202 / 419
始まりの予兆
隠し事(3)
しおりを挟む
リーシャは池の彼に被害が及ばないためにどう伝えようかと頭を悩ませた。
「あのね、今から言う事については、できればそっとしておいてほしいの」
「? 事と次第によるが、善処はしてやる」
「お願いします……この指輪はね、池に住み着いている魔物と知り合いになった時に持って来てくれたの……」
「は? 魔物が⁉」
フェンリルは目を見開いた。こんな話、普通ならありえないと一刀両断され、相手にもされないだろう。
魔の類の生物は、遭遇すると即座に襲い掛かってくる個体がほとんど。そんな生き物と知り合いになったなど頭がおかしくなったと思われてしまっても仕方ない。
けれどフェンリルは、ただ驚きはしたものの茶化すようなことはしなかった。
そのありえないような発言をしたのは、既に竜という危険な生き物を傍に置いているリーシャだ。リーシャならば魔物の知り合いがいてもおかしくはないという認識があるからこその反応だったのだろう。
リーシャはスコッチが悪いイメージを持たれないよう、弁明した。
「魔物って言っても言葉は通じるし、人間に敵対心とか持ってないから。むしろ私たちにいつも協力してくれてるの。ノアたちの事で王都に呼ばれた日も、騎士の人が家に近づきにくいように結界を張ったりして、私を助けようとしてくれたの」
「結界……なるほど。何故かお前の家に辿り着くのに時間がかかったという報告があったが、そういう事だったのか。だが、本当に信用してもいいのか? こっちを油断させて、とかなくはないだろ」
たしかになくはない話だ。けれどリーシャはスコッチに対して1度もそんな事を思った事などない。
スコッチは出会ったあの瞬間まで、リーシャを警戒し、見つからないように池の奥底で隠れて過ごしていた。にもかかわらず、池に潜ったエリアルを危険だからと水面まで連れて来てくれた。警戒していた相手の前に姿を現してまでだ。
そしてそんな彼は仲良くして欲しいと言い、それをリーシャが受け入れた時にみせた喜びは嘘には見えなかった。
「スコッチのおじちゃんはとっても優しいんだよ。いつも面白いお話聞かせてくれるんだから」
エリアルが口をとがらせて言った。スコッチを悪く言われたのが面白くなかったようだ。
「遊んでもらってるのか?」
「うん!」
「へー、いいおじさんだな」
フェンリルは優し気な瞳でエリアルの事を見ていた。エリアルの純粋な言葉に疑う気持ちも多少は解けたのかもしれない。
「絶対に信用できる、って言いたいけど、私はスコッチさんのこと全部知ってるわけじゃないから。けどそれって、人間同士でも言えることでしょ? ただ、スコッチさんと出会ってから、彼に対して危険だとか思ったことはないし、さっきも言ったけど色々助けてもらったりもしてるから信じたいって思ってる」
「そうか。ノアはどうだ? その魔物の事を信用できるか?」
ノアは軽く頷いた。
「ああ。少なくとも他国で暮らすあの忌々しい人間の雄よりは格段に信用している」
武闘大会の決勝でリーシャが戦ったラディウスの事を言っているのだろう。
フェンリルは少しの間考えた後、口を開いた。
「まあ、そういう事なら、その魔物に関しては聞かなかったことにしても問題ないか。だいぶ長い間そこに居ついてるみたいだが、何も手出ししてきてねえしな」
「ほんと? スコッチさんを討伐になんか来たりしたら、私全力で抵抗するからね?」
「ああ、大丈夫だって。その代わりリーシャ、ぜってぇ王都には連れてくんなよ」
これは冗談では言っていない。本気の目をしていた。
ノアたちが竜であることを隠していた時の事を隠していた時の事を考えればそう言われるのも仕方はない。けれどリーシャとしては、なんでもかんでも王都に連れて行くと思われているのは心外だった。
「魚型の魔物だから陸には上がれないよ」
「ならいい。つーかお前さ、何でそんなのとばっかりつるんでんだ? 実は魔物の友達100匹とか目指してねぇよな?」
リーシャは耳を疑った。フェンリルは本当にそう思っているようだったから。
リーシャは勢い余ってソファから腰を浮かせた。
「はあぁぁ⁉ なんでそうなるわけ⁉ 偶然だからっ! 好き好んで仲良くなりにいってるわけじゃないから!」
あらぬ誤解をされ、リーシャは全力の否定をしたのだった。
「あのね、今から言う事については、できればそっとしておいてほしいの」
「? 事と次第によるが、善処はしてやる」
「お願いします……この指輪はね、池に住み着いている魔物と知り合いになった時に持って来てくれたの……」
「は? 魔物が⁉」
フェンリルは目を見開いた。こんな話、普通ならありえないと一刀両断され、相手にもされないだろう。
魔の類の生物は、遭遇すると即座に襲い掛かってくる個体がほとんど。そんな生き物と知り合いになったなど頭がおかしくなったと思われてしまっても仕方ない。
けれどフェンリルは、ただ驚きはしたものの茶化すようなことはしなかった。
そのありえないような発言をしたのは、既に竜という危険な生き物を傍に置いているリーシャだ。リーシャならば魔物の知り合いがいてもおかしくはないという認識があるからこその反応だったのだろう。
リーシャはスコッチが悪いイメージを持たれないよう、弁明した。
「魔物って言っても言葉は通じるし、人間に敵対心とか持ってないから。むしろ私たちにいつも協力してくれてるの。ノアたちの事で王都に呼ばれた日も、騎士の人が家に近づきにくいように結界を張ったりして、私を助けようとしてくれたの」
「結界……なるほど。何故かお前の家に辿り着くのに時間がかかったという報告があったが、そういう事だったのか。だが、本当に信用してもいいのか? こっちを油断させて、とかなくはないだろ」
たしかになくはない話だ。けれどリーシャはスコッチに対して1度もそんな事を思った事などない。
スコッチは出会ったあの瞬間まで、リーシャを警戒し、見つからないように池の奥底で隠れて過ごしていた。にもかかわらず、池に潜ったエリアルを危険だからと水面まで連れて来てくれた。警戒していた相手の前に姿を現してまでだ。
そしてそんな彼は仲良くして欲しいと言い、それをリーシャが受け入れた時にみせた喜びは嘘には見えなかった。
「スコッチのおじちゃんはとっても優しいんだよ。いつも面白いお話聞かせてくれるんだから」
エリアルが口をとがらせて言った。スコッチを悪く言われたのが面白くなかったようだ。
「遊んでもらってるのか?」
「うん!」
「へー、いいおじさんだな」
フェンリルは優し気な瞳でエリアルの事を見ていた。エリアルの純粋な言葉に疑う気持ちも多少は解けたのかもしれない。
「絶対に信用できる、って言いたいけど、私はスコッチさんのこと全部知ってるわけじゃないから。けどそれって、人間同士でも言えることでしょ? ただ、スコッチさんと出会ってから、彼に対して危険だとか思ったことはないし、さっきも言ったけど色々助けてもらったりもしてるから信じたいって思ってる」
「そうか。ノアはどうだ? その魔物の事を信用できるか?」
ノアは軽く頷いた。
「ああ。少なくとも他国で暮らすあの忌々しい人間の雄よりは格段に信用している」
武闘大会の決勝でリーシャが戦ったラディウスの事を言っているのだろう。
フェンリルは少しの間考えた後、口を開いた。
「まあ、そういう事なら、その魔物に関しては聞かなかったことにしても問題ないか。だいぶ長い間そこに居ついてるみたいだが、何も手出ししてきてねえしな」
「ほんと? スコッチさんを討伐になんか来たりしたら、私全力で抵抗するからね?」
「ああ、大丈夫だって。その代わりリーシャ、ぜってぇ王都には連れてくんなよ」
これは冗談では言っていない。本気の目をしていた。
ノアたちが竜であることを隠していた時の事を隠していた時の事を考えればそう言われるのも仕方はない。けれどリーシャとしては、なんでもかんでも王都に連れて行くと思われているのは心外だった。
「魚型の魔物だから陸には上がれないよ」
「ならいい。つーかお前さ、何でそんなのとばっかりつるんでんだ? 実は魔物の友達100匹とか目指してねぇよな?」
リーシャは耳を疑った。フェンリルは本当にそう思っているようだったから。
リーシャは勢い余ってソファから腰を浮かせた。
「はあぁぁ⁉ なんでそうなるわけ⁉ 偶然だからっ! 好き好んで仲良くなりにいってるわけじゃないから!」
あらぬ誤解をされ、リーシャは全力の否定をしたのだった。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった
むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。
✳✳✳
夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。
目覚めた場所は小さな泉の辺り。
転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。
何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?!
だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。
本編完結済み。たまに番外編投稿します。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる