上 下
196 / 419
始まりの予兆

竜の被害(3)

しおりを挟む
(あれ? じゃあなんで私はこの話聞かされてるの……?)

 リーシャは王家に仕えているわけでもない、ただの国民だ。部外者に何故わざわざこんな情報を与えたのかという疑問が浮かんだ。

「そんな重要事項、何で私たちに聞かせるんでしょうか?」

 リーシャが首をかしげていると、フェンリルが地図越しに机をトントンと叩いた。先ほどまでのお気楽な様子から打って変わった、気難しそうな顔をしている。

「お前、これ見てどう思う?」
「どうって……なんで私に聞くんで……聞くの?」
「簡単な事だろう。リーシャ、お前が誰よりも竜との接点を持ち、竜の事を理解しているからだ。ノアたちと生活を共にし、野生の竜とも接触し、会話までしている」
「それはそうだけど。フェンリルが知りたがってるような答えなんて私にはからないよ?」
「別に完璧な答えなんざ求めてねぇよ。ただ、俺たち王族は国を守るために現状を打開する方法を探らないとならない。が、悲しいことに何が起きてるのか全く分からない。だから何らかの情報を持っている可能性のあるリーシャ、お前に恥を忍んで頭を下げるんだ……頼む」

 フェンリルは突然立ち上がると、本当に深々と頭を下げた。
 あまりに突然の、予想外のその行動にリーシャも慌てて立ち上がった。

「フェンリル! 私なんかに頭下げたらダメだよ! 頭を上げて、協力するから」
「ありがとう」

 上げられたフェンリルの笑顔は曇っていた。まるで自分のふがいなさに耐えているような表情だ。
 いつも軽い人間のように振る舞ってはいるけれど、国のために恥を忍んで真剣に頭を下げるフェンリルに、リーシャは報いたいと思った。
 ただ、それに報えるほどの物を自分が持っているのかという疑問はある。
 そんな心配をしていると、突然フェンリルが眉を下げて弱々しく笑い始めた。

「つーかお前、今自分の事を私なんかっつったけど、城の中ではわりとお前、重要人物扱いになってるからな」
「えぇ⁉」

 思いもよらない事実にリーシャは目を丸くした。

「そりゃそうだろ。お前だけでどんだけの戦力抱えてると思ってんだ。非常識レベルの魔法を使うお前が、竜を3匹も連れてんだぜ? 危険人物とか言われて暗殺されてもおかしくないくらいだぞ」
「うそ……」

 リーシャの顔から血の気が引いた。まさかそこまで大ごとになっているとは全く思っていなかったのだ。
 横で今の話を聞き、リーシャの危機だと感じ取ったノアとエリアルは咄嗟に身構えた。今にもフェンリルたちに襲い掛かりそうなまでの殺気を放っている。
 2人のあまりの気迫にフェンリルも焦ったようだ。ノアたちのリーシャへの異常な執着をよく知っているからこそ、余計に危機を感じたのだろう。
 フェンリルは慌ててノアを諭そうとしていた。

「待てって! そんなことはしねぇし、させねぇよ! 竜に対抗できる戦力をみすみす殺させるわけないだろう。お前らが何かしでかしてるわけでもねぇんだ」

 ノアは一瞬疑わしそうな目を向けた。けれど最終的にはフェンリルの言葉を信用したしらしく、ソファへ座り直した。

「それならいい。リーシャに何かしようものなら覚悟しておけ」
「わかってるって」

 一瞬にして張り詰めた空気が解けてリーシャはほっとした。
 フェンリルも安堵の息をこぼした。そしてソファに座り直すと、改めてリーシャの事を見た。

「そういう対抗手段って意味もあって、リーシャ。お前に力を貸してほしい」
「わかった。けどあんまり期待しないでね。襲ってくる竜たちと接点があるわけじゃないから」
「ああ。わかってる。推測でもいい。違うと思ったら違うと言ってくれ」
「うん。それで、何を知りたいの?」

 リーシャは座り直すと2人の王子の事を真っすぐと見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

従者♂といかがわしいことをしていたもふもふ獣人辺境伯の夫に離縁を申し出たら何故か溺愛されました

甘酒
恋愛
中流貴族の令嬢であるイズ・ベルラインは、行き遅れであることにコンプレックスを抱いていたが、運良く辺境伯のラーファ・ダルク・エストとの婚姻が決まる。 互いにほぼ面識のない状態での結婚だったが、ラーファはイヌ科の獣人で、犬耳とふわふわの巻き尻尾にイズは魅了される。 しかし、イズは初夜でラーファの機嫌を損ねてしまい、それ以降ずっと夜の営みがない日々を過ごす。 辺境伯の夫人となり、可愛らしいもふもふを眺めていられるだけでも充分だ、とイズは自分に言い聞かせるが、ある日衝撃的な現場を目撃してしまい……。 生真面目なもふもふイヌ科獣人辺境伯×もふもふ大好き令嬢のすれ違い溺愛ラブストーリーです。 ※こんなタイトルですがBL要素はありません。 ※性的描写を含む部分には★が付きます。

処理中です...