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「リーシャねぇちゃん、お魚捕れたよ!」
エリアルが大きめの魚を鷲掴みにして駆けて来た。
「結構大きいの捕まえたね」
「うん。ノアにぃちゃんの言った通りに動いたら捕れたよ」
エリアルは上機嫌だ。
ただこのままずっと掴んでいては魚が死んでしまうし、持ち帰って食べるにしても身が痛んでしまう。
「エリアルちょっと貸して」
「? いいよ?」
リーシャは魔法で魚の周りに水の膜を作った。魚は元気を取り戻し、膜の中で動き始めた。
「! ありがと! ねぇちゃん」
さらにエリアルは上機嫌になり、水の中の魚をじっと見始めた。
リーシャはそんなエリアルの様子を楽しげに見つめた。
「なあ、さっきまでここに誰かいただろ? あれ、ハンズだったよな?」
ルシアが訊ねてきた。気づいていてわざと知らないふりをしていたようだ。
「うん」
「なんでこんなとこにいたんだ?」
「クエスト帰りだって。近くを歩いてたら私たちの声がしたから様子見に来たらしいよ」
「ふーん。アイツになにか言われたのか?」
「え?」
「リーシャ、顔赤くしてたろ」
ルシアの眉間には皺が寄り、面白くなさそうな顔をしている。嫉妬しているようだ。
これまでなら、今のルシアの態度に対して何を言っているのやらと思っていただろう。今は悪い気などしなかった。
正直に話してしまってもいいけれど、そうするとルシアの眉間の皺はさらに刻まれることになるはずだ。ただ、ここまで気がつかれているのなら、ごまかしもきかない。
リーシャは仕方なく、正直に話す事にした。
「なんか……好きだって言われた」
「はぁ⁉」
ルシアは慌てていた。エリアルも戸惑い、持っていた魚入りの水魔法が弾け飛び散りそうなほどに抱きしめた。
「ねぇちゃん、なんて答えたの⁉」
「えっと、普通にごめんなさいって言ったけど」
リーシャの答えにルシアとエリアルはあからさまにほっとした様子だった。
ルシアが今度は心配そうな表情をしてリーシャに尋ねた。
「それであいつはなんて? 無理やり押し切ろうとしたりしなかったか?」
「あなたたちじゃないんだから、そんなことしないよ! お断りしたら、ちゃんと納得してくれたから」
「ならよかった。ハンズと番うとか言いだしたらどうしようかと思った」
「それは無いよ。だって私……ハンズの事はいい友達だとは思うけど、恋愛とかそういうのはなんか違う気がして。それに、今はあなたたち3人といるのが忙しすぎてそれどころじゃないからね」
リーシャはニッと笑った。
本当はここで3人に対する思いを言ってしまえばよかったのだろう。けれどやはり、照れくさくなって口に出すことができなかった。
そんなことなど知らないルシアはリーシャの答えに満足し、優しい笑みを浮かべた。
「ならいいんだ。リーシャの事諦めるって言うなら、何も問題ないな。ハンズの事は嫌いじゃないから、敵にならなくてよかった」
「敵って……」
「リーシャにちょっかいかけるやつは皆敵だ。とくにラディウスのヤローとか」
ルシアはとても嫌な顔をした。
リーシャは、それだけの事で相手を敵だと言っているのにも驚いたけれど、なにより話題にも上がっていないのに瞬時にラディウスの名前が出てきた事に唖然としていた。
「えーっと……ほんと、ルシアはラディウスの事嫌いだよね」
「嫌いっつーか、油断ならねぇやつだし、睨みきかせとかねぇと何してくるかわかんねぇだろ、アイツ」
「そっ、そっかぁ……」
もはやリーシャは苦笑するしかなかった。
ルシアとそんな話をしていると、不意に横から服が軽く引っ張られた。気のせいかと思いつつ顔を向けると、エリアルがリーシャの服を握っていた。
「ねぇねぇ、寒くなってきたしもう帰ろ」
日が傾き始め、空気が冷たくなってきている。
それにエリアルはさっきまで川遊びをしていて、体を冷やしてしまっているようだ。よく見ると寒そうにわずかに体を震わせていた。風邪をひかせては大変だ。
「そうだね。帰って夕飯にしよ。その魚……夕飯にする?」
「うん!」
「じゃあ荷物片づけないとね」
リーシャが芝生に広げていたシートや弁当箱をカバンの中へ詰め込み始めると、ノアとルシアもリーシャの手伝いを始めた。エリアルは魚を抱えたまま片付けが終わるのを待っている。
結局リーシャは、ハンズには自分の思いを伝えられたけれど、肝心なノアたち兄弟には伝えることはできなかった。何のきっかけもなしに伝えるのは余計に勇気がいる。
(次こそは……ちゃんと言わないと)
思い切れなかったリーシャは、次にきっかけが出来た時こそは言おうと密かに心に決めた。
考え事をしながらも、荷物をまとめ終わったリーシャは、カバンを肩に下げた。
「これでよし。忘れ物ないよね?」
「大丈夫だ。リーシャ、その荷物俺が持つよ」
「ありがと、ルシア。じゃあ、お願いね」
「おう」
リーシャが素直にカバンを差し出すと、ルシアは満足そうな顔をした。
そして4人は元来た森の中の道を歩き、家へと帰って行った。
エリアルが大きめの魚を鷲掴みにして駆けて来た。
「結構大きいの捕まえたね」
「うん。ノアにぃちゃんの言った通りに動いたら捕れたよ」
エリアルは上機嫌だ。
ただこのままずっと掴んでいては魚が死んでしまうし、持ち帰って食べるにしても身が痛んでしまう。
「エリアルちょっと貸して」
「? いいよ?」
リーシャは魔法で魚の周りに水の膜を作った。魚は元気を取り戻し、膜の中で動き始めた。
「! ありがと! ねぇちゃん」
さらにエリアルは上機嫌になり、水の中の魚をじっと見始めた。
リーシャはそんなエリアルの様子を楽しげに見つめた。
「なあ、さっきまでここに誰かいただろ? あれ、ハンズだったよな?」
ルシアが訊ねてきた。気づいていてわざと知らないふりをしていたようだ。
「うん」
「なんでこんなとこにいたんだ?」
「クエスト帰りだって。近くを歩いてたら私たちの声がしたから様子見に来たらしいよ」
「ふーん。アイツになにか言われたのか?」
「え?」
「リーシャ、顔赤くしてたろ」
ルシアの眉間には皺が寄り、面白くなさそうな顔をしている。嫉妬しているようだ。
これまでなら、今のルシアの態度に対して何を言っているのやらと思っていただろう。今は悪い気などしなかった。
正直に話してしまってもいいけれど、そうするとルシアの眉間の皺はさらに刻まれることになるはずだ。ただ、ここまで気がつかれているのなら、ごまかしもきかない。
リーシャは仕方なく、正直に話す事にした。
「なんか……好きだって言われた」
「はぁ⁉」
ルシアは慌てていた。エリアルも戸惑い、持っていた魚入りの水魔法が弾け飛び散りそうなほどに抱きしめた。
「ねぇちゃん、なんて答えたの⁉」
「えっと、普通にごめんなさいって言ったけど」
リーシャの答えにルシアとエリアルはあからさまにほっとした様子だった。
ルシアが今度は心配そうな表情をしてリーシャに尋ねた。
「それであいつはなんて? 無理やり押し切ろうとしたりしなかったか?」
「あなたたちじゃないんだから、そんなことしないよ! お断りしたら、ちゃんと納得してくれたから」
「ならよかった。ハンズと番うとか言いだしたらどうしようかと思った」
「それは無いよ。だって私……ハンズの事はいい友達だとは思うけど、恋愛とかそういうのはなんか違う気がして。それに、今はあなたたち3人といるのが忙しすぎてそれどころじゃないからね」
リーシャはニッと笑った。
本当はここで3人に対する思いを言ってしまえばよかったのだろう。けれどやはり、照れくさくなって口に出すことができなかった。
そんなことなど知らないルシアはリーシャの答えに満足し、優しい笑みを浮かべた。
「ならいいんだ。リーシャの事諦めるって言うなら、何も問題ないな。ハンズの事は嫌いじゃないから、敵にならなくてよかった」
「敵って……」
「リーシャにちょっかいかけるやつは皆敵だ。とくにラディウスのヤローとか」
ルシアはとても嫌な顔をした。
リーシャは、それだけの事で相手を敵だと言っているのにも驚いたけれど、なにより話題にも上がっていないのに瞬時にラディウスの名前が出てきた事に唖然としていた。
「えーっと……ほんと、ルシアはラディウスの事嫌いだよね」
「嫌いっつーか、油断ならねぇやつだし、睨みきかせとかねぇと何してくるかわかんねぇだろ、アイツ」
「そっ、そっかぁ……」
もはやリーシャは苦笑するしかなかった。
ルシアとそんな話をしていると、不意に横から服が軽く引っ張られた。気のせいかと思いつつ顔を向けると、エリアルがリーシャの服を握っていた。
「ねぇねぇ、寒くなってきたしもう帰ろ」
日が傾き始め、空気が冷たくなってきている。
それにエリアルはさっきまで川遊びをしていて、体を冷やしてしまっているようだ。よく見ると寒そうにわずかに体を震わせていた。風邪をひかせては大変だ。
「そうだね。帰って夕飯にしよ。その魚……夕飯にする?」
「うん!」
「じゃあ荷物片づけないとね」
リーシャが芝生に広げていたシートや弁当箱をカバンの中へ詰め込み始めると、ノアとルシアもリーシャの手伝いを始めた。エリアルは魚を抱えたまま片付けが終わるのを待っている。
結局リーシャは、ハンズには自分の思いを伝えられたけれど、肝心なノアたち兄弟には伝えることはできなかった。何のきっかけもなしに伝えるのは余計に勇気がいる。
(次こそは……ちゃんと言わないと)
思い切れなかったリーシャは、次にきっかけが出来た時こそは言おうと密かに心に決めた。
考え事をしながらも、荷物をまとめ終わったリーシャは、カバンを肩に下げた。
「これでよし。忘れ物ないよね?」
「大丈夫だ。リーシャ、その荷物俺が持つよ」
「ありがと、ルシア。じゃあ、お願いね」
「おう」
リーシャが素直にカバンを差し出すと、ルシアは満足そうな顔をした。
そして4人は元来た森の中の道を歩き、家へと帰って行った。
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