魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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魔道具技師への道

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 先に口を開いたのはルシアだった。

「それなら、家の前でやろうぜ。兄貴も家にいるし、もしなんかあってもスコッチが手ぇ貸してくれるだろ」
「そうだね。そうしよう。そうと決まれば急いで帰ろ、ルシア!」
「おう!」

 はやる気持ちが抑えきれない2人は家へと向かって走り出した。




 2人は家の前ではなく少し離れた場所に作った空き地へと向かった。ここは竜の姿をした彼らが離陸、着陸をするために作った場所。家からは離れているけれどスコッチの住む池はほぼ真隣にあるため何かあったらすぐ手を貸してくれるはずだ。

「ここでいいよね」
「だな。リーシャ、わかってるとは思うけど慎重にな」
「うん。大丈夫。じゃあまず合成魔法を使う感じでやってみる」

 合成魔法と一括りで言ってはみたものの、問題はどの属性の組み合わせで、どんな割合で合成した魔力を作り出すかだ。

(あの図案は5属性の図案が均等に描かれてた。となると魔力も均等な割合でって考えるのが妥当かな)

 リーシャは推測した通りの割合で魔力を魔道具へと流し込み始めた。魔力のバランスが崩れないように細心の注意を払った。
 時間だけが刻々と過ぎていった。
 既に魔道具に十分な魔力量は伝わったはずだ。しかし魔道具が反応する気配は微塵も感じられない。少しずつ魔力量を調節してみた。使用する魔力の属性も入れ替えた。それでも指輪に変化は起こらない。
 リーシャは魔力を魔道具に送るのを止めた。
 もしかしたら有属性の魔力を合成する方法では発動しないのかもしれない。
 少なくとも柄の通り、有属性の魔力を均等に流して発動する魔道具ではないということはわかったのだから、わずかにだが前進したといえば前進した。
 それでももしこれが合成魔法の魔道具ならば、どういう割合で魔力を注げばいいのか、答えに繋がる可能性は無数に伸びていることには変わりない。迷宮入りしたと言っても過言ではないだろう。
 リーシャは組み合わせのパターンの多さに落胆した。

「うーん……」
「ダメそうか?」
「少なくとも均等な割合ではないみたい」
「なら、色々変えながら試してみるか?」
「それもありではあるんだけど……組み合わせのパターンがありすぎるかな。時間かかるし、さすがに魔力使い果たして倒れちゃうよ」
「なら、合成魔法の方は親方に相談しながら考えるか」
「そうだね……」

 ディフェルドにもカルディスの指輪の事を教えない方がいいだろう。
 つまりディフェルドには「実は謎の刻印に近い魔道具を見つけたので試してみました」なんてことは言えないため、彼が作った魔道具を使い、また1から検証を始めなければならない。

(5属性同時って結構大変なんだよねぇ……)

 3つの魔力を合わせた合成魔法ですら使える者が一握りしかいない。5属性同時となると、この世界に数人しかいないのではないだろうか。
 そう思いながらも、リーシャは検証を進める事にした。

「じゃあ次、闇の魔力でやってみる」

 リーシャは深呼吸をすると、闇の魔力をカルディスの指輪に流はじめた。
 今のところ反応はない。
 むしろ本当に魔道具に魔力がいっているのか疑問に思えてくるくらい何の抵抗も感じられない。まるで魔道具を魔力が素通りしているような、そんな感覚すらする。
 どうやら闇の魔道具でもないらしい。
 諦めて魔力を止めようとした時、リーシャは気がついた。

(魔力が止まらない⁉)

 また魔力を暴走させてしまっているのかと一瞬考えたけれど、魔力を暴走させた時とはまた違うようにも感じた。

「‼」

 指輪にはめられた緑色だった石が段々と濁っているのを見て、もしかしたら”何の抵抗も感じなかったのは魔力が強制的に吸い取られていたからではないか“、そう仮説を立てたリーシャは急いで指に付けていた魔道具を外そうとした。
 けれど外れない。

「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「魔力が吸われてる!」
「なっ、暴走か⁉」
「違う! そんなにたくさんの魔力を使おうとなんてないのに、いきなり。いつもとなんか違う感じがするし。それにこれが外れない……!」
「まじかよ! くそっ!」

 ルシアも指輪を掴み、力の限り引き抜こうとした。それでもやはりはずれはしない。

「い、痛い痛い痛い‼」
「我慢してくれ!」

 リーシャとルシアが大騒ぎをし始めると、池の底からスコッチが顔を出した。

「どうしたんだい? 闇の魔力なんか使って」
「スコッチ! あんたから貰った指輪がリーシャの指から外れないんだ!」
「? それがどう関係してるんだい?」

 家の中からはノアとエリアルが出てきた。

「何の騒ぎだ」

 騒々しすぎたのか、ノアの眉間には皺が寄っている。
 けれど今はノアの機嫌伺いどころではない。

「闇の魔力をこの指輪に流したら突然魔力を吸い取られ始めたみたいで、外そうとしてるけど外れないの!」

 リーシャの指から外そうとしている最中、カルディスの指輪の宝石部分から黒い光が放たれ始めた。
 中の獣が外へ出てこようとしているのかもしれない。
 現れた光は地面の一カ所に集まっていき、それは大きい、大きい形をかたどっていく。

「ちょ、ちょっと待って。何この大きさ」

 空を仰ぐように見上げなければその顔は見えないほどの巨大な生物が姿を現した。
 だが果たしてそれを生物と呼んでいいものなのだろうか。
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