191 / 419
始まりの予兆
2人の王子(1)
しおりを挟む
リーシャは3人のうち、1人の顔には見覚えがあった。
「ようリーシャ!」
「お久しぶりです、フェンリル王子」
その人物はクレドニアムの第2王子、フェンリル・ジュレル・ハイド・クレドニアム。以前王城に呼び出された時に少し話をして以来だ。
リーシャはノアたち竜を王都に出入りさせていた罰として、フェンリルの呼び出しに応じ、彼の指揮する騎士団の遠征に同行しなければならないという事になっている。
本当はこの数か月の間に2回ほどフェンリルからの呼び出しがあったらしい。
けれどリーシャは魔法学校からの講師の依頼など、いろいろな重要な役割をこなしていたため呼び出しには応じることができず、今日久々にフェンリルと顔を合わせる形になったのだ。
そんな事情をきちんと理解してくれているからか、フェンリルは呼び出しに応じられなかった事を咎める様子は無く、親しい相手に向けるような視線をリーシャに向けていた。
「ほんと久々だよな。本来なら遠征に同行してほしかった案件があったし、もっと早く会うはずだったんだけどな。ギルドに使いを出したら、お前講師として別の街の魔法学校に行ってるっていうじゃねぇか。マジかよって思ったぞ」
「その節は申し訳ありませんでした」
特に嫌味を言っているつもりはないようだけれど、国王の指示に背く形になってしまっていたため、リーシャは深々と頭を下げた。器の大きいフェンリルの事なので処罰するなどという事はないだろう。
ただ、リーシャの力が必要だと判断された任務に同行できなかった事で問題が発生していないかと言う不安はあった。
「あの、フェンリル王子」
「なんだ?」
「普段の遠征で私を呼び出すことってほとんどなかったじゃないですか?」
「そうだな。騎士団だけで事足りることがほとんどだからな」
「ってことは、私を連れて行こうとしていた任務って魔法使い不在じゃ厳しい相手だったのではないですか? 大丈夫だったんでしょうか……」
「あー……んーまあ、結果としては平気ではあった。やつらの目的も戦闘ってわけじゃなかったみたいだし」
「そう、なんですね。それならよかった」
同行できなかったせいで負傷者が多数出たと言われなかった事にリーシャは安堵した。
突然フェンリルは不満そうな顔をした。リーシャは気に障るような言動はとっていなかったはずだ。
「あの、フェンリル王子?」
「つーかさ、王子はいらねぇって前に言わなかったか? フェンリルでいいって言ってんだろ? あと敬語もいらね」
「そういえば……う、うん」
リーシャはフェンリルの横にいる上等な衣服を身にまとった美しい男性をちらりと見た。フェンリルが良くても彼の方は無礼だと不快に思うのではないかと心配だった。けれど、今のところそのような素振りはない。
フェンリルはリーシャの回答に満足したようでニカッと笑った。
「よし」
その笑い顔は王族のというよりギルドの仲間のような印象だった。
すると横で話しに入る機会をうかがっていた男性が話に入って来た。どことなくフェンリルに似ているような気がする。
「兄上、無理強いするようなことを言うのは良くないですよ。あなたも一応王族でしょう」
「今のやりとりを見てどこが無理強いしてるように見えたんだよ。リーシャは素直にうんって言ってたろ。お前、耳の医者に診てもらったほうがいいんじゃないのか?」
「私たちが強く口にしたことを国の民が断れるわけないでしょう」
「そんなもんか?」
「そういうものです。兄上のそれは強要ですよ」
彼もフェンリルの奇行には悩まされているのか、皺を寄せた眉間に手を当てた。
兄上という事は彼も王族のようだ。
フェンリルの弟王子はリーシャの方を見ると優しく微笑んだ。
「ようリーシャ!」
「お久しぶりです、フェンリル王子」
その人物はクレドニアムの第2王子、フェンリル・ジュレル・ハイド・クレドニアム。以前王城に呼び出された時に少し話をして以来だ。
リーシャはノアたち竜を王都に出入りさせていた罰として、フェンリルの呼び出しに応じ、彼の指揮する騎士団の遠征に同行しなければならないという事になっている。
本当はこの数か月の間に2回ほどフェンリルからの呼び出しがあったらしい。
けれどリーシャは魔法学校からの講師の依頼など、いろいろな重要な役割をこなしていたため呼び出しには応じることができず、今日久々にフェンリルと顔を合わせる形になったのだ。
そんな事情をきちんと理解してくれているからか、フェンリルは呼び出しに応じられなかった事を咎める様子は無く、親しい相手に向けるような視線をリーシャに向けていた。
「ほんと久々だよな。本来なら遠征に同行してほしかった案件があったし、もっと早く会うはずだったんだけどな。ギルドに使いを出したら、お前講師として別の街の魔法学校に行ってるっていうじゃねぇか。マジかよって思ったぞ」
「その節は申し訳ありませんでした」
特に嫌味を言っているつもりはないようだけれど、国王の指示に背く形になってしまっていたため、リーシャは深々と頭を下げた。器の大きいフェンリルの事なので処罰するなどという事はないだろう。
ただ、リーシャの力が必要だと判断された任務に同行できなかった事で問題が発生していないかと言う不安はあった。
「あの、フェンリル王子」
「なんだ?」
「普段の遠征で私を呼び出すことってほとんどなかったじゃないですか?」
「そうだな。騎士団だけで事足りることがほとんどだからな」
「ってことは、私を連れて行こうとしていた任務って魔法使い不在じゃ厳しい相手だったのではないですか? 大丈夫だったんでしょうか……」
「あー……んーまあ、結果としては平気ではあった。やつらの目的も戦闘ってわけじゃなかったみたいだし」
「そう、なんですね。それならよかった」
同行できなかったせいで負傷者が多数出たと言われなかった事にリーシャは安堵した。
突然フェンリルは不満そうな顔をした。リーシャは気に障るような言動はとっていなかったはずだ。
「あの、フェンリル王子?」
「つーかさ、王子はいらねぇって前に言わなかったか? フェンリルでいいって言ってんだろ? あと敬語もいらね」
「そういえば……う、うん」
リーシャはフェンリルの横にいる上等な衣服を身にまとった美しい男性をちらりと見た。フェンリルが良くても彼の方は無礼だと不快に思うのではないかと心配だった。けれど、今のところそのような素振りはない。
フェンリルはリーシャの回答に満足したようでニカッと笑った。
「よし」
その笑い顔は王族のというよりギルドの仲間のような印象だった。
すると横で話しに入る機会をうかがっていた男性が話に入って来た。どことなくフェンリルに似ているような気がする。
「兄上、無理強いするようなことを言うのは良くないですよ。あなたも一応王族でしょう」
「今のやりとりを見てどこが無理強いしてるように見えたんだよ。リーシャは素直にうんって言ってたろ。お前、耳の医者に診てもらったほうがいいんじゃないのか?」
「私たちが強く口にしたことを国の民が断れるわけないでしょう」
「そんなもんか?」
「そういうものです。兄上のそれは強要ですよ」
彼もフェンリルの奇行には悩まされているのか、皺を寄せた眉間に手を当てた。
兄上という事は彼も王族のようだ。
フェンリルの弟王子はリーシャの方を見ると優しく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
従者♂といかがわしいことをしていたもふもふ獣人辺境伯の夫に離縁を申し出たら何故か溺愛されました
甘酒
恋愛
中流貴族の令嬢であるイズ・ベルラインは、行き遅れであることにコンプレックスを抱いていたが、運良く辺境伯のラーファ・ダルク・エストとの婚姻が決まる。
互いにほぼ面識のない状態での結婚だったが、ラーファはイヌ科の獣人で、犬耳とふわふわの巻き尻尾にイズは魅了される。
しかし、イズは初夜でラーファの機嫌を損ねてしまい、それ以降ずっと夜の営みがない日々を過ごす。
辺境伯の夫人となり、可愛らしいもふもふを眺めていられるだけでも充分だ、とイズは自分に言い聞かせるが、ある日衝撃的な現場を目撃してしまい……。
生真面目なもふもふイヌ科獣人辺境伯×もふもふ大好き令嬢のすれ違い溺愛ラブストーリーです。
※こんなタイトルですがBL要素はありません。
※性的描写を含む部分には★が付きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる