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始まりの予兆

隠し事(3)

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 リーシャは池の彼に被害が及ばないためにどう伝えようかと頭を悩ませた。

「あのね、今から言う事については、できればそっとしておいてほしいの」
「? 事と次第によるが、善処はしてやる」
「お願いします……この指輪はね、池に住み着いている魔物と知り合いになった時に持って来てくれたの……」
「は? 魔物が⁉」

 フェンリルは目を見開いた。こんな話、普通ならありえないと一刀両断され、相手にもされないだろう。
 魔の類の生物は、遭遇すると即座に襲い掛かってくる個体がほとんど。そんな生き物と知り合いになったなど頭がおかしくなったと思われてしまっても仕方ない。
 けれどフェンリルは、ただ驚きはしたものの茶化すようなことはしなかった。
 そのありえないような発言をしたのは、既に竜という危険な生き物を傍に置いているリーシャだ。リーシャならば魔物の知り合いがいてもおかしくはないという認識があるからこその反応だったのだろう。
 リーシャはスコッチが悪いイメージを持たれないよう、弁明した。

「魔物って言っても言葉は通じるし、人間に敵対心とか持ってないから。むしろ私たちにいつも協力してくれてるの。ノアたちの事で王都に呼ばれた日も、騎士の人が家に近づきにくいように結界を張ったりして、私を助けようとしてくれたの」
「結界……なるほど。何故かお前の家に辿り着くのに時間がかかったという報告があったが、そういう事だったのか。だが、本当に信用してもいいのか? こっちを油断させて、とかなくはないだろ」

 たしかになくはない話だ。けれどリーシャはスコッチに対して1度もそんな事を思った事などない。
 スコッチは出会ったあの瞬間まで、リーシャを警戒し、見つからないように池の奥底で隠れて過ごしていた。にもかかわらず、池に潜ったエリアルを危険だからと水面まで連れて来てくれた。警戒していた相手の前に姿を現してまでだ。
 そしてそんな彼は仲良くして欲しいと言い、それをリーシャが受け入れた時にみせた喜びは嘘には見えなかった。

「スコッチのおじちゃんはとっても優しいんだよ。いつも面白いお話聞かせてくれるんだから」

 エリアルが口をとがらせて言った。スコッチを悪く言われたのが面白くなかったようだ。

「遊んでもらってるのか?」
「うん!」
「へー、いいおじさんだな」

 フェンリルは優し気な瞳でエリアルの事を見ていた。エリアルの純粋な言葉に疑う気持ちも多少は解けたのかもしれない。

「絶対に信用できる、って言いたいけど、私はスコッチさんのこと全部知ってるわけじゃないから。けどそれって、人間同士でも言えることでしょ? ただ、スコッチさんと出会ってから、彼に対して危険だとか思ったことはないし、さっきも言ったけど色々助けてもらったりもしてるから信じたいって思ってる」
「そうか。ノアはどうだ? その魔物の事を信用できるか?」

 ノアは軽く頷いた。

「ああ。少なくとも他国で暮らすあの忌々しい人間の雄よりは格段に信用している」

 武闘大会の決勝でリーシャが戦ったラディウスの事を言っているのだろう。
 フェンリルは少しの間考えた後、口を開いた。

「まあ、そういう事なら、その魔物に関しては聞かなかったことにしても問題ないか。だいぶ長い間そこに居ついてるみたいだが、何も手出ししてきてねえしな」
「ほんと? スコッチさんを討伐になんか来たりしたら、私全力で抵抗するからね?」
「ああ、大丈夫だって。その代わりリーシャ、ぜってぇ王都には連れてくんなよ」

 これは冗談では言っていない。本気の目をしていた。
 ノアたちが竜であることを隠していた時の事を隠していた時の事を考えればそう言われるのも仕方はない。けれどリーシャとしては、なんでもかんでも王都に連れて行くと思われているのは心外だった。

「魚型の魔物だから陸には上がれないよ」
「ならいい。つーかお前さ、何でそんなのとばっかりつるんでんだ? 実は魔物の友達100匹とか目指してねぇよな?」

 リーシャは耳を疑った。フェンリルは本当にそう思っているようだったから。
 リーシャは勢い余ってソファから腰を浮かせた。

「はあぁぁ⁉ なんでそうなるわけ⁉ 偶然だからっ! 好き好んで仲良くなりにいってるわけじゃないから!」

 あらぬ誤解をされ、リーシャは全力の否定をしたのだった。
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