魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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始まりの予兆

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 フェンリルは興味深そうに、リーシャの話に耳を傾けていた。そして話し終えると、突然フェンリルは頭を抱えた。

「お前さ……なんでそんな大事おおごとになるような隠し事ばっかしてんだよ。しかもさっきはもうないみたいな言い方してたくせに。バカじゃねぇの?」
「私だって、好きで増やしてるわけじゃ……」

 知られたくない隠し事をまだ抱えているリーシャの声は小さく、言葉に詰まった。
 その様子を見ていたフェンリルは何か言いたげな顔をした。

「つーことはお前、もう1つ隠してることあるな? わりと重要な事」

 リーシャの心臓が大きく跳ねた。

「な、何?」
「お前、カルディスの指輪の発動条件はわかってるよな?」
「うん……中の召喚獣が持つ、有属性の魔力と同じ属性の、魔力を流し続けること、でしょ?」

 声を絞り出すように問いに答えた。恐れていた事態が目の前に迫っていることを悟ったリーシャの表情は曇っていた。

(……気がつかないでほしかった……)

 リーシャの思いを察したのか、ノアは横からそっとリーシャの力のこもった拳に手を添えた。何も言ってはくれなかったけれど、何があっても味方だと、その動作が語っている。
 フェンリルはリーシャの回答にそうだと頷くと、話を続けた。

「この国で保管している指輪の中にいるのはローインパーズ。召喚するにはこいつが持つ属性の土、風、雷の魔力をある一定の割合で流し続ける必要がある。実際にその条件で召喚に成功したという記述も残ってる。お前が持ってるのもその条件で間違いないか?」
「……うん」
「お前の話を全て信じるとすると、姿形や変異した条件からして死竜ってのは竜であると同時に、死を司るアンデッド系統の生き物の可能性が高い。そうなると死竜の持つ有属性は闇じゃないかと推測される」
「ねぇ、フェンリル……」

 ここまで言われてしまえば、フェンリルが口にしようとしている事とは何なのか、明白だった。
 リーシャの心臓は激しく警鐘を打ち鳴らしている。

(お願い……言わないで。気がつかないふりをして)

 フェンリルは、そんなリーシャの思いを他所に解説を続けた。

「さらに言うと、噂程度の情報しか持ち合わせてないが、死竜になる前の姿、暗黒竜も闇の属性だ」
「……て」
「その魔道具の中にいる竜の属性は闇とみて、ほぼ間違いないだろう」
「……めて」
「つまりそいつを召喚させることに成功したリーシャ、お前も闇の魔力を持っているってことだ」
「やめて!」

 大きな声に驚いたエリアルは、体をびくりとふるわせた。そして心配そうにリーシャの事を見つめた。

「ねぇちゃん……」

 様子がおかしいと気がついているはずなのに、フェンリルは追及を止めはしなかった。

「違うか?」
「……わかっても知らないふりをしてほしかった」
「やっぱそうか……大丈夫だ。俺はこのことを広めるつもりはない」
「じゃあ、なんでわざわざ」
「リーシャ、お前を出来る限り守ってやるためだ」
「守るため?」

 リーシャとフェンリルはほとんど関わりがない。
 それなのに何故わざわざ守ろうというのか、リーシャには理解できなかった。

「言っただろ? お前の隠し事がたとえバレたとしても、俺が先回りして手を打てるかもって」
「うん」
「俺さ、お前の事だけじゃなく、ノアの事もルシアの事もエリアルの事も気に入ってんだよ。実際に会ったのはお前が城に来た時くらいしかねぇけどさ、街でいろいろと噂を聞いて、前から面白そうなやつらがいるなとは思ってたんだ。実際に会ってみてもその考えは変わんなかったし、王子とか関係なしに友達にでもなれたらなって思った。そんなお前が、お前らが窮地に立たされるようなことにはなって欲しくはない。まだ俺の事それほど信用できないかもしれねぇが、俺にも秘密を共有させてほしいんだ」

 フェンリルがまた頭を下げた。
 頭をあげさせなければとは思いつつも、リーシャの口からは別の言葉が出てきた。

「本当に? 本当に秘密にしてくれる?」
「ああ。ただ、さすがに指輪の事は親父に話しとかないとまずいから、それだけは勘弁してくれ。魔力の事はうまくごまかしとく」
「……わかった」

 リーシャは渋々頷いた。
 もう話は終わりだとリーシャが安心していると、フェンリルがなにか迷っているような表情をした。
 何を迷っているのだろうと見ていると、意を決したように口が開かれた。

「あとさ、もう1つ気がついちまったんだけど」
「何?」
「お前の生まれって……」
「……」

 どうやらフェンリルはリーシャが生まれてからずっと隠し続けてきた事も気がついてしまったらしい。
 何がきっかけだったのかはわからない。けれどそれはリーシャと亡くなった母親しか知らない事で間違いなさそうだ。
 リーシャのさらに曇った表情を見たフェンリルは首を横に振った。

「いや、これはお前が本気で隠しておきたいことなんだろうから、これ以上詮索しねぇでおくよ。合ってたとしても、俺らにとっちゃたいした隠し事でもないしな」
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