魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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始まりの予兆

今日の予定は(2)

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「ノアにぃちゃん起してきたぁ! ご飯食べよ!」

 リーシャはふと我に返り、熱を持ち始めていた顔を手で仰いで平常を装おうとした。
 3兄弟たちに対する感情を自覚し始めとは言え、その気持ちを本人たちに気取られるのは恥ずかしい。今でも顔を合わせた瞬間になんて声を掛けたらいいのかわからなくなる時があるというのに、バレてしまったとなれば居たたまれなくなるのは間違いない。
 元気なエリアルから少し遅れ、けだるげなノアがあくびをしながら姿を現した。

「おはよう……」

 不機嫌そうな声だ。
 ノアは昼近くまで寝ていることが多い。クエストのために朝早く起きることはあるけれど、そういった無理やり起きた日はいつも長い時間、不機嫌そうにぼんやりとしている。
 今余計なことを言えば、通常の何割か増しの嫌味が返ってきそうだ。

「おはよう、ノア」
「おはよ、兄貴」

 今ノアに余計な言葉をかけるのは禁物だ。それはルシアもわかっていた。
 リーシャはノアに直接声はかけず、この場にいる3人に向かって言った。

「さぁ、この後の予定もあることだし、とっとと食べちゃおう」


 全員がテーブルに着くと、4人は少し遅めの朝食をとりはじめた。テーブル横の床にはシャノウ用の食事が置いてあり、いつの間にか姿を現していたシャノウは先に食べ始めていた。
 いつも思う事なのだけれど、エリアルは朝食をいったいどれだけ早い時間から作り始めているのだろう。肉や油っけの多い料理はいかにも時間をかけましたというものが多い。
 正直リーシャにとっては朝から胃に重く響く物ばかりで、眠気よりも朝食の方でダウンしそうだった。ノアも同じのようで眉にしわを寄せながらゆっくりと咀嚼している。
 ルシアとエリアルは食べ盛りの子供のように、口の中へどんどん料理を詰め込んでいく。

「ねぇねぇ、今日は研究所にお手伝いに行くんだよね? 何しに行くの?」

 エリアルが頬張りながら尋ねた。

「んーと、詳しくはわからいけど、たぶん血液を取るんじゃない?」
「けつえき? ……血⁉」

 突然エリアルが慌て始めた。

「えっ⁉ ぼ、僕切られちゃうの⁉ そんな痛いの嫌だよ」

 何を思い描いたのかは知らないけれど、エリアルは顔面蒼白になっていた。同じくルシアもフォークを加えたまま目を丸くしてリーシャの事を見た。切るというよりも切り刻まれる想像でもしているのだろうか。

「切られるってマジかよ! そんな話聞いてねぇぞ! そんなところに兄貴とエリアル連れて行って大丈夫なのかよ!」
「いや、切らないから。しいて言うなら針を刺すだけ。切られるよりは痛くないから。たぶん」

 エリアルの目が、とても疑っているような目になった。リーシャの言った事はだいたいすんなりと信じるのに珍しい。

「ほんとに? ほんとに痛いことしない?」
「うーん……魔物と戦ってケガするよりは痛くないとは思うよ」
「なら……我慢する。痛いのは嫌だけど……」

 観念したようなエリアルの姿に、リーシャは苦笑いを浮かべた。

(いつも守るって言ってくれてるのに……痛いのはそんなに嫌なんだね……あっ、そういえば)

 リーシャは手紙に書かれていたもう1つの内容も思い出した。

「そういえば、第2王子と第3王子も後から合流するって書いてあったっけ。なんか私たちの竜に対する見解を聞きたいんだって?」
「誰それ」

 即座にルシアが聞いてきた。知らないのが当然のような態度からして、完全に忘れているようだ。

「第2王子はフェンリル王子。前会ったでしょ?」
「えっ、マジ? んーと……」

 ルシアは真剣に考え始めた。
 以前会ったのが初対面で、しかもしばらく会っていないためなかなか思い出せないようだ。

「フェンリル、フェンリル……ああ! あんとき城で会った王子か! じゃあ第3王子って?」
「私もよくは知らないけど、研究所に関わってる王子様じゃなかったっけ?」
「ふーん、まあいいや。会った事ねえなら、それはそれで。ご馳走様でした」

 ルシアは最後の一口を口に運ぶと、フォークを食器に重ねた。

(朝からよくこの量を食べられるよね……私の分、少し食べてくれないかな)

 そんな事を考えながら見ていると、ルシアが口の横に付いたソースを指で拭きとる仕草をした。それを見てしまったリーシャは、何故か妙な気分になってきた。
 運悪く、丁度ルシアの視線もリーシャの方へ向けられた。そして顔色の変化に気がつかれてしまった。

「どうした? 顔赤いけど、やっぱ調子悪くなってきたのか?」
「へっ⁉ 違う違う! ちょっと暑いからじゃない?」
「? そうか?」
「そうそう。あはは……」

 たいして熱くなどないのにそんなことを言うリーシャをルシアは不審そうに見ていた。

(たったこれだけの事を見ただけでドキドキするなんて……すでに重症なのかも……)

 リーシャは余計な事を気取られないように、慌ててフォークを口へと運び続けた。
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