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撃退任務
続く戦闘(2)
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「何をしようとしてるの……?」
「わからねぇ。が、気を抜くなよ。ここに留まってるってことは、俺たちを蹴散らそうとしてるのは間違いないだろうからな」
人間の軍勢はただ空を見上げ、火竜の動向を窺う事しかできなかった。あんなに高いところへと昇られてしまっては魔法も届かない。
「リーシャ」
名前を呼ばれて横を向くと、フェンリルはリーシャの方を向いていた。
「何?」
「ノアとルシアの背に俺の隊を乗せて戦おうと思うんだが、できると思うか?」
リーシャは少し考えた後、問いに答えた。
「無理、だと思う。火竜の攻撃を避けながらだと振り落とされるのが目に見えてる。相対位置を固定させる魔法を使えばどうにかなるかもしれないけど、そんな魔道具を持って来てる人はいないだろうし、私が使えば今の私の魔力量じゃそれ以外の魔法はもう使えない。それに相対位置固定の魔法もそんなに長い時間は持たないよ」
「そうか。ってことはこのまま火竜の様子を窺うしかないってことだな」
「そうだね」
「このまま去ってくれるとありがたいんだがな」
フェンリルの拳が強く握られた。顔は緊張の表情を浮かべている。
リーシャも火竜がいつ先制攻撃を仕掛けてくるのだろうかと緊張しながら空を見上げた。
火竜は変わらず空高くを漂っている。
(お願い。このまま立ち去って)
リーシャは祈りながら空を見上げ続けた。
するとうっすらと空気が振動するような変な感覚がした。その感覚はリーシャがよく知っている感覚、魔法を使おうとした時に起こる魔力の気配だった。
地上を見渡すけれど、魔法を使おうとしている者は見当たらない。
その間も魔力の気配は大きくなり、魔力の気配がどこから来ているのか朧気ながらわかるようになった。
「まさか……」
リーシャの心臓が緊張の大きな鼓動を打ち始めた。
魔力を作り出しているのは火竜だ。時間が経つほどにそれは確信へと変わっていく。
ノアとルシアも感じ取っているのか、身をすくませながら空に向かって唸り声をあげていた。
フェンリルはそんなリーシャたちの異変に気がつき、心配そうな視線を向けた。
「どうした?」
返事をするどころではない心理状態のリーシャは、フェンリルそっちのけで空を凝視し続けた。
どれほどの規模の魔法を使おうとしているのかはわからない。けれどそれがこの場の人間を焼き尽くすことのできる規模の魔法だろうという事はなんとなく想像がついた。
本来人間100人を同時に葬るための大きな魔法でさえ、これほどの距離が離れてしまえば、そう簡単には発動しかけていると気づくことはできない。それなのに今、火竜が魔法を発動しようとしているのがわかってしまっているのだ。
(この距離でここまで魔力がわかるって、いったいどれだけの規模の……)
それに気付いてしまったリーシャは、恐怖で無意識に後退った。
「わからねぇ。が、気を抜くなよ。ここに留まってるってことは、俺たちを蹴散らそうとしてるのは間違いないだろうからな」
人間の軍勢はただ空を見上げ、火竜の動向を窺う事しかできなかった。あんなに高いところへと昇られてしまっては魔法も届かない。
「リーシャ」
名前を呼ばれて横を向くと、フェンリルはリーシャの方を向いていた。
「何?」
「ノアとルシアの背に俺の隊を乗せて戦おうと思うんだが、できると思うか?」
リーシャは少し考えた後、問いに答えた。
「無理、だと思う。火竜の攻撃を避けながらだと振り落とされるのが目に見えてる。相対位置を固定させる魔法を使えばどうにかなるかもしれないけど、そんな魔道具を持って来てる人はいないだろうし、私が使えば今の私の魔力量じゃそれ以外の魔法はもう使えない。それに相対位置固定の魔法もそんなに長い時間は持たないよ」
「そうか。ってことはこのまま火竜の様子を窺うしかないってことだな」
「そうだね」
「このまま去ってくれるとありがたいんだがな」
フェンリルの拳が強く握られた。顔は緊張の表情を浮かべている。
リーシャも火竜がいつ先制攻撃を仕掛けてくるのだろうかと緊張しながら空を見上げた。
火竜は変わらず空高くを漂っている。
(お願い。このまま立ち去って)
リーシャは祈りながら空を見上げ続けた。
するとうっすらと空気が振動するような変な感覚がした。その感覚はリーシャがよく知っている感覚、魔法を使おうとした時に起こる魔力の気配だった。
地上を見渡すけれど、魔法を使おうとしている者は見当たらない。
その間も魔力の気配は大きくなり、魔力の気配がどこから来ているのか朧気ながらわかるようになった。
「まさか……」
リーシャの心臓が緊張の大きな鼓動を打ち始めた。
魔力を作り出しているのは火竜だ。時間が経つほどにそれは確信へと変わっていく。
ノアとルシアも感じ取っているのか、身をすくませながら空に向かって唸り声をあげていた。
フェンリルはそんなリーシャたちの異変に気がつき、心配そうな視線を向けた。
「どうした?」
返事をするどころではない心理状態のリーシャは、フェンリルそっちのけで空を凝視し続けた。
どれほどの規模の魔法を使おうとしているのかはわからない。けれどそれがこの場の人間を焼き尽くすことのできる規模の魔法だろうという事はなんとなく想像がついた。
本来人間100人を同時に葬るための大きな魔法でさえ、これほどの距離が離れてしまえば、そう簡単には発動しかけていると気づくことはできない。それなのに今、火竜が魔法を発動しようとしているのがわかってしまっているのだ。
(この距離でここまで魔力がわかるって、いったいどれだけの規模の……)
それに気付いてしまったリーシャは、恐怖で無意識に後退った。
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