魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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撃退任務

竜の能力(2)

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「ノア――――――‼」
「‼ グルアァァァァァァァァ‼」

 ノアは自身の胸に手を当てて呼びかけるリーシャに答え、動きを変えた。
 これまで熱に耐え、躊躇うように戦っていたノアだけれど、リーシャの声を聞いた途端火竜を翻弄させるかのように周りを高速で飛び始めた。
 同時に練習を重ねてどうにか使えるようになった魔法、威力の弱い水の魔法も火竜に向かって放ち始めた。
 自身で火竜の体力を奪うための戦いを止め、主だった攻撃をリーシャと騎士団に任せた連携のための動きに切り替えた。

「よし、お前ら! 機を見て攻撃をぶち込め!」
「はい‼」

 第1部隊の騎士たちは数人がかりで1つの魔道具に魔力を注ぎ、大きな魔法を発動させた。
 魔力量はさすが魔法貴族だった。
 本来この魔道具は10数人で発動させるものだけれど、第1部隊の騎士たちは5人で1つを発動させている。
 騎士たちはノアの攻撃で火竜の動きがひるんだ瞬間を狙い、すぐさま火竜に向かって火に有意である水の魔法を次々と放った。
 リーシャも1人で騎士5人が放つ魔法と同等の威力の水の魔法を、彼らより速いスピードで火竜に向かって放ち続けた。自分たちに向けて火竜から放たれた魔法も相殺しながらだ。

(水の魔法、あんまり効いてないかも。体から出てる熱が高温過ぎて蒸発してるのかな。それなら……)

 リーシャは水の魔法以外にも、土や雷の魔法も乱発し始めた。
 ノアの援護もあって放った魔法の大半が命中した。

「グアウ‼」

 火に有効な水の魔法が効いていない中、命中した魔法のうちの土の魔法で作られた巨大な土の塊が直撃した時に火竜は苦痛の声を上げた。
 それを見たフェンリルが騎士たち向かって叫んだ。

「お前ら! 水以外の魔法も使え!」
「はい‼」

 騎士たちの攻撃魔法でダメージを与えられるようになり、ようやく火竜から余裕が消えたように見えた。
 どうにか戦況が変わり始めたけれど、予想以上にダメージを与えられていないという誤算は否めなかった。火竜が戦線を離脱するまでには、まだかなりの時間を要しそうだ。もしかすると先に人間側の方が退かなければならなくなるかもしれない。
 リーシャが火竜に向かって魔法を放っていると誰かが真横に立つ気配がした。
 目の端に映るその人が白い服を着ていないことから、騎士ではない事だけはわかった。
 こんな時に何故近づいて来たのか不思議に思い、気になったリーシャはその人物の姿を一瞥した。すると非常に嫌そうな顔になった。
 青年は前衛で戦う騎士たちをうまく援護しながら口を開いた。

「手伝いますよ」
「……それはどうも」

 リーシャは攻撃の手を止めずにもう一度青年の事を見た。
 着飾るような衣類を纏う姿からして、リーシャが関わりたくはない魔法貴族であるのは間違いない。

「あなたがリーシャ、ですね」
「……誰……」

 リーシャはこの青年とは面識はない。それなのに、何故か彼の事を知っているような気がしたのが不思議で仕方なかった。
 青年は笑みを見せた。

「僕はシリウス・ネクロノーム。まさかこんな状況で顔を合わせることになるなんて、思ってもみませんでした」

 リーシャは冷静を装おうとしたけれど、耐えきれず下唇を噛みしめた。
 見覚えがあったのは魔法貴族唯一の知り合い、ハンナ・マグダレーノと血縁にあり、どことなく似ていたからだった。
 そして、ネクロノームと言えば、貴族の中で最も関わりを持ちたくない一族。そして、シャノウを魔道具から解放するために、関わりたくはないけれど1度話をしに行かなければならないと思っていた一族でもあった。

「そう、ですね。お断りしてるのに、あまりにも熱心にお手紙をくださるので近いうちにお伺いしようかとは思ってたんですけど。なにしろ忙しい身なもので」
「そうですか。会っていただけそうになかったので、この招集に従えば会えるかもしれないと思い参加したのですが。まあいいです。今はあの火竜を退ける事だけを考えましょう。お話は後程」
「……そう、ですね」

 リーシャは今すぐにでもシリウスと距離を置きたい衝動を抑え込み、火竜の撃退のために魔法に集中した。
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