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魔道具技師への道

死せる生物(1)

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「こっ、これ……生きてんの、か?」

 真っ先に口を開いたのはこの状況に困惑したルシアだった。とはいえ、困惑していたのはルシア1人ではない。

「……この姿を見て生きていると言えるやつがいると思うか?」
「いるわけないよ、こんなのを生きてるって思う人! だってこれ、骨じゃん!」

 ノアもエリアルも困惑を隠せない表情だ。
 ただ困惑するのも無理はない。どんな魔物が出てくるのかと構えていたのに、目の前に現れたのは巨大で真っ白な色をした、何らかの生物の骨だったのだ。
 リーシャも予想外の展開に、先ほどまでの焦りは消え、その場に立ち尽くしていた。

「もしかして、ずっと池の底に沈んでたから、死んで骨になっちゃった、とか?」

 だとするとがっかりだとしか言いようがない。一時は焦らされはしたものの、ずっとどんな召喚獣が現れるのだろうと楽しみにしていたというのに。
 けれど傍らで事の次第を見ていたもう1匹、スコッチはリーシャたちと違う判断を下した。

「みんな離れるんだ!」

 スコッチは叫ぶと即席の結界で骨と化した生物の周りを覆った。

「どうしたんですか?」
「その骨はたぶん生きてる。巨大な魔力が骨の内側に渦巻いているから」

 巨大な骨の生物は今までわざとただの骨を演じていたのかもしれない。周りを結界で囲まれた瞬間、骨は急に動き、咆哮をあげた。

「ギュアァァァァァ‼」

 先ほどまで何もなかった頭蓋骨の窪みに赤い光が宿った。
 口を開いたかと思うと、骨の生物の口から黒い炎が4人と1匹に向かって吐き出された。幸いにもスコッチが張った結界が亀裂を入れられながらもその攻撃を見事に防ぎ切った。

「私の結界じゃ、こんなに強力な攻撃は防ぎ続けられないよ。リーシャちゃん、これを指輪の中に戻すことは出来ないのかい?」
「ご、ごめんなさい。戻すことまで考えてなくて、戻し方がわからないの」
「そんなぁ。頑張ってみるけどそんなに長くはもたないよ」

 骨の生物はリーシャたちが話している間も、口から炎を吐き続けている。
 スコッチは結界に亀裂が入る度に修復しているけれど、すでに修復が追い付かなくなっているようだった。今にも破壊されそうな状況だ。破られるのは時間の問題だろう。

「それなら……水よ!」

 リーシャは水の刃を飛ばし、魔法の相殺を試みた。
 けれど骨の生物が即座に吐き出した黒い炎で、水の魔法はかき消されてしまった。スコッチの結界がなければ消し炭になっていたに違いない。

「うそ……」

 リーシャは今放った水の魔法が本当に自分が発動させたものなのだろうかと困惑した。
 ルシアもリーシャが困惑している正体に気がついたようだった。

「リーシャ、今の全力か?」
「うん……」

 おそらく魔力をカルディスの指輪に奪われているせいなのだろう。威力がいつもの半分以下になっている。
 この威力ではあの生物に一矢報いることは不可能なはずだ。
 ノアとルシアが前に歩み出た。

「一か八かだ。兄貴、竜に戻って抑え込もう」
「ああ、それしかないだろうな」

 ノアは振り向き、エリアルの事を見た。

「エリアル。お前はここで待機していろ。魔法を使ってリーシャを傍で守るんだ」
「わ、わかったよ、ノアにぃちゃん」

 エリアルは恐怖を抑え込むことができないようで、わずかに震えていた。
 けれど自分もリーシャを守らなければと思ったのだろう。泣きそうになりながらもノアの指示に返事をしたのだった。
 けれど大切の者を守りたいと思う気持ちはリーシャも同じだ。

「ダメ! あの黒い炎に当たったら2人が!」

 あの黒い炎はリーシャも使える魔法だ。故にどんな影響力を持っているのかがわかる。
 あの炎はまるで怒りの感情。当たれば最後。全てを燃やし尽くさなければあの炎は収まらない。
 リーシャが必死に止めようとすると、ルシアは困った表情をした。

「そうは言ってもずっとこのままじゃいられねぇだろ。俺らも時間稼ぎするから、リーシャはどうにかこいつを消す方法を考えてくれ」
「でも……」
「惚れた雌を守んのが雄の役目なんだぜ? ここでリーシャを守れないなら、俺らが雄として生まれた意味がねえ。だから行かせてくれ」

 ルシアの目は覚悟を決めた目だった。
 リーシャは覚悟の現れに負け、それ以上止める言葉を口にはできなかった。
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