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始まりの予兆
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リーシャがフェンリルにどうつもりで言っているのか尋ねようと口を開きかけた時、先にノアが口を開いた。
「所有権も何も、これはリーシャが手にした物だ。これはリーシャのものだろう。王子とはいえ、個人の所有物にとやかく言う権利はないと思うが」
ノアの声には若干の敵意のような感情が混じっているようだった。
リーシャにはその理由が、リーシャの持ち物を取られそうになっているからだけではないように感じた。
おそらく、シャノウに対する感情からも来ているのだろう。共に過ごした時間はまだ短いけれど仲間だと認識し、連れ去られるわけにはいかないという意識がわずかながらにも働いているのかもしれない。
フェンリルはノアが発する空気にも微動だにしなかった。
「それがそうはいかないんだ」
「何故だ?」
「いいか? この魔道具の中にいる魔物は討伐するのにも骨が折れるやつらだ。その指輪自体、危険すぎる代物とも言われてる。回収されたことを限られた人間にしか知らせていないのは盗まれることを避けるため。そして、わざわざ離れた国同士で管理してんのは、大きすぎる力を1つの国に集中させないためだ。その意味、お前ならわかるよな?」
フェンリルはリーシャの事を見た。ある意味これはリーシャに対する牽制でもあるのだろう。
問いの答えに予想がついたリーシャは頷いた。
「召喚の魔道具が1人の人間のところに集まらないようにするため、だよね。もし指輪を扱える人のところに集まってしまったら、その人が悪い事をしようとした時止める手段がない。国も同じ。すべてを手にした人間が世界の支配者って言っても過言じゃないよ」
「ああ。そういう事だ」
「それくらいの事はわかってるつもりだよ」
事情を理解しているリーシャの回答に安心したようで、フェンリルの表情が和らいだ。
既にこの国がカルディスの指輪を1つ所有しているという事は、新たに見つかったこの指輪はどこかの大国に送らなければならないという事だ。リーシャもその必要性の理解はしている。
けれどこの指輪に関しては、既にリーシャの一存で所有権を放棄できる状況ではなくなっているのだ。
リーシャはフェンリルの説得を試みた。
「けどね、フェンリル。私はこの指輪は人に渡すわけにはいかないの」
「それはどういうつもりで言ってる?」
「別に世界の支配者になりたいとかそんなことはこれっぽっちも思ってないよ」
「だろうな。お前がそういうヤツじゃないのはわかってる。だがこの問題は、先に見つけたのが自分だから、この魔道具は自分のものだって言えるような問題じゃねぇんだ。お前の所有欲のために国を危険に曝すわけにはいかないんだ」
この指輪についてフェンリルに知られるのがあと数か月早ければ、リーシャだって素直に差し出しただろう。
けれどシャノウとの対面を果たし、竜王に彼の事を託された今、ここでカルディスの指輪を手放すことに同意してしまえば、竜王の信頼を裏切る事になる。それが竜王にバレれば、即竜との戦争になりかねない。国同士での争いよりそちらの方が恐ろしい。
リーシャは全力で首を横に振った。
「所有欲とかそういう問題じゃないの! その……これは今、私が預かってる状態だから。勝手に人にあげたりはできないの」
「? どういう事だ?」
フェンリルのカルディスの指輪を確実に回収しようとする意志が揺らいだようだった。眉間に皺を寄せながらもリーシャの事を見ている。
(これは……正直に話した方が良いよね?)
事情が分かればフェンリルはリーシャがカルディスの指輪を所有できるように取り計らってくれるかもしれない。
闇の魔力を扱えるとバレるのではと懸念を持ちつつも、リーシャは指輪に関する出来事を話す事にした。
「……実はね――……」
リーシャはフェンリルに竜王との約束、死竜になってしまった暗黒竜の話、そしてその死竜がこの指輪の中に捕らわれている事を簡単に説明した。
「所有権も何も、これはリーシャが手にした物だ。これはリーシャのものだろう。王子とはいえ、個人の所有物にとやかく言う権利はないと思うが」
ノアの声には若干の敵意のような感情が混じっているようだった。
リーシャにはその理由が、リーシャの持ち物を取られそうになっているからだけではないように感じた。
おそらく、シャノウに対する感情からも来ているのだろう。共に過ごした時間はまだ短いけれど仲間だと認識し、連れ去られるわけにはいかないという意識がわずかながらにも働いているのかもしれない。
フェンリルはノアが発する空気にも微動だにしなかった。
「それがそうはいかないんだ」
「何故だ?」
「いいか? この魔道具の中にいる魔物は討伐するのにも骨が折れるやつらだ。その指輪自体、危険すぎる代物とも言われてる。回収されたことを限られた人間にしか知らせていないのは盗まれることを避けるため。そして、わざわざ離れた国同士で管理してんのは、大きすぎる力を1つの国に集中させないためだ。その意味、お前ならわかるよな?」
フェンリルはリーシャの事を見た。ある意味これはリーシャに対する牽制でもあるのだろう。
問いの答えに予想がついたリーシャは頷いた。
「召喚の魔道具が1人の人間のところに集まらないようにするため、だよね。もし指輪を扱える人のところに集まってしまったら、その人が悪い事をしようとした時止める手段がない。国も同じ。すべてを手にした人間が世界の支配者って言っても過言じゃないよ」
「ああ。そういう事だ」
「それくらいの事はわかってるつもりだよ」
事情を理解しているリーシャの回答に安心したようで、フェンリルの表情が和らいだ。
既にこの国がカルディスの指輪を1つ所有しているという事は、新たに見つかったこの指輪はどこかの大国に送らなければならないという事だ。リーシャもその必要性の理解はしている。
けれどこの指輪に関しては、既にリーシャの一存で所有権を放棄できる状況ではなくなっているのだ。
リーシャはフェンリルの説得を試みた。
「けどね、フェンリル。私はこの指輪は人に渡すわけにはいかないの」
「それはどういうつもりで言ってる?」
「別に世界の支配者になりたいとかそんなことはこれっぽっちも思ってないよ」
「だろうな。お前がそういうヤツじゃないのはわかってる。だがこの問題は、先に見つけたのが自分だから、この魔道具は自分のものだって言えるような問題じゃねぇんだ。お前の所有欲のために国を危険に曝すわけにはいかないんだ」
この指輪についてフェンリルに知られるのがあと数か月早ければ、リーシャだって素直に差し出しただろう。
けれどシャノウとの対面を果たし、竜王に彼の事を託された今、ここでカルディスの指輪を手放すことに同意してしまえば、竜王の信頼を裏切る事になる。それが竜王にバレれば、即竜との戦争になりかねない。国同士での争いよりそちらの方が恐ろしい。
リーシャは全力で首を横に振った。
「所有欲とかそういう問題じゃないの! その……これは今、私が預かってる状態だから。勝手に人にあげたりはできないの」
「? どういう事だ?」
フェンリルのカルディスの指輪を確実に回収しようとする意志が揺らいだようだった。眉間に皺を寄せながらもリーシャの事を見ている。
(これは……正直に話した方が良いよね?)
事情が分かればフェンリルはリーシャがカルディスの指輪を所有できるように取り計らってくれるかもしれない。
闇の魔力を扱えるとバレるのではと懸念を持ちつつも、リーシャは指輪に関する出来事を話す事にした。
「……実はね――……」
リーシャはフェンリルに竜王との約束、死竜になってしまった暗黒竜の話、そしてその死竜がこの指輪の中に捕らわれている事を簡単に説明した。
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