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始まりの予兆
竜の被害(2)
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応接室へと案内されると、ノアとエリアルは疲れが祟ってソファに座るとすぐにぐったりし始めた。
王子たちは反対のソファへ腰を下ろし、リーシャはノアとエリアルの間に腰を下ろした。
「それでは、私はいったん退室させていただきます」
グリードが姿を消すとアルベルトが筒状のケースの中から大きな1枚の紙を取り出した。
「まずはこちらをご覧ください」
テーブルの上に広げられたのはクレドニアム周辺の大きな地図だった。その地図には数多くの黒と赤のバツ印が付けられている。
横から覗き込んだエリアルが尋ねた。
「ねぇねぇ、これなぁに?」
「ここ最近の竜の目撃情報があった場所ですよ」
「ふーん。これって多いいの? なんかいっぱい書いてるけど」
「ええ。1年ほど前は竜を見たという報告があっても月に1,2回程度でした。さらに遡れば、数か月に1度あったかどうか。人間を襲ったという報告もありませんでした」
研究所に呼ばれ、このタイミングで王子2人から話があると言われていた時点で、リーシャには竜に関する話だろうと予測がついていた。
予想はしていたけれど、アルベルトの話を聞き、地図に記されたバツ印を見たことで、自分が考えていたよりも深刻な問題が近づいてきていると理解したリーシャは表情を曇らせた。
地図に記されたバツ印の数は黒と赤を合わせ、ゆうに100を超えているように見える。そしてそれはクレドニアム周りを避けた離れた場所に多く記されていた。
「この印の色の違いは? 被害が出たかどうか、とかですか?」
「そうです。黒は目撃されただけの地点、赤が実際に被害が出た地点です。被害状況までは書きわけてはいませんが、建造物を壊されただけの地域もあれば、多数の死者を出してしまった地域もあります」
赤いバツ印の数は5つ。
被害があったことを意味する赤の印がこの地図に初めて付けられたのが竜の目撃情報が多くなり始めたのと同じ1年前からだったとしても、それ以前と比べるとこの5ヵ所という数字は多すぎると言わざるを得ない。もしかするとここ1,2ヶ月というもっと短い期間のうちで起きた事かもしれない。
リーシャは現状をできるだけ正確に理解しようと、アルベルトに尋ねた。
「この地図の記録、最近のものって言われてましたけど、どれくらい前から取り始めたんですか? 1年前からってわけじゃないですよね?」
「ええ。記録は報告数が気になる程度に増え始めた頃からのものなので……そうですね……そちらの御兄弟たちの御母上が討伐された時期辺りだったはずです。そしてその頃よりも今の目撃頻度は格段に上がっています。週に2,3件といったところでしょうか。被害については御母上が農場を襲ったのが初め。それ以降の被害は半月前からのものです」
「半月で……4カ所……」
「ええ、そうです」
アルベルトは自身の膝に両肘をついて手を組んだ。そしてその手に額を押し付け、溜め息を漏らすと苦悩の声で続けた。
「今のところは、この国で実被害が起きている場所はこれが全てです。ですが、目撃情報はあくまでも王家まで上がってきたものだけなので、おそらくはもっと目撃されていると思われます」
「けど、そんな噂全然聞いたことないんですが。そんな短期間でそれほど襲われているなら、もっと噂になっていそうな気がするんですけど」
「それについては、今はまだ体制が取れていないので箝口令を敷いているのですよ。このまま噂が広まれば混乱を招くだけですので。とはいえ、そう隠しておけるようなことでもないので状況整理と今後の方針、対策が決まり次第公表するつもりです」
「そうなんですね」
箝口令を敷いていても、これほど大きな出来事ならば国が公表する前に噂が広まるのも時間の問題ではないかとも思われる。状況を整理しようにも、相手が相手なだけに情報が少なすぎて状況整理だけでも時間がかかるだろう。
王子たちは反対のソファへ腰を下ろし、リーシャはノアとエリアルの間に腰を下ろした。
「それでは、私はいったん退室させていただきます」
グリードが姿を消すとアルベルトが筒状のケースの中から大きな1枚の紙を取り出した。
「まずはこちらをご覧ください」
テーブルの上に広げられたのはクレドニアム周辺の大きな地図だった。その地図には数多くの黒と赤のバツ印が付けられている。
横から覗き込んだエリアルが尋ねた。
「ねぇねぇ、これなぁに?」
「ここ最近の竜の目撃情報があった場所ですよ」
「ふーん。これって多いいの? なんかいっぱい書いてるけど」
「ええ。1年ほど前は竜を見たという報告があっても月に1,2回程度でした。さらに遡れば、数か月に1度あったかどうか。人間を襲ったという報告もありませんでした」
研究所に呼ばれ、このタイミングで王子2人から話があると言われていた時点で、リーシャには竜に関する話だろうと予測がついていた。
予想はしていたけれど、アルベルトの話を聞き、地図に記されたバツ印を見たことで、自分が考えていたよりも深刻な問題が近づいてきていると理解したリーシャは表情を曇らせた。
地図に記されたバツ印の数は黒と赤を合わせ、ゆうに100を超えているように見える。そしてそれはクレドニアム周りを避けた離れた場所に多く記されていた。
「この印の色の違いは? 被害が出たかどうか、とかですか?」
「そうです。黒は目撃されただけの地点、赤が実際に被害が出た地点です。被害状況までは書きわけてはいませんが、建造物を壊されただけの地域もあれば、多数の死者を出してしまった地域もあります」
赤いバツ印の数は5つ。
被害があったことを意味する赤の印がこの地図に初めて付けられたのが竜の目撃情報が多くなり始めたのと同じ1年前からだったとしても、それ以前と比べるとこの5ヵ所という数字は多すぎると言わざるを得ない。もしかするとここ1,2ヶ月というもっと短い期間のうちで起きた事かもしれない。
リーシャは現状をできるだけ正確に理解しようと、アルベルトに尋ねた。
「この地図の記録、最近のものって言われてましたけど、どれくらい前から取り始めたんですか? 1年前からってわけじゃないですよね?」
「ええ。記録は報告数が気になる程度に増え始めた頃からのものなので……そうですね……そちらの御兄弟たちの御母上が討伐された時期辺りだったはずです。そしてその頃よりも今の目撃頻度は格段に上がっています。週に2,3件といったところでしょうか。被害については御母上が農場を襲ったのが初め。それ以降の被害は半月前からのものです」
「半月で……4カ所……」
「ええ、そうです」
アルベルトは自身の膝に両肘をついて手を組んだ。そしてその手に額を押し付け、溜め息を漏らすと苦悩の声で続けた。
「今のところは、この国で実被害が起きている場所はこれが全てです。ですが、目撃情報はあくまでも王家まで上がってきたものだけなので、おそらくはもっと目撃されていると思われます」
「けど、そんな噂全然聞いたことないんですが。そんな短期間でそれほど襲われているなら、もっと噂になっていそうな気がするんですけど」
「それについては、今はまだ体制が取れていないので箝口令を敷いているのですよ。このまま噂が広まれば混乱を招くだけですので。とはいえ、そう隠しておけるようなことでもないので状況整理と今後の方針、対策が決まり次第公表するつもりです」
「そうなんですね」
箝口令を敷いていても、これほど大きな出来事ならば国が公表する前に噂が広まるのも時間の問題ではないかとも思われる。状況を整理しようにも、相手が相手なだけに情報が少なすぎて状況整理だけでも時間がかかるだろう。
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