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始まりの予兆
危険信号(2)
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躊躇うリーシャを見ていられなくなったのか、ノアは後押すような事を口に出した。
「リーシャ。それくらいは言っても問題ないだろう。そもそもアイツも人間側に情報が筒抜けになる事は承知の内。知られてもいい事しか俺たちに話していないはずだ」
「うん。そう、だね……そうだよね」
リーシャたちの会話に、フェンリルが前のめりになりながらくいついた。
「なんか知ってんのか‼」
勢いよく机を鳴らすものなので、驚いたリーシャは弾かれたように体を仰け反らせた。そうしてしまうほどフェンリルは今の状況に頭を悩ませているのだろう。
リーシャは決心し、姿勢を正して頷いた。
「うん。フェンリルたちが知りたがってる原因っていうのはあるにはあるんだけど、それは今の私たちじゃどうすることもできないよ」
「どういう事だ?」
「今竜たちの行動が活発化してる理由の原点が、過去に絶滅に追い込まれる程に仲間を殺されて、自分たちの領土を奪われた事にあるの。その恨みが原因だから取り除くことは無理」
「……それは推測か? そう言い切れる根拠は?」
「あるよ。これまでに別々に会った竜2匹がそう言ってたから。だから間違いないと思う。若い世代の竜が人間に戦いを仕掛けようとしてる、って」
リーシャがそう答えると、フェンリルは目を見開き、声を張り上げた。
「戦いをって……お前なぁ! そういう重要な事、なんですぐに報告しないんだ!」
フェンリルの剣幕は、強敵に1人で突っ込んでいこうとするリーシャも一瞬たじろぐほどだった。
竜が仕掛けてこようとしている事を黙っていたのは良くなかったし、フェンリルが怒りたくなるのもわかる。だからと言ってこんなに怒鳴られるのは納得できなかった。
リーシャは声を振り絞って言い返した。
「で、できるわけないじゃない! 簡単にこんなことを報告するだなんて!」
「なんでだよ!」
「だって相手は竜なんだよ! ノアたちの事だけでも問題山積みだったのに。初めてその事を聞いたのはまだノアたちの事を隠してた頃だったし、フェンリルと関わりなんてなかったんだよ⁉ そんな報告をして竜側の間者だとか頭おかしいヤツだとか思われるの、嫌だったんだもん! それに今すぐ起こるような言い方じゃなかったから忘れてたの。確信めいたことを教えてもらったのも、わりと最近で……」
言っているうちにリーシャは徐々に冷静さを取り戻した。
結局のところ報告せずに忘れていたのも、竜王から聞いた事を誰にも言わずそのままにしていたのも自分の判断による結果だ。こうしてフェンリルたちが訊ねて来なければ、人間は何も知らず滅せられていたかもしれない。
そう気がついたリーシャの顔色はみるみるうちに悪くなっていった。
リーシャの俯く様を見ていたフェンリルはバツの悪そうな表情をした。いきなり責め立てるように言った事を後悔したらしい。
フェンリルは落ち着くため大きく息を吐き題した。
「……怒鳴ってわるかった」
「うん。こっちもごめんなさい」
フェンリルはソファに座り直すと、腕を組んで渋い顔をした。
「つーか、竜どもはそんな昔の事を今さら引っ張り出してくんのかよ。その頃生きてた人間なんてもういねぇだろ。いい迷惑だってんだ、ったく」
竜の生態をよく知らない人間の反応としてはそうなるのも仕方ない。
けれど、長い時を生きる竜にとってはその出来事は遠い昔の出来事といえるほど昔でもない。
これが寿命の違う生き物の感じ方の違いなのだ。
「竜にとってはそうじゃないんだよ。今でもその頃から生きてる竜はいるから」
「はぁ……そうか。竜は長く生きる生物だったな」
「そうだよ。でも戦おうとしているのはその後に生まれてきた竜たちみたいではあるけどね。広い土地で暮らしたいと思ってるのかもしれない」
ただ単に復讐しようとしている可能性も非常に高いけれど、もしかしたら自分たちが暮らせる新たな土地を求めているのかもしれない。
リーシャは後者であってほしいと思った。
それならば交渉の余地はあるはずだ。
「リーシャ。それくらいは言っても問題ないだろう。そもそもアイツも人間側に情報が筒抜けになる事は承知の内。知られてもいい事しか俺たちに話していないはずだ」
「うん。そう、だね……そうだよね」
リーシャたちの会話に、フェンリルが前のめりになりながらくいついた。
「なんか知ってんのか‼」
勢いよく机を鳴らすものなので、驚いたリーシャは弾かれたように体を仰け反らせた。そうしてしまうほどフェンリルは今の状況に頭を悩ませているのだろう。
リーシャは決心し、姿勢を正して頷いた。
「うん。フェンリルたちが知りたがってる原因っていうのはあるにはあるんだけど、それは今の私たちじゃどうすることもできないよ」
「どういう事だ?」
「今竜たちの行動が活発化してる理由の原点が、過去に絶滅に追い込まれる程に仲間を殺されて、自分たちの領土を奪われた事にあるの。その恨みが原因だから取り除くことは無理」
「……それは推測か? そう言い切れる根拠は?」
「あるよ。これまでに別々に会った竜2匹がそう言ってたから。だから間違いないと思う。若い世代の竜が人間に戦いを仕掛けようとしてる、って」
リーシャがそう答えると、フェンリルは目を見開き、声を張り上げた。
「戦いをって……お前なぁ! そういう重要な事、なんですぐに報告しないんだ!」
フェンリルの剣幕は、強敵に1人で突っ込んでいこうとするリーシャも一瞬たじろぐほどだった。
竜が仕掛けてこようとしている事を黙っていたのは良くなかったし、フェンリルが怒りたくなるのもわかる。だからと言ってこんなに怒鳴られるのは納得できなかった。
リーシャは声を振り絞って言い返した。
「で、できるわけないじゃない! 簡単にこんなことを報告するだなんて!」
「なんでだよ!」
「だって相手は竜なんだよ! ノアたちの事だけでも問題山積みだったのに。初めてその事を聞いたのはまだノアたちの事を隠してた頃だったし、フェンリルと関わりなんてなかったんだよ⁉ そんな報告をして竜側の間者だとか頭おかしいヤツだとか思われるの、嫌だったんだもん! それに今すぐ起こるような言い方じゃなかったから忘れてたの。確信めいたことを教えてもらったのも、わりと最近で……」
言っているうちにリーシャは徐々に冷静さを取り戻した。
結局のところ報告せずに忘れていたのも、竜王から聞いた事を誰にも言わずそのままにしていたのも自分の判断による結果だ。こうしてフェンリルたちが訊ねて来なければ、人間は何も知らず滅せられていたかもしれない。
そう気がついたリーシャの顔色はみるみるうちに悪くなっていった。
リーシャの俯く様を見ていたフェンリルはバツの悪そうな表情をした。いきなり責め立てるように言った事を後悔したらしい。
フェンリルは落ち着くため大きく息を吐き題した。
「……怒鳴ってわるかった」
「うん。こっちもごめんなさい」
フェンリルはソファに座り直すと、腕を組んで渋い顔をした。
「つーか、竜どもはそんな昔の事を今さら引っ張り出してくんのかよ。その頃生きてた人間なんてもういねぇだろ。いい迷惑だってんだ、ったく」
竜の生態をよく知らない人間の反応としてはそうなるのも仕方ない。
けれど、長い時を生きる竜にとってはその出来事は遠い昔の出来事といえるほど昔でもない。
これが寿命の違う生き物の感じ方の違いなのだ。
「竜にとってはそうじゃないんだよ。今でもその頃から生きてる竜はいるから」
「はぁ……そうか。竜は長く生きる生物だったな」
「そうだよ。でも戦おうとしているのはその後に生まれてきた竜たちみたいではあるけどね。広い土地で暮らしたいと思ってるのかもしれない」
ただ単に復讐しようとしている可能性も非常に高いけれど、もしかしたら自分たちが暮らせる新たな土地を求めているのかもしれない。
リーシャは後者であってほしいと思った。
それならば交渉の余地はあるはずだ。
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