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魔道具技師への道

第一歩(1)

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 ルシアが集中して作業をし始め、どれくらい時間が経っただろう。
 リーシャが読んでいた厚みのある本は、終盤に差し掛かっていた。

「できたぁ‼」

 ルシアが突然大声を上げた。声量は、他で作業をしている魔道具技師の手元が狂っていないか心配になるほどの大きさだ。
 そんな声を出して、この工房を取りまとめているディフェルドが怒らないわけがなかった。

「うっせぇぞ、ルシア!」
「わ、わるい。いい感じにできたんじゃねぇかって思ったら、ついテンション上がっちまって……なあ、おっさん。これ確認してくれねぇか?」
「ん? ああ、わかった」

 いつの間にかルシアは木版ではなく別の物に魔力刻印を彫っていたようだ。
 ディフェルドは差し出された指輪を受け取ると、例の道具で光を当て、出来具合を確認し始めた。
 いろんな角度から光を当て、念入りに確認を続ける。
 ルシアは緊張した面持ちでディフェルドからの評価を待っていた。
 リーシャも視線は本に向けながら、自分事のように結果が出るのを待った。たった数十秒が異様に長く感じられる。
 緊張で待つのがつらくなってきた頃、指輪に向けて放たれていた光が消えた。そしてディフェルドの口角がニッと上がった。

「よく頑張ったな。初日にしては上出来すぎるほど上出来だ」
「よっしゃあ‼」

 ルシアは拳をぎゅっと握りしめ、喜びを嚙みしめた。
 まさかルシアが1日で魔道具を完成させることができるとは。ディフェルドもリーシャも良い意味で予想を裏切られてしまった。
 ルシア自身も無理かもしれないと途中、何度も焦りを見せていた。
 その度にディフェルドから扱かれ、やっと完成に辿り着いた。嬉しさでテンションが上がってしまう気持ちは共感できた。

(さてさて、実際に魔法を使った時の具合はどうかなぁ。上手く発動できればいいんだけど)

 リーシャが本を読んでいるふりを続けながら様子を窺っていると、視界に近づいて来る影が入ってきた。リーシャは彼の方へ顔を向けた。

「ルシア? どうしたの?」

 そこには険しい表情をしたルシアが前に立っていた。まるで今から戦いに向かうような、そんな顔だ。
 ルシアは片膝を立てて床に座ると、椅子に座っているリーシャに視線を合わせた。
 まるで小説に出てくるお姫様と騎士のようだと、ときめいてしまったのは秘密だ。

「あの、さ、リーシャ。よかったら、これ、試してみてくれねぇか?」
「試す? ああ、そういうことね。いいよ」

 指輪の形をした回復の魔道具がリーシャの手に渡された。
 そして受け取った直後に気がついた。試すと言ってもこれは回復の魔道具。ケガをしている人がいなければ試しようがない。
 そう思ったのも束の間、ルシアの手を見てその問題は解決へと導かれた。

「ねぇルシア。手、そのまま出してて」
「手? なんで?」
「いいから!」

 リーシャは無理やりルシアの手を掴んだ。
 その手にはこの魔道具を作っているときにできた傷がいくつもあった。リーシャはさっそくルシアの作った魔道具の出来具合を試してみることにした。
 魔力を込めると回復の魔道具から光が現れ、ルシアの手を包み込んだ。
 魔道具はきちんと発動しているようだ。魔力を流し込んでいる時に抵抗も感じられない。立派に回復の魔道具として機能を果たしている。
 程なくしてルシアの手から痛々しい傷は跡形も残らず消え去った。

「おおー!」

 ルシアは感嘆の声を上げ、自身の手をしげしげと眺めはじめた。
 そんなルシアの嬉しそうな顔に、リーシャの顔は緩んでいた。

「うん。大丈夫みたいだね」

 悦に浸るルシアにリーシャの声は聞こえていなようだ
 それに、魔道具の仕上がり具合を喜んでいるのは当の本人だけではなかった。

「いやぁ、簡単な図案とはいえ、まさかほんとに1日足らずで完成させちまうとはなぁ」

 ディフェルドは喜ぶルシアの姿をまるで自分事のように誇らしげに眺めていた。
 1日足らずでというのはよほど良い結果なのだろう。リーシャはディフェルドに尋ねた。

「始めての魔道具作りって、完成させるのにどれくらいかかるものなんですか?」
「そうだなぁ。早い連中だと1週間ってところだろうなぁ。図案を描けるようになるまでに1日か2日。魔力がコントロールできるようになるまで2、3日。んで、実際に彫り始めて1日、2日でどうにか使える物が完成ってとこか?」
「1番早かった人はどれくらいかかったんですか?」
「俺が見てきた中で最短は3日だな。ちなみに俺は丸々1週間。ルシアの場合はこいつ自身指先が器用なのと、魔力のコントロールがあらかじめある程度出来てたのが大きかったんだろうな。にしても早すぎる」
「そうですか」

 魔道具無しで魔法を使うことの上達はほぼ諦め状態だったけれど、特訓自体は無駄にはならなかったらしい。
 リーシャはルシアの役に立てていたことを知り、嬉しく思った。
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