魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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魔道具技師への道

それぞれの苦悩(2)

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 扉が閉まる音がした直後ルシアは頭を抱え、苦悩の声を上げながら床へ座り込んだ。

「ああー……やっちまったぁ……完全に嫌われたかも」
「んー……、あれは嫌われてはないんじゃないか?」

 ディフェルドの言葉は気休めにしかならならず、ルシアは釈然としない顔で見上げた。

「いや、ぜったい嫌われただろ、あれは。あんなに怒ってたんだぞ?」

 ルシアの頭の中に、涙を目元に溜めた先ほどのリーシャの顔が浮かんだ。
 ノアがリーシャの唇を奪った時の事はわからない。けれど、少なくともエリアルがリーシャへ口づけを迫ったときはこうして泣くようなことはなかった。
 もしかしたら、自分だけ拒絶されているのではないか。
 そんな不安がルシアの中で募り、胸がチクリと痛んだ。

「あれは怒ってたというよりも、ただ恥ずかしくてああいう態度をとったんじゃないか? 本当に嫌で怒ってたならあれくらいじゃすまないと思うぞ。今頃、思いっきり顔を引っ叩かれて真っ赤になってたはずだな」

 ディフェルドは冗談めかしてニッと笑い、自分の頬を軽く叩いてみせた。

「そうか?」
「ああ。まぁでも、見せつけるためにあれはねぇな」
「……それは……反省してる」

 ルシア自身もあんな形でリーシャの唇を奪うことになってしまったことにやるせなさを感じていた。
 そんなルシアの背中をディフェルドは励ますように軽く叩いた。

「後でもう一回きちんと謝っとけよ。こじれる前に、な?」
「わかった」
「それと、反省は口だけじゃなくて態度で示すのが効果的だぞ」
「態度……?」




 リーシャはルシアたちのいた部屋を出ると、一目散にトイレへと向かった。
 トイレの洗面台に立つと、水でバシャバシャと熱を帯びていた顔を洗った。洗ったというより冷やしたという方が適切かもしれない。
 熱が引いて気持ちが落ち着くと、ズボンのポケットへ手を入れた。

(あ、拭く物がないや……)

 リーシャは両手を頬に当てると風魔法を使い、顔に着いた雫を吹き落とした。そして大きく息を吐いた。

「これでよし」

 真っすぐ鏡を見つめるとそこに映る自身と目が合った。リーシャは目の下に指先を当てた。

(赤くなっちゃってるよ……)

 涙はひいたものの、泣いていたここがバレてしまう程度には目元に違和感があった。
 リーシャは鏡に背を向けると天井を見上げ、目を閉じた。
 魔法で不安定に揺れる水の塊を作ると、未だに熱をうっすらと帯びている瞼の上に置いた。

(まさかルシアにあんなキスされるなんて……)

 思い出すとのたうち回りたいくらいの衝動が襲い掛かってくる。
 場所が場所だったため、リーシャは邪念を払うように手を宙でバタバタさせて気持ちをごまかした。
 大きな動きをしたことで目の上に置いていた水が輪郭の外へと落ちた。

「わっ!」

 床に落ちて弾け飛んだ雫が足を濡らした。その冷たさにリーシャの冷静さは呼び戻された。

(ストロネシアさんたちもいたし、びっくりして何が何だかわからなかったけど……ノアたちにされたときもそうだった……嫌じゃない。やっぱり3人の事、そういう意味で好きだってこと……なのかな?)

 ルシアがあからさまなスティアナの好意にさらされているのを見ていると落ち着かなかった。
 好意の意味が少し違うけれど、魔法学校に滞在していた時、エリアルがステファニーに懐かれている姿を見てモヤっとした。
 つまりはそういう事なのだろう。
 難しく考えることを止め、認めてしまえばストンと腑に落ちたような気がした。同時に顔には熱が集まってくる。

(もし、3人が思うようにつがいっていう関係になるとしても、誰となんて……3人はそれでいいって言うかもしれないけど……)

 リーシャの価値観ではそれを認めてしまうことは出来なかった。かといって1人を選べるほど彼らに対する好意に差があるわけでもない。
 3人それぞれに好ましいと思うところがあるし、直してほしいと思うところも多々ある。
 リーシャは自分の中で答えが定まるまでノアたち兄弟には隠し通そうと心に決めると、ルシアが作業をしている部屋へと戻ることにした。
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