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ネクロノーム家
捕らわれの身(2)
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「はい。シリウス様からリリーシア様は自分の妻だと思って接するようにと申しつかっております」
「待ってください! 私、あの人と結婚するつもりなんてないですから! それに私は、リリーシアなんて名前じゃないです‼」
「しかし、貴女様のお名前はリリーシア・ネクロノーム様とシリウス様から伺っておりますが……」
表情の乏しいメリッサの眉尻が少しだけ下げられた。
「やめてください! 私はそんな名前じゃない!」
「けれど……」
「私はリーシャ! ただのリーシャ!」
「それは貴女様の愛称ですよね? 一介の使用人が主人を愛称で呼ぶのは……」
「やめてってば! 私はネクロノーム家とは関係ないし、あなたの主人なんかでもない! この家とは関わらないってお母さんと約束したんだから‼」
リーシャの必死の声にメリッサは目を見開いていた。
きっとなぜここまでネクロノームの人間である事を否定するのか、不思議だったに違いない。認めてしまえば金も名誉も一瞬で手に入るのだから。
けれどリーシャはそんなものなどいらないのだ。
そんなものを手にする事を許してしまえば、リーシャが小さなころから敬遠し続けてきた、他の魔物から力奪い取るという、倫理から逸脱した行為を平気でできる一族の一員だと認めたようなものだ。奪い取った力さえ継がなければ、つらい思いをする事もなかった。だから事実がどうであれ、自分の中ではそれを認めたくはなかった。
そんなリーシャの迫力に負けたのか、メリッサはそれ以上否定することはなかった。
「……かしこまりました。これからはリーシャ様と呼ばせていただきます」
「そうしてください。ほんとは様もいらないんですけど。それで? 私に何か用があったんじゃないですか?」
「はい。お食事をお持ちしました。準備いたしますのでそちらの椅子に掛けてお待ちください」
「は、はあ……」
リーシャは促されるまま、テーブル横の椅子に座った。
メリッサは台車の上の料理を手際よくリーシャの前へ並べ始めた。空に浮かぶ日の高さからして、これは昼食なのだろう。
テーブルの上にあらゆる地域の料理がずらりと並べられた。
「あの、こんなに食べられないんですけど……」
「すべて食べられなくても問題ありません。リーシャ様がどのような食事を好まれるかわかりませんでしたので、いろいろと用意させていただいただけです。何かご希望はございましたでしょうか?」
「いえ、とくに。嫌いな食べ物はないですし、食べたいものと言われてもピンとこないので。料理名もあまり知らないですし、そちらにお任せします」
「かしこまりました」
逃げ出す算段が出来ていない以上、無暗に逆らうのは後に逃げ出そうとした時の障害となる。今は大人しく従っておこうとリーシャは判断した。
再びテーブルの上を眺めた。やはりすごい量だ。
(ルシアとエリアルがいたらこれくらいあっという間になくなるだろうな……それより3人とも、どうしてるかな……まさか本当に暴れまわってるとかはないよね?)
ノアたちが日ごろから言っている物騒な言葉を、有言実行していないことを願いながら、リーシャは料理に手を付けた。
切り分けられたステーキをフォークで口に運び入れた瞬間リーシャは目を見開いた。
「お口に合いませんでしたか?」
リーシャの反応に、メリッサは少し緊張気味に問いかけた。まずくて手を止めたと思っているのだろう。
実際はその真逆だった。
「いえ、すっごい美味しいです! とっても柔らかいし、お肉の味を残した味付けがとっても好きです!」
「それでしたらようございました」
ほっとして乏しい表情に戻ったメリッサを横に、リーシャは黙々と出された料理を食べすすめた。どれも程よい味付けで、捕らわれの身である事も忘れ、リーシャの頬は緩みきっていた。
(ごめん、エリアル!)
エリアルの作る料理も美味しいけれど、やはり元々の食材が違うというのもあるのだろう。
悔しながら、リーシャはこれまで食べた料理の中で1番おいしいと思ってしまった。
「待ってください! 私、あの人と結婚するつもりなんてないですから! それに私は、リリーシアなんて名前じゃないです‼」
「しかし、貴女様のお名前はリリーシア・ネクロノーム様とシリウス様から伺っておりますが……」
表情の乏しいメリッサの眉尻が少しだけ下げられた。
「やめてください! 私はそんな名前じゃない!」
「けれど……」
「私はリーシャ! ただのリーシャ!」
「それは貴女様の愛称ですよね? 一介の使用人が主人を愛称で呼ぶのは……」
「やめてってば! 私はネクロノーム家とは関係ないし、あなたの主人なんかでもない! この家とは関わらないってお母さんと約束したんだから‼」
リーシャの必死の声にメリッサは目を見開いていた。
きっとなぜここまでネクロノームの人間である事を否定するのか、不思議だったに違いない。認めてしまえば金も名誉も一瞬で手に入るのだから。
けれどリーシャはそんなものなどいらないのだ。
そんなものを手にする事を許してしまえば、リーシャが小さなころから敬遠し続けてきた、他の魔物から力奪い取るという、倫理から逸脱した行為を平気でできる一族の一員だと認めたようなものだ。奪い取った力さえ継がなければ、つらい思いをする事もなかった。だから事実がどうであれ、自分の中ではそれを認めたくはなかった。
そんなリーシャの迫力に負けたのか、メリッサはそれ以上否定することはなかった。
「……かしこまりました。これからはリーシャ様と呼ばせていただきます」
「そうしてください。ほんとは様もいらないんですけど。それで? 私に何か用があったんじゃないですか?」
「はい。お食事をお持ちしました。準備いたしますのでそちらの椅子に掛けてお待ちください」
「は、はあ……」
リーシャは促されるまま、テーブル横の椅子に座った。
メリッサは台車の上の料理を手際よくリーシャの前へ並べ始めた。空に浮かぶ日の高さからして、これは昼食なのだろう。
テーブルの上にあらゆる地域の料理がずらりと並べられた。
「あの、こんなに食べられないんですけど……」
「すべて食べられなくても問題ありません。リーシャ様がどのような食事を好まれるかわかりませんでしたので、いろいろと用意させていただいただけです。何かご希望はございましたでしょうか?」
「いえ、とくに。嫌いな食べ物はないですし、食べたいものと言われてもピンとこないので。料理名もあまり知らないですし、そちらにお任せします」
「かしこまりました」
逃げ出す算段が出来ていない以上、無暗に逆らうのは後に逃げ出そうとした時の障害となる。今は大人しく従っておこうとリーシャは判断した。
再びテーブルの上を眺めた。やはりすごい量だ。
(ルシアとエリアルがいたらこれくらいあっという間になくなるだろうな……それより3人とも、どうしてるかな……まさか本当に暴れまわってるとかはないよね?)
ノアたちが日ごろから言っている物騒な言葉を、有言実行していないことを願いながら、リーシャは料理に手を付けた。
切り分けられたステーキをフォークで口に運び入れた瞬間リーシャは目を見開いた。
「お口に合いませんでしたか?」
リーシャの反応に、メリッサは少し緊張気味に問いかけた。まずくて手を止めたと思っているのだろう。
実際はその真逆だった。
「いえ、すっごい美味しいです! とっても柔らかいし、お肉の味を残した味付けがとっても好きです!」
「それでしたらようございました」
ほっとして乏しい表情に戻ったメリッサを横に、リーシャは黙々と出された料理を食べすすめた。どれも程よい味付けで、捕らわれの身である事も忘れ、リーシャの頬は緩みきっていた。
(ごめん、エリアル!)
エリアルの作る料理も美味しいけれど、やはり元々の食材が違うというのもあるのだろう。
悔しながら、リーシャはこれまで食べた料理の中で1番おいしいと思ってしまった。
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