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始まりの予兆

今日の予定は(1)

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 よく晴れた日、いつもならまだ寝ている時間帯。
 リーシャは目覚まし時計に眠りを妨げられ、ベッドの上でモソモソと動き始めた。

「うーん……もう、アサか……眠いけど起きなきゃ……」

 近頃夢見が悪く、リーシャの瞼は重かった。
 もう1度夢の中へ飛び込んでしまいたいところなのだけれど、今日は予定があるためそれは許されない。
 リーシャは仕方なく上にかけているシーツを押しのけ、ベッド端へと移動した。
 キッチンのある部屋の方から物音と時々声が聞こえてくる。
 竜の兄弟たち、少なくともルシアとエリアルは起きているようだ。
 カランコロンという骨がぶつかり合う音も時々聞こえてくる。シャノウも目覚め、何かをしているらしい。
 ノアの気配はない。朝が弱く、常に目覚めが悪いため、まだ眠っている可能性が高い。
 リーシャが早く着替えなければと思いつつぼーっとしていると、廊下をタタタッと軽やかに駆ける音が聞こえた。

「ねぇちゃん! ご飯できたよー!」

 部屋の外からエリアルが声をかけてきた。朝から頭に響いてくるほどの元気な声だ。

「はーい、起きてるから大丈夫―」

 リーシャは起きたばかりで声の出しづらい喉で精一杯返事をした。

「わかったぁ。早く来てね」
「りょうかーい」

 リーシャの起床を確認したエリアルの足音は別の部屋へと向かって行った。そして勢いよく扉が開かれる音がした。

「ノアにぃちゃんも起きて! 今日お出かけするんでしょ? ねぇ、にぃちゃんってば!」

 やはりノアはまだ眠っていたようだ。
 起こすのに苦戦しているようで、エリアルがノアの名前を何度も呼んでいるのが聞こえてくる。
 あまりのエリアルの必死さに、笑ってはいけないけれど笑いがこみあげてきた。
 リーシャは声が外に漏れない程度にクスッと笑った。
 そしてベッドから立ち上がると、パジャマから外出用の衣服へと着替え、ダイニングへ向かった。


 部屋に入ると、テーブルの上には用意されている朝食が目に留まった。朝食とは思えない量と内容が並べられている。
 肉や油物の多い料理。これをルシアとエリアルはぺろりと平らげてしまうあたり恐ろしい。
 その部屋にはルシアの姿もあった。朝食を作った際に出たであろう調理器具の片づけをしているところのようだ。

「おはよう」

 ルシアは声に反応し、手にしていた料理器具を持ったまま、体を少しリーシャの方へと向けた。

「ん? あーおはよう、リーシャ。今日はよく眠れたのか?」

 リーシャは椅子に座りながら大きなあくびをした。
 ここ数日、というよりも死竜の召喚に成功してしまったあたりから、どうも寝覚めが悪い。

「うーん、微妙。夢にお母さんが出てきたような気はするんだけど、何してたかは覚えてないんだよね。起きた瞬間モヤっとしてるから、あんまりいい夢ではなかったんだと思うんだけど」
「そっかぁ。つか、リーシャたちも今日は王都に行くんだろ? そんなで大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。別に体力勝負の事をしに行くわけじゃないし、徹夜には慣れてるから。ちょっと疲れが取れてないくらいだし」

 1週間ほど前、王都のギルドへリーシャ宛ての手紙が届けられていた。
 差出人は王都の魔物研究所。主な内容は、ノアたちから検体を採取させてほしいというものだった。
 その約束の日が今日で、リーシャはノアとエリアルを連れて研究所へ赴く予定なのだ。
 ルシアも王都へは向かうけれど、魔道具技師のディフェルドに呼ばれているため研究所へは同行しない。
 ルシアは自分がリーシャの傍にいられないためか、あまり眠れていないことを無駄に心配しているらしい。この程度の眠気、リーシャにとってはたいしたことないというのに。
 リーシャの返答にルシアの眉間にうっすらと皺が寄っていた。

「はぁ。それを大丈夫と言っていいのかはわかんねぇんだけど、まぁ、本気でヤバいってわけでもなさそうだし、大丈夫か。けど、無理は禁物だぞ?」
「わかってるって。ルシアは心配し過ぎ」

 ルシアはリーシャとの距離を詰めると、人差し指でリーシャの額を突いた。

「痛っ」
「し過ぎくらいでちょうどいいんだよ。リーシャは無茶な事ばっかりしようとするからな」
「いや、そこまで無茶はしてないでしょ」
「リーシャは自分が思ってる以上に危なっかしいんだよ。この前だって……」
「うっ……すみません……」

 リーシャはは言い終わる前に謝罪で話をぶった切った。続きに思い当たる出来事がありすぎて聞きたくはなかった。
 とくにルシアは数日前にリーシャが自分の指を切り落とそうとしたことをまだ根に持っている。その時の事を蒸し返されたくはなかった。小言が他より面倒くさいからだ。

「まったく」

 ルシアはしょんぼりとしたリーシャを見て、反省していると感じたらしい。温かいまなざしを向けながらリーシャの頭に手を置いて、髪の流れに沿って、手を動かした。

「ルシア?」

 リーシャは撫でられる心地よさとともに気恥ずかしさを感じた。
 そんな穏やかな雰囲気を打ち砕くように突然、2人のいる部屋に向かって廊下を駆けてくる音がした。
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