時間でこんな距離を……? そんな。いったいどうやって……」
大きな謎にリーシャの呟きがこぼれた。
「転移の魔道具を使用されたのですよ」
「魔道具……転移……?」
リーシャは目を見開いた。
転移の魔法は未だ成功例のない、仮説上の魔法だ。いくらシリウスが魔法に執着のあるネクロノームの人間とはいえ、そんな魔道具を手にしているなど、そう簡単に信じられる話ではなかった。
メリッサはさも当たり前の事ように、リーシャの思っている事に対する答えを口にした。
「そういえば、私一人で食べちゃってよかったんですかね? ネクロノーム様は?」
「シリウス様ですか?」
「はい」
シリウスはリーシャをこの屋敷に無理やり連れて来た張本人だ。悪知恵がよく働くようなので下手に逃げ出そうとすればすぐに追いつかれ、連れ戻されるのがオチだ。本心では知りたくもないと思ってはいるのだけれど、逃げ出すためには彼の動向を探らなければならない。
シリウスの婚約者と紹介されているとはいえ、メリッサにとってリーシャは得体のしれない相手だ。主人の動向を教えてくれるだろうかと、少し心配だった。けれど、メリッサはためらうことなく彼の行先を告げた。
「シリウス様は、現ご当主様に先日の任務についての報告と、リリーシア……リーシャ様がこちらの別宅に滞在していらっしゃる旨の報告のため、本邸に戻られておいでです。こちらへ戻るのに時間がかかるだろうという事で、今くらいの時刻に食事を持っていくようにと仰せつかいました。ですので問題ありません」
「そうですか」
リーシャはメリッサの答えにそっけなく返したけれど、内心喜び、ガッツポーズを決めていた。厄介な相手が不在という事は、リーシャにとっては逃げ出す算段を付ける絶好のタイミングだ。
(逃げるならあの人がこの屋敷に戻ってくるまでに逃げたいところかな。そのためにも、もっと情報を集めないと)
リーシャは不自然にならないように、何気ない雰囲気を装いながらさらにメリッサへ質問を続けた。
「ここって、本邸から近いんですか?」
「いえ、数あるお屋敷の中では遠い方かと」
「そんなにお屋敷があるんですね。ちなみに、ここはどこなんですか? 外を見てもまったく見覚えがなくて、ずっと気になってたんです。建物の造りも雰囲気も私が暮らしてたところと、かなり違いますし」
「こちらの街はベルディアです。ずいぶんと王都からは離れた土地ですので、王都暮らしのリーシャ様にはそのように感じるのでしょうね」
「ベルディア、ですか……」
ベルディアはリーシャたちが住んでいるクレドニアムから優に3000キロは離れている中規模な都市。移動手段を持たず、魔法も封じられている今のリーシャでは王都へ帰るのは困難な距離だった。
しかもベルディアとクレドニアムの間には強力な魔物が大量にはびこる地域がいくつも点在している。それを迂回しながら行くとなると移動距離は3000キロどころではない。
それでなくとも人間の住んでいない地域であれば魔物はどこにでも住み付いている。長距離の移動をするのなら出会わない方が珍しいくらいだ。
戦う術を奪われ、護衛をも雇えない現状ではこの都市の外にも出られない。
リーシャは内心渋い顔をした。
「……本当に遠いんですね。たしかネクロノーム家の本邸があるのが……えーっと」
「アウディスニューアです」
「そうそう」
ネクロノームの本邸の場所をうろ覚えだったリーシャは、メリッサから教えられた情報で内心の顔はさらに渋い顔になった。
地理的に現在地であるベルディアは、アウディスニューアよりもクレドニアムから離れた位置にある。
シリウスはその辺りの事も考え、軟禁場所としてこの場所を選んだのかもしれない。
それだけ離れた場所に連れて来られたのならば、連れ去られてどれくらい経っているのかという事気になるところだった。
リーシャはノアたちが暴れ出し、周りに迷惑をかけていないか、余計に心配になった。
「あの、竜との戦いがあってから、どれくらい経ってますか?」
「おそらく、1日ほどでしょうか」
「1日⁉」
「はい。シリウス様がリーシャ様をお連れされたのが昨日の夕方前でしたので」
「そんな短時間でこんな距離を……? そんな。いったいどうやって……」
大きな謎にリーシャの呟きがこぼれた。
「転移の魔道具を使用されたのですよ」
「魔道具……転移……?」
リーシャは目を見開いた。
転移の魔法は未だ成功例のない、仮説上の魔法だ。いくらシリウスが魔法に執着のあるネクロノームの人間とはいえ、そんな魔道具を手にしているなど、そう簡単に信じられる話ではなかった。
メリッサはさも当たり前の事ように、リーシャの思っている事に対する答えを口にした。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる