魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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魔道具技師への道

死せる生物(2)

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 リーシャが黙るとノアとルシアの骨格は変化し始め、数秒後には巨大な元の黒竜の姿に戻っていた。

「大人しくしやがれ!」

 ルシアは叫ぶと、ノアと2匹がかりで骨の生物を抑え込むため襲い掛かった。けれど骨の竜の身体能力は高く、2匹との力の差があり過ぎた。ノアたちは振り回されるばかりで、一向に抑え込むことができない。
 何度か黒い炎を受けそうになったけれど、その都度スコッチが結界をうまく展開し、不発に持ち込んでくれている。
 しばらくの間は炎の攻撃を受ける心配はなさそうだけれど、あの竜を抑え込む手段が無い以上このまま続けば全滅は確実だ。
 リーシャは、やはりこの召喚の指輪をどうにかするしかないと思った。

(今もずっと魔力をこの指輪に吸われ続けてる感覚がある。指輪さえ外れればどうにかなるはず!)

 リーシャは再び指輪を引き抜こうと力強く引っ張った。けれど外れる気配はない。

「もう! どうしたらいいのよ!」

 おそらく魔力の供給さえなくなれば指輪は機能を停止するはずだ。とにかく魔力を生成し続けているこの体から離すことができればいい。

「いっそのこと……」

 ある考えに思い至ったリーシャは地面の鉄分を集めナイフを作り上げた。
 そして指輪がはまっている指の付け根に刃先を当てた。

(指を切り落としてしまえば……)

 その様子に気がついたエリアルはリーシャのナイフを持った手を握りしめた。

「ダメ! そんなことしちゃダメ‼」
「けど他に方法が!」

 時間は刻一刻と過ぎ、強敵を相手にしている2匹の黒竜の動きは疲労で徐々に鈍くなっていくばかり。

「このままじゃ、ここにいるみんな全滅よ! そんなことになるくらいならこの指を」
「だからダメだって‼ そんなことして助かっても僕もにぃちゃんたちも嬉しくないよ‼」
「じゃあ……」

 どうすればいいのか困っていると、急に地面がドスンと揺れた。
 ノアたちの方を見るとついに2匹は押し負け、まとめて地面に拘束されていた。骨の生物に頭を押さえつけられ、立ち上がろうともがくけれど拘束は解けない。

「どうすれば……」

 指すらも落とさせてくれないのならこの状況。リーシャには手の打ちようがない。
 リーシャが苦悩の顔をしていると、池の水がバシャンと動く音がした。スコッチが身じろぎをしたのだろう。

「どうしたんですか?」
「救いなのか脅威なのかはわからないけど、ものすごい速さで向かって来てる」
「向かって? 誰が?」
「大きな魔力の塊。たぶん竜王って竜だと思う。間違ってなければだけど」

 スコッチがそう言った途端、かなり大きな地響きが起きた。

「な、なに? 地震?」
「ただの地震じゃないよ。到着したみたいだ。その竜王が」

 巨大な揺れの後、小さな揺れがもう1度起こると地面の揺れは収まった。
 周りの様子を窺っているとスコッチが叫んだ。

「上だ!」

 リーシャとエリアルが上を向くと白い体の竜が勢いよくリーシャたちの方へ向かって来ているのが見えた。
 竜王はそのまま骨の生き物の方に向かって飛びかかるとノアとルシアから引きはがし、投げ飛ばした。そして骨の生物に圧し掛かかると、それに向かって巨大な咆哮をあげた。
 リーシャは何が起きているかわからず呆然とした。
 そんなリーシャの隣でエリアルがぼそりと呟いた。

「竜王のおじちゃん、あの骨と知り合いなのかな?」
「なんでそう思うの?」
「だって竜王のおじちゃん今、『いい加減にしろ、意識はあるんだろう』って言ってたよ?」
「え?」

 竜王の咆哮で骨の生物は動きを止め、小さく鳴いた。
 エリアルが通訳を続けてくれた。

「なんで人間なんかに味方するんだ、だって」
「エリアル、あの生き物の言葉わかるの?」
「うん」
「ってことはあの骨って」

 リーシャたちの会話は竜王にも聞こえていたようだ。
 竜王はリーシャが結論を言う前に口を開いた。

「これは私たちの同胞。そして私の友の成れの果ての姿。暗黒竜としての姿を失い、恨みの念を糧に生きる死竜と化した姿だ」

 死竜は竜王に何か訴えるようなそぶりを見せたけれど、竜王に一睨みされ、項垂れた。
 竜王は続けた。

「幸か不幸か、また再会できるとはね。まさかまだこの世に留まっていたなんて。あの時、人間の操り人形と化していた君を魔道具とかいう物ごと破壊できたと思っていたのだけれど……」

 リーシャの中で仮説として不完全に繋がっていた点と点が、竜王の言葉で新たな真実を交えながら完全に繋がり始めた。

「あの時ってもしかして」
「人間の間で起きていた戦争の時さ。あの時彼は自我を持たない人間の操り人形になっていたんだ。きっと彼もそんなことを望んでいないだろうし、私もそれが耐えられなかった。だから私は彼ごとこの辺りにいた人間を全て消し去った。はずなのにまさか肝心な物を壊し損ねていたなんて」

 竜王はリーシャの事を見ていた。
 いや、おそらく正確にはリーシャの指にはめられているカルディスの指輪を見ているのだろう。

「グルルルル……」
「グウゥ。グワウ!」

 死竜が竜王に何か訴えかけるように鳴いた。けれど、竜王はそれを一括したようだ。

「なんて言ったの?」
「骨のおじちゃんが『けどあいつは』って言って、竜王のおじちゃんが『わかっている。だがそれは彼女が悪いわけではない』だって」
「そう……」

 竜王の言葉で、リーシャは自分が気づかないうちに何かをしてしまったのだろうかと感じた。もしくは“リーシャに関わる誰か”なのかもしれない。
 おそらくリーシャが全くの無関係というわけではないだろう。

「あの、私が何か……」

 竜王は一瞬リーシャから視線を逸らした。そしてすぐに視線を戻した。

「……彼は人間に殺され、こうやって道具の一部にされてしまった。だから人間である君のことが憎いだけさ」
「本当に?」

 黒竜の赤い瞳はリーシャの方を向き、低く唸り続けている。

(本当にそれだけ? もしかして……)

 リーシャは息を呑んで竜王の回答を待った。

「……それだけだよ」

 何かを知っているような含みのある言い方だった。けれどこれ以上追及しては藪蛇になる可能性が高い。
 リーシャは追求したい気持ちをぐっとこらえた。

「そう、ですか……」

 リーシャの返答に竜王は満足したようだ。竜王の雰囲気が柔らかくなったように感じた。
 そして竜王は続けた。

「さて、それじゃあ今回の本題に入ろうか」
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