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撃退任務
出動命令(2)
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「竜だ。竜が出た」
「いつもと状況が違うの?」
ここ最近現れた竜は大した暴れ方はしておらず、しいて言うなら人間をただ脅しに来ているかのようだった。人間からの反撃があるとしばらく交戦した後、立ち去っていく。
出動要請があれば急いで向かうけれど、ここまで慌ててさせられるような状況になってはいなかった。
「王都西側、200キロ地点の農業地帯から連絡がきた。同時に3体。付近のギルドだけじゃあ手に負えないらしい」
「えっ、3体⁉」
「そうだ。その竜たちはこれまでの竜に比べてかなり好戦的で、現在王都方面にある街に向けて移動している。そこのギルドの連中が街の人間を避難させながらどうにか凌いでいるが、かなり限界らしい」
「そんな状況なら、フェンリルの部隊だけじゃ足りないんじゃ」
「ああ。レイモンドの部隊にも出動命令を出したし、王都のギルドの連中、あと不本意だが竜が出た周辺の魔法貴族の連中にも討伐依頼を出した」
「魔法貴族にも……」
騎士の大半は魔法貴族の子息だ。とくにフェンリルの率いる隊はほぼ全員が魔法貴族だそうだ。
騎士は剣術と共に魔法使いとしての才も求められる。そういう理由があり、騎士団には多くの魔法貴族が在籍しているらしい。
ちなみにレイモンドの率いる隊は貴族ではないけれど剣術も魔法も長けている庶民出の騎士が配置されているとのことだ。
「本当は、騎士団に所属していない魔法貴族には声はかけたくはなかったんだが、状況が状況だったから仕方なくな」
「仕方なく?」
フェンリルの嫌そうな顔に、リーシャは思わず聞き返してしまった。
「魔法貴族の中には王家からの要請があったっていうのを出しにして、民に無理難題を押し付けようとするやつらもいるからな。まあ、それはいいんだ。とにかく、ルシアに竜が出た地点に運んでほしい。俺の部隊全員を」
「もしかしてここに来てる全員⁉」
フェンリルは頷いた。彼の背後を見る限り50人はいるだろう。
はたして今のルシアがこの人数を乗せられるほど成長しているかどうかが怪しい。
「竜が大人しいなら馬で時間かけてもよかったんだが、事態が事態だ。ルシアなら馬で向かうより圧倒的に早く着けるだろ? ノアにもレイモンドの部隊を乗せて先に向かってもらった。ギルドに協力してくれそうなやつ見繕いに行ったら丁度いたんでな」
奥の部屋でフェンリルの話を聞いていたルシアが、会話をしていたリーシャたちのところへやって来た。
「うーん、兄貴が同じくらいの人数乗せて飛べたなら、たならたぶん俺も乗せられるとは思うけど……」
「頼めるか?」
「まあ、いいぜ。けど、無理そうなら全員は諦めてくれよ?」
「助かる」
ルシアは笑みを見せると、エリアルのいる地下へと続く階段がある方へ駆け足で向かった。
「じゃあ、俺エリアル呼んでくるわ」
ルシアが立ち去ると、入れ替わるようにシャノウがダイニングから顔を覗かせた。
「グゥアウ‼」
鳴き声を上げてしまったため、シルバーの視線がシャノウへと向けられてしまった。
2人の後ろで待機している騎士たちには、運よくシャノウの姿は見えていないらしい。どこからの声だろうかと皆視線を彷徨わせている。
シャノウの姿を捉えたシルバーは目を丸くした。
「なんだ、そいつ……竜の……骨?」
「うん。竜の骨だね」
シルバーは怪しむかのような視線をシャノウへと向け続けた後、ハッと何かに気がついたように目を見開いた。
「シルバー? どうかした?」
「なっ、なぁリーシャ。まさかとは思うけど、そのちっこいの、お前とあいつらのうちの誰かの……」
シルバーは突然言い淀んだ。
言い淀む理由がわからなかったリーシャは首を傾げ、考えた。
「………………⁉ ちっ、違うから‼ シャノウさんは私たちよりすっごい長生きな竜なんだから‼」
珍しくも、リーシャはすぐにシルバーが言わんとしていることに気がつき、全力で否定した。
その勘違いはフェンリルを爆笑させるほどのものだったようだ。
問い主であるシルバーはリーシャの答えにほっとしていた。
「だ、だよな。地味に焦ったぜ。お前の子供なのかと……」
「ほんとに違うから! というか、そんなに長く会わなかった期間なんてないでしょ!」
「それもそうか」
「もう……」
すぐに誤解が解け、リーシャは安堵の息をこぼした。
思えば、シャノウの存在はフェンリルには打ち明けたけれど、ノアたち竜の兄弟と暮らしているという秘密を1番長く共有していたシルバーには言っていなかった。
「そういえば、シルバーにはこの竜の事をちゃんと言ってなかったんだっけ?」
「聞いてねぇな」
「だよね。こちら、死竜のシャノウさん。詳しくは……まあ、移動中に説明するよ。とりあえず、すぐに出る準備するからちょっと待ってて」
「ああ、わかった」
リーシャは出かける際にいつも腰のベルトに付けている収納袋を取に行こうと向きを変えた。
「リーシャ、わかってるとは思うが、ちゃんと制服は着て来いよ」
「わかってますぅ!」
フェンリルは何故そこまで制服を着させることにこだわるのか。
リーシャは疑問に思いながら、撃退任務に向けて急いで準備を始めた。
「いつもと状況が違うの?」
ここ最近現れた竜は大した暴れ方はしておらず、しいて言うなら人間をただ脅しに来ているかのようだった。人間からの反撃があるとしばらく交戦した後、立ち去っていく。
出動要請があれば急いで向かうけれど、ここまで慌ててさせられるような状況になってはいなかった。
「王都西側、200キロ地点の農業地帯から連絡がきた。同時に3体。付近のギルドだけじゃあ手に負えないらしい」
「えっ、3体⁉」
「そうだ。その竜たちはこれまでの竜に比べてかなり好戦的で、現在王都方面にある街に向けて移動している。そこのギルドの連中が街の人間を避難させながらどうにか凌いでいるが、かなり限界らしい」
「そんな状況なら、フェンリルの部隊だけじゃ足りないんじゃ」
「ああ。レイモンドの部隊にも出動命令を出したし、王都のギルドの連中、あと不本意だが竜が出た周辺の魔法貴族の連中にも討伐依頼を出した」
「魔法貴族にも……」
騎士の大半は魔法貴族の子息だ。とくにフェンリルの率いる隊はほぼ全員が魔法貴族だそうだ。
騎士は剣術と共に魔法使いとしての才も求められる。そういう理由があり、騎士団には多くの魔法貴族が在籍しているらしい。
ちなみにレイモンドの率いる隊は貴族ではないけれど剣術も魔法も長けている庶民出の騎士が配置されているとのことだ。
「本当は、騎士団に所属していない魔法貴族には声はかけたくはなかったんだが、状況が状況だったから仕方なくな」
「仕方なく?」
フェンリルの嫌そうな顔に、リーシャは思わず聞き返してしまった。
「魔法貴族の中には王家からの要請があったっていうのを出しにして、民に無理難題を押し付けようとするやつらもいるからな。まあ、それはいいんだ。とにかく、ルシアに竜が出た地点に運んでほしい。俺の部隊全員を」
「もしかしてここに来てる全員⁉」
フェンリルは頷いた。彼の背後を見る限り50人はいるだろう。
はたして今のルシアがこの人数を乗せられるほど成長しているかどうかが怪しい。
「竜が大人しいなら馬で時間かけてもよかったんだが、事態が事態だ。ルシアなら馬で向かうより圧倒的に早く着けるだろ? ノアにもレイモンドの部隊を乗せて先に向かってもらった。ギルドに協力してくれそうなやつ見繕いに行ったら丁度いたんでな」
奥の部屋でフェンリルの話を聞いていたルシアが、会話をしていたリーシャたちのところへやって来た。
「うーん、兄貴が同じくらいの人数乗せて飛べたなら、たならたぶん俺も乗せられるとは思うけど……」
「頼めるか?」
「まあ、いいぜ。けど、無理そうなら全員は諦めてくれよ?」
「助かる」
ルシアは笑みを見せると、エリアルのいる地下へと続く階段がある方へ駆け足で向かった。
「じゃあ、俺エリアル呼んでくるわ」
ルシアが立ち去ると、入れ替わるようにシャノウがダイニングから顔を覗かせた。
「グゥアウ‼」
鳴き声を上げてしまったため、シルバーの視線がシャノウへと向けられてしまった。
2人の後ろで待機している騎士たちには、運よくシャノウの姿は見えていないらしい。どこからの声だろうかと皆視線を彷徨わせている。
シャノウの姿を捉えたシルバーは目を丸くした。
「なんだ、そいつ……竜の……骨?」
「うん。竜の骨だね」
シルバーは怪しむかのような視線をシャノウへと向け続けた後、ハッと何かに気がついたように目を見開いた。
「シルバー? どうかした?」
「なっ、なぁリーシャ。まさかとは思うけど、そのちっこいの、お前とあいつらのうちの誰かの……」
シルバーは突然言い淀んだ。
言い淀む理由がわからなかったリーシャは首を傾げ、考えた。
「………………⁉ ちっ、違うから‼ シャノウさんは私たちよりすっごい長生きな竜なんだから‼」
珍しくも、リーシャはすぐにシルバーが言わんとしていることに気がつき、全力で否定した。
その勘違いはフェンリルを爆笑させるほどのものだったようだ。
問い主であるシルバーはリーシャの答えにほっとしていた。
「だ、だよな。地味に焦ったぜ。お前の子供なのかと……」
「ほんとに違うから! というか、そんなに長く会わなかった期間なんてないでしょ!」
「それもそうか」
「もう……」
すぐに誤解が解け、リーシャは安堵の息をこぼした。
思えば、シャノウの存在はフェンリルには打ち明けたけれど、ノアたち竜の兄弟と暮らしているという秘密を1番長く共有していたシルバーには言っていなかった。
「そういえば、シルバーにはこの竜の事をちゃんと言ってなかったんだっけ?」
「聞いてねぇな」
「だよね。こちら、死竜のシャノウさん。詳しくは……まあ、移動中に説明するよ。とりあえず、すぐに出る準備するからちょっと待ってて」
「ああ、わかった」
リーシャは出かける際にいつも腰のベルトに付けている収納袋を取に行こうと向きを変えた。
「リーシャ、わかってるとは思うが、ちゃんと制服は着て来いよ」
「わかってますぅ!」
フェンリルは何故そこまで制服を着させることにこだわるのか。
リーシャは疑問に思いながら、撃退任務に向けて急いで準備を始めた。
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