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魔道具技師への道
好きな人(3)
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「あの~」
リーシャが申し訳なさそうに声をかけるけれど、2人の声にかき消され、届く気配はなかった。
(え~っと……2人とも、ルシアと結婚とかそんな話をしてるけど……スティアナさんってルシアとまともに話すの始めてなんだよね? そもそも、ルシアは私のことが……)
恐る恐るルシアの顔へと視線を向けると、まぁそうなるよね、と感じさせるような顔をしていた。
目の前で、本人をそっちのけに恋人だの結婚だのといった話が飛び交っているのが不快で仕方ないと言わんばかりの表情。偽りの笑顔は剥がれ落ち、ただ冷たい視線で2人、主にスティアナの事を見ていた。
ついには黙って聞いているのにも堪えられなくなったようだ。ルシアの不機嫌そうな低い声が部屋に響いた。
「なぁ、勝手に話を進めてんじゃねぇよ。俺さ、アンタのこと初めて知ったんだけど。そもそも、いつ俺がアンタと番うって言った?」
「え? 番うって?」
人間の世界では聞き慣れない単語に、スティアナは首を傾げた。
会話が成立しないもどかしさも加わり、ルシアの苛立ちは増す一方だった。
「人間の言うところの結婚の事……はぁ……俺さ、リーシャに迷惑かけたくねぇし、ろくに戦えない人間といざこざを起してまた城に引っ張り出されたたくねぇから、何されようが言われようが大抵のことは我慢してるんだ。けどさ、さすがにもう限界。アンタ鬱陶し過ぎる」
そのトゲのある言葉に、スティアナどころかリーシャまでもが目を見開いた。
以前、リーシャの家に訪れてきたラディウスに対してもかなり嫌悪感を抱いていたが、今回はその時とはまた別の嫌悪感を抱いているような感じだ。
普段見た事のない態度が信じられないようで、スティアナは戸惑い、フラフラとルシアの元へと近づこうとしていた。
「どうしたの? さっきまであんなに楽しそうに笑って話してくれてた……」
「我慢してるって言ったろ? 普段は雌連中が纏わりついてきても、断ればそれ以上深入りしようとしてくるような奴はいないから、それなりに相手して終わりって感じなんだけどな。俺が竜だって知っても、未だに親切心で声かけてくれるやつもいるから感謝してる。アンタもさ、度を越してなかったら普通にいいやつだなぁって感じで済んでたんだよ。結構あしらったつもりだったんだけど、しつこい。魔道具を作るコツとか教えてもらわねぇといけねぇから大人しくされるがままになってたけど、もう耐えらんねぇ。はっきり言わせてもらう。俺、アンタの事嫌い」
眉間に皺を寄せ淡々と語るルシアの姿を見て、スティアナはただたじろぐことしかできなくなっていた。街で出会った時の普段の様子のギャップを受け入れられないようだ。
けれどそれでもまだ諦めきれないのか、スティアナは意を決したようにルシアに話しかけた。
「あの……私たち今日初めて話をしたじゃない? 話をしてたら……」
「わるいけど、リーシャ以外の雌に興味ないから」
膝から崩れ落ちそうなスティアナの言葉をルシアは途中で遮り、一刀両断してしまった。
それでもスティアナはどうにかルシアとの繋がりを保とうと、必死に考えを巡らせているようだ。
「けど……」
「はぁ。諦めわるいなぁ……リーシャ」
ルシアはリーシャに向かって歩みを進めた。
真剣な顔つきでずんずんと近づいて来るルシアの圧に、リーシャはよろめくように1歩後方へと下がった。
「な、なに? ……わっ!」
突然両肩を掴まれたかと思うと、荒々しく唇を奪われた。
「んん! んんんんん‼」
(ちょっと! 放してよ‼)
ルシアの固い胸を力いっぱい押し返して抗議するけれど、口内を這いまわる舌の動きは止まらない。
次第に体からは力が抜けていった。
ノアともエリアルとも違う口づけ。
その迷いのない口づけはある意味、リーシャ秘蔵の恋愛関係の書物を熟読していたからこその賜物なのかもしれない。
解放される頃には、リーシャは自分の足では体を支えられなくなっていた。
甘い余韻の中、それでもどうにか立っていられたのはルシアに腰を支えられていたからだった。
「俺の気持ちは見ての通りだ。そういうわけだからさ、これからは普通に魔道具技師仲間として仲良くしてくれよ。そしたらアンタの事嫌いだとは思わなくなるかもしれないから」
「……」
好意を寄せていた相手に他の女性を求める姿を見せつけられたスティアナは放心状態になっていた。
ルシアとの関係を否定し続けていたディフェルドもさすがに娘が可哀想になったようで、優しい声音でスティアナに話しかけた。
「ティア……後は俺が面倒みるからお前は別のことをしてろ、な?」
返事はなく、スティアナの直下の床に1滴の雫が零れ落ちた。
ディフェルドはそんなスティアナの頭を撫で、もう1度優しく名前を呼んだ。
「ティア?」
「……はい」
スティアナは目をこすりながら出入り口の方へフラフラと歩いて行った。
その姿を見たルシアもさすがに言いすぎたかと思ったのか、憐みの視線を向けていた。
リーシャが申し訳なさそうに声をかけるけれど、2人の声にかき消され、届く気配はなかった。
(え~っと……2人とも、ルシアと結婚とかそんな話をしてるけど……スティアナさんってルシアとまともに話すの始めてなんだよね? そもそも、ルシアは私のことが……)
恐る恐るルシアの顔へと視線を向けると、まぁそうなるよね、と感じさせるような顔をしていた。
目の前で、本人をそっちのけに恋人だの結婚だのといった話が飛び交っているのが不快で仕方ないと言わんばかりの表情。偽りの笑顔は剥がれ落ち、ただ冷たい視線で2人、主にスティアナの事を見ていた。
ついには黙って聞いているのにも堪えられなくなったようだ。ルシアの不機嫌そうな低い声が部屋に響いた。
「なぁ、勝手に話を進めてんじゃねぇよ。俺さ、アンタのこと初めて知ったんだけど。そもそも、いつ俺がアンタと番うって言った?」
「え? 番うって?」
人間の世界では聞き慣れない単語に、スティアナは首を傾げた。
会話が成立しないもどかしさも加わり、ルシアの苛立ちは増す一方だった。
「人間の言うところの結婚の事……はぁ……俺さ、リーシャに迷惑かけたくねぇし、ろくに戦えない人間といざこざを起してまた城に引っ張り出されたたくねぇから、何されようが言われようが大抵のことは我慢してるんだ。けどさ、さすがにもう限界。アンタ鬱陶し過ぎる」
そのトゲのある言葉に、スティアナどころかリーシャまでもが目を見開いた。
以前、リーシャの家に訪れてきたラディウスに対してもかなり嫌悪感を抱いていたが、今回はその時とはまた別の嫌悪感を抱いているような感じだ。
普段見た事のない態度が信じられないようで、スティアナは戸惑い、フラフラとルシアの元へと近づこうとしていた。
「どうしたの? さっきまであんなに楽しそうに笑って話してくれてた……」
「我慢してるって言ったろ? 普段は雌連中が纏わりついてきても、断ればそれ以上深入りしようとしてくるような奴はいないから、それなりに相手して終わりって感じなんだけどな。俺が竜だって知っても、未だに親切心で声かけてくれるやつもいるから感謝してる。アンタもさ、度を越してなかったら普通にいいやつだなぁって感じで済んでたんだよ。結構あしらったつもりだったんだけど、しつこい。魔道具を作るコツとか教えてもらわねぇといけねぇから大人しくされるがままになってたけど、もう耐えらんねぇ。はっきり言わせてもらう。俺、アンタの事嫌い」
眉間に皺を寄せ淡々と語るルシアの姿を見て、スティアナはただたじろぐことしかできなくなっていた。街で出会った時の普段の様子のギャップを受け入れられないようだ。
けれどそれでもまだ諦めきれないのか、スティアナは意を決したようにルシアに話しかけた。
「あの……私たち今日初めて話をしたじゃない? 話をしてたら……」
「わるいけど、リーシャ以外の雌に興味ないから」
膝から崩れ落ちそうなスティアナの言葉をルシアは途中で遮り、一刀両断してしまった。
それでもスティアナはどうにかルシアとの繋がりを保とうと、必死に考えを巡らせているようだ。
「けど……」
「はぁ。諦めわるいなぁ……リーシャ」
ルシアはリーシャに向かって歩みを進めた。
真剣な顔つきでずんずんと近づいて来るルシアの圧に、リーシャはよろめくように1歩後方へと下がった。
「な、なに? ……わっ!」
突然両肩を掴まれたかと思うと、荒々しく唇を奪われた。
「んん! んんんんん‼」
(ちょっと! 放してよ‼)
ルシアの固い胸を力いっぱい押し返して抗議するけれど、口内を這いまわる舌の動きは止まらない。
次第に体からは力が抜けていった。
ノアともエリアルとも違う口づけ。
その迷いのない口づけはある意味、リーシャ秘蔵の恋愛関係の書物を熟読していたからこその賜物なのかもしれない。
解放される頃には、リーシャは自分の足では体を支えられなくなっていた。
甘い余韻の中、それでもどうにか立っていられたのはルシアに腰を支えられていたからだった。
「俺の気持ちは見ての通りだ。そういうわけだからさ、これからは普通に魔道具技師仲間として仲良くしてくれよ。そしたらアンタの事嫌いだとは思わなくなるかもしれないから」
「……」
好意を寄せていた相手に他の女性を求める姿を見せつけられたスティアナは放心状態になっていた。
ルシアとの関係を否定し続けていたディフェルドもさすがに娘が可哀想になったようで、優しい声音でスティアナに話しかけた。
「ティア……後は俺が面倒みるからお前は別のことをしてろ、な?」
返事はなく、スティアナの直下の床に1滴の雫が零れ落ちた。
ディフェルドはそんなスティアナの頭を撫で、もう1度優しく名前を呼んだ。
「ティア?」
「……はい」
スティアナは目をこすりながら出入り口の方へフラフラと歩いて行った。
その姿を見たルシアもさすがに言いすぎたかと思ったのか、憐みの視線を向けていた。
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