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始まりの予兆
王子と死竜(3)
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「たっ、助かったぁ……」
「……リーシャ」
「……あっ」
今日1番の不機嫌顔したノアが背後に立っていた。
関係ないのに責任をなすりつけられたのだからこの表情も仕方ない。
リーシャは冷や汗を浮かべ、ノアを見た。
「シャノウさんの事を言うわけにはいかかなかったから。ごめんね?」
「……わるいと思っているのなら、お前からしてもらおうか」
「するって、何を……?」
こういうお仕置きじみた言い方をしている時の要求と言えば、なんとなく想像はつく。
けれどリーシャは、言いづらくてわからないふりをした。
「わからないか?」
「わから、ない」
「口づけだ。頬にでもいい。こんな機会にでも少しずつでも慣らさなければ先に進めないからな」
「先って……」
「わかるだろう?」
リーシャは赤面した。
(ノアが言う“先”って、番った後の……)
リーシャはわかるもわからないも言えなかった。
戦う音が響く部屋の中、雰囲気もなにもない。フェンリルもシャノウも戦いに集中し、エリアルも2人の戦う姿に目を奪われている。
「ノア……」
リーシャは耳を貸してともとれる手招きをした。
ノアはフッと笑い、リーシャの指示に従う。
「1回だけね」
リーシャは目を閉じ、唇をノアの頬に押し当てた。
「黙っててよね」
「上等」
ノアは満足そうに口角を上げ、そしてお返しだとでも言うようにリーシャの頬に唇を触れさせ、離れ際に舌先で撫でていった。
「なっ!」
驚いて見ると、ノアは舌なめずりをして楽しげな顔をしていた。リーシャは何も言えず、さらに顔を赤らめた。
すると、フェンリルたちへと視線を向けたノアが口を開いた。
「さて、そろそろあの2人、止めた方がいいんじゃないか?」
「え?」
気がつくと、フェンリルがボロボロになっていた。
「うわっ! シャノウさん、お願いだから止まって‼ フェンリルも!」
リーシャの声が届いているのかいないのかわからないけれど、彼らが止まる気配はなかった。
リーシャは腰につけている袋から植物の種を取り出した。種に向かって多めに魔力を込めるとフェンリルとシャノウに向かって投げつけた。
「芽生えろぉぉ!」
リーシャの言葉に従い種は即座に芽生え、1人と1匹に向かってツタを伸ばした。
「なんだ⁉」
「グァウ⁉」
ツタは急成長を遂げ、通常の何倍もの太さでフェンリルとシャノウに巻き付き、動きを止めた。
けれど、シャノウの方は体を巨大化させるエネルギーで引きちぎろうとしているようで、巻き付いたツタがメキメキという音を立てている。
このままでは一方的にフェンリルが攻撃を受けてしまうと思ったリーシャはシャノウに駆け寄った。
「シャノウさん! もういいでしょ! これ以上やったら人が来ちゃうから! そしたら、シャノウさんもう指輪から出られなくなっちゃうかもしれないよ!」
「グアァァ!」
言葉がわからなくても、シャノウが何を思ったかはわかる。
(やめる気は無いってことだよね)
リーシャはそれならばと、掌をシャノウに向かって突き出した。
「じゃあ、ここからは私が。気が済むまで相手してあげる」
「……グゥゥ」
リーシャは自分が相手なら止まってくれるのではないかと望みをかけた。もしこのまま敵対行動をとられ、仮にシャノウが全力で向かってきたら、さすがにこの場の人数では手が付けられないだろう。
けれどそんな心配は不要だった。シャノウはリーシャの望み通り動きを止めた。
そして大人しくツタに絡まれた体で床に伏せた。
「ありがとう、シャノウさん」
「グウゥゥゥゥ……」
今シャノウが何を言ったのかわからず、リーシャは首を傾げ、ノアを見た。
「お前のためではない。アイツとの約束のためだ。だそうだ」
「……それでもだよ。シャノウさん」
リーシャが笑いかけると、シャノウはいつものごとくそっぽをむいた。
「……リーシャ」
「……あっ」
今日1番の不機嫌顔したノアが背後に立っていた。
関係ないのに責任をなすりつけられたのだからこの表情も仕方ない。
リーシャは冷や汗を浮かべ、ノアを見た。
「シャノウさんの事を言うわけにはいかかなかったから。ごめんね?」
「……わるいと思っているのなら、お前からしてもらおうか」
「するって、何を……?」
こういうお仕置きじみた言い方をしている時の要求と言えば、なんとなく想像はつく。
けれどリーシャは、言いづらくてわからないふりをした。
「わからないか?」
「わから、ない」
「口づけだ。頬にでもいい。こんな機会にでも少しずつでも慣らさなければ先に進めないからな」
「先って……」
「わかるだろう?」
リーシャは赤面した。
(ノアが言う“先”って、番った後の……)
リーシャはわかるもわからないも言えなかった。
戦う音が響く部屋の中、雰囲気もなにもない。フェンリルもシャノウも戦いに集中し、エリアルも2人の戦う姿に目を奪われている。
「ノア……」
リーシャは耳を貸してともとれる手招きをした。
ノアはフッと笑い、リーシャの指示に従う。
「1回だけね」
リーシャは目を閉じ、唇をノアの頬に押し当てた。
「黙っててよね」
「上等」
ノアは満足そうに口角を上げ、そしてお返しだとでも言うようにリーシャの頬に唇を触れさせ、離れ際に舌先で撫でていった。
「なっ!」
驚いて見ると、ノアは舌なめずりをして楽しげな顔をしていた。リーシャは何も言えず、さらに顔を赤らめた。
すると、フェンリルたちへと視線を向けたノアが口を開いた。
「さて、そろそろあの2人、止めた方がいいんじゃないか?」
「え?」
気がつくと、フェンリルがボロボロになっていた。
「うわっ! シャノウさん、お願いだから止まって‼ フェンリルも!」
リーシャの声が届いているのかいないのかわからないけれど、彼らが止まる気配はなかった。
リーシャは腰につけている袋から植物の種を取り出した。種に向かって多めに魔力を込めるとフェンリルとシャノウに向かって投げつけた。
「芽生えろぉぉ!」
リーシャの言葉に従い種は即座に芽生え、1人と1匹に向かってツタを伸ばした。
「なんだ⁉」
「グァウ⁉」
ツタは急成長を遂げ、通常の何倍もの太さでフェンリルとシャノウに巻き付き、動きを止めた。
けれど、シャノウの方は体を巨大化させるエネルギーで引きちぎろうとしているようで、巻き付いたツタがメキメキという音を立てている。
このままでは一方的にフェンリルが攻撃を受けてしまうと思ったリーシャはシャノウに駆け寄った。
「シャノウさん! もういいでしょ! これ以上やったら人が来ちゃうから! そしたら、シャノウさんもう指輪から出られなくなっちゃうかもしれないよ!」
「グアァァ!」
言葉がわからなくても、シャノウが何を思ったかはわかる。
(やめる気は無いってことだよね)
リーシャはそれならばと、掌をシャノウに向かって突き出した。
「じゃあ、ここからは私が。気が済むまで相手してあげる」
「……グゥゥ」
リーシャは自分が相手なら止まってくれるのではないかと望みをかけた。もしこのまま敵対行動をとられ、仮にシャノウが全力で向かってきたら、さすがにこの場の人数では手が付けられないだろう。
けれどそんな心配は不要だった。シャノウはリーシャの望み通り動きを止めた。
そして大人しくツタに絡まれた体で床に伏せた。
「ありがとう、シャノウさん」
「グウゥゥゥゥ……」
今シャノウが何を言ったのかわからず、リーシャは首を傾げ、ノアを見た。
「お前のためではない。アイツとの約束のためだ。だそうだ」
「……それでもだよ。シャノウさん」
リーシャが笑いかけると、シャノウはいつものごとくそっぽをむいた。
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