上 下
200 / 419
始まりの予兆

隠し事(1)

しおりを挟む
「もう言い逃れはできねぇぞ。で? 隠してる事って何だよ」

 フェンリルはニヤつき、浮かれた声をしていた。これまでの国のことを案じて深刻そうにしていたのが嘘のように思える態度。
 あまりの変わりように、何か良からぬことでも考えていないだろうかと思ったリーシャは怪しむような視線を向けた。

「……なんで嬉しそうなわけ?」
「そりゃあ決まってんだろ。どんなとんでもない隠し事が出てくるのか楽しみだからだよ」
「もし隠し事が、また国の危機になるような事だったらどうするのよ」
「そん時はそん時だ。また考えればいい。だからリーシャ、さっさと白状しちまえよ」

 なにがなんでも聞き出そうというのが見て取れるほどフェンリルは上機嫌だ。
 本当に悪い知らせだったらどうするんだど思い、リーシャは溜め息をついた。

「もう……いい加減だなぁ」

 そして口を閉じ、何を話そうか考えた。
 隠し事に分類されることと言えば、まずカルディスの指輪の事だろう。
 かなり貴重な魔道具であると同時に、召喚獣が先ほどまで話題になっていた竜が成れ果てた生物だ。竜王の友だという事もあり、今後の竜たちの動向に影響を与える可能性がある。
 あとはリーシャ自身が闇の魔力を操れるという事だ。これに関しては、フェンリルに伝えなかったからといって問題になりそうな要素は今のところ思い当たらない。むしろ伝えたことでリーシャに降りかかる問題の方が多そうだ。
 ただ、カルディスの指輪について追及されれば闇の魔力を所持しているとバレる可能性がある。故に召喚方法については絶対に教えてはいけない。
 結論として、リーシャはカルディスの指輪について話すことにした。

(うまくごまかされてくれればいいんだけど……)

 リーシャは大きく深呼吸するとフェンリルの事を真っすぐに見た。

「フェンリル」
「なんだ? やっと白状する気になったのか?」
「……いちいち私が悪いことしてるみたいな言い方しないでもらえます?」
「わりぃ、わりぃ。んで?」

 絶対に悪いと思っていない言い方だ。
 リーシャは不快そうに少し眉間に皺を寄せはしたけれど、それには触れず話を続ける事にした。毎回反応し続けていたら自分の体力が削られるだけだ。

「……フェンリルはカルディスの指輪って知ってる?」
「カルディスの指輪? どっかで聞いたな。ちょっと待ってくれ……」

 フェンリルも真剣に話を受け止め始めたようで、リーシャの言葉と自身の記憶と結び付けようとしているのか、瞼を閉じた。
 説明した方が早いのだけれど、かなり真面目に思い出そうとしていたので、リーシャはあえて黙って待つことにした。
 フェンリルはしばらく難問を解くかのような表情を続けた後、突然目を開いた。

「ああ! あの召喚の指輪か! 魔物が封じ込められてるってやつ」
「そう、それ。よく知ってたね。あんまり知られてない魔道具なのに」

 知っているのは限られた魔道具技師や珍しい魔道具を収集している人間くらいだ。彼らですら幻のような扱いをしている魔道具なので、魔道具に興味がない人間が知っている方が珍しい。
 リーシャに褒められた事で気分を良くしたらしく、フェンリルは誇らしげにふんぞり返った。

「そりゃな。城の宝物庫に1つあるからな」
「へぇ。そうなんだ。宝物庫に……えっ?」

 やや鼻につく態度のせいで一瞬流しかけたけれど、聞き捨てならない事実に気付いたリーシャは時が停止したように固まった。
 カルディスの指輪は全て行方知れずとなっている。それが実は見つかっていたという事実はリーシャにとってもかなりの衝撃で、理解が追い付いた時には無意識に大きな声を出していた。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉」

 その声の大きさは、爆睡していたエリアルが飛び起きてしまうほどだった。
 寝起きのエリアルは混乱しているようで、寝ぼけ眼で周囲を見回した。

「リーシャねぇちゃん⁉ どうしたの⁉」
「ごっ、ごめんね、エリアル。話してた内容にびっくりしちゃっただけで、なんでもないから」
「そうなの? それならいいや。ふあぁぁ……」

 どうやら十分眠れたらしく、エリアルは大きく伸びをしてソファに座り直した。
 フェンリルの方は手で耳を塞いでいたらしく、今は眉間に皺を寄せて迷惑そうにリーシャの事を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...