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始まりの予兆

2人の王子(1)

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 リーシャは3人のうち、1人の顔には見覚えがあった。

「ようリーシャ!」
「お久しぶりです、フェンリル王子」

 その人物はクレドニアムの第2王子、フェンリル・ジュレル・ハイド・クレドニアム。以前王城に呼び出された時に少し話をして以来だ。
 リーシャはノアたち竜を王都に出入りさせていた罰として、フェンリルの呼び出しに応じ、彼の指揮する騎士団の遠征に同行しなければならないという事になっている。
 本当はこの数か月の間に2回ほどフェンリルからの呼び出しがあったらしい。
 けれどリーシャは魔法学校からの講師の依頼など、いろいろな重要な役割をこなしていたため呼び出しには応じることができず、今日久々にフェンリルと顔を合わせる形になったのだ。
 そんな事情をきちんと理解してくれているからか、フェンリルは呼び出しに応じられなかった事を咎める様子は無く、親しい相手に向けるような視線をリーシャに向けていた。

「ほんと久々だよな。本来なら遠征に同行してほしかった案件があったし、もっと早く会うはずだったんだけどな。ギルドに使いを出したら、お前講師として別の街の魔法学校に行ってるっていうじゃねぇか。マジかよって思ったぞ」
「その節は申し訳ありませんでした」

 特に嫌味を言っているつもりはないようだけれど、国王の指示に背く形になってしまっていたため、リーシャは深々と頭を下げた。器の大きいフェンリルの事なので処罰するなどという事はないだろう。
 ただ、リーシャの力が必要だと判断された任務に同行できなかった事で問題が発生していないかと言う不安はあった。

「あの、フェンリル王子」
「なんだ?」
「普段の遠征で私を呼び出すことってほとんどなかったじゃないですか?」
「そうだな。騎士団だけで事足りることがほとんどだからな」
「ってことは、私を連れて行こうとしていた任務って魔法使い不在じゃ厳しい相手だったのではないですか? 大丈夫だったんでしょうか……」
「あー……んーまあ、結果としては平気ではあった。やつらの目的も戦闘ってわけじゃなかったみたいだし」
「そう、なんですね。それならよかった」

 同行できなかったせいで負傷者が多数出たと言われなかった事にリーシャは安堵した。
 突然フェンリルは不満そうな顔をした。リーシャは気に障るような言動はとっていなかったはずだ。

「あの、フェンリル王子?」
「つーかさ、王子はいらねぇって前に言わなかったか? フェンリルでいいって言ってんだろ? あと敬語もいらね」
「そういえば……う、うん」

 リーシャはフェンリルの横にいる上等な衣服を身にまとった美しい男性をちらりと見た。フェンリルが良くても彼の方は無礼だと不快に思うのではないかと心配だった。けれど、今のところそのような素振りはない。
 フェンリルはリーシャの回答に満足したようでニカッと笑った。

「よし」

 その笑い顔は王族のというよりギルドの仲間のような印象だった。
 すると横で話しに入る機会をうかがっていた男性が話に入って来た。どことなくフェンリルに似ているような気がする。

「兄上、無理強いするようなことを言うのは良くないですよ。あなたも一応王族でしょう」
「今のやりとりを見てどこが無理強いしてるように見えたんだよ。リーシャは素直にうんって言ってたろ。お前、耳の医者に診てもらったほうがいいんじゃないのか?」
「私たちが強く口にしたことを国の民が断れるわけないでしょう」
「そんなもんか?」
「そういうものです。兄上のそれは強要ですよ」

 彼もフェンリルの奇行には悩まされているのか、皺を寄せた眉間に手を当てた。
 兄上という事は彼も王族のようだ。
 フェンリルの弟王子はリーシャの方を見ると優しく微笑んだ。
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