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魔道具技師への道
誇り(2)
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意外な評価に驚いていると、ディフェルドは何か考えるように口元に手を当てた。
「なぁ、魔力の扱いはどうだ? 何かで試させたことはないのか?」
「魔道具無しでの魔法の発動の練習をさせたことはありますけど、成功率は低かったですよ?」
「へぇ……コントロールに難ありなのか。だとすると、今日中に作り上げるのは、まあ、無理だろうな」
口では無理だと言っていたものの、ディフェルドはルシアが実際に刻印を彫りはじめるのを楽しみにしている様子だった。成功率は低いとはいえ、魔道具を使わない魔法の発動を成功させた事があるとわかり、期待の新人を見つけたと思っているのかもしれない。そう思ってもらえているのなら、それはリーシャにとっても自分事のように嬉しい事だった。
まだ竜の兄弟の事を敬遠している人間が多い今、ルシアを個として認識してもらえているのだ。ルシアの実力をきちんと評価してもらえていると胸を熱くしていたリーシャは、安心した柔らかい笑みを浮かべた。
「今日中は無理でも、いつか魔道具技師として働けるくらいに上達してくれたらいいなって思ってます」
「そうだな。けどまぁ、そりゃ本人のやる気次第だからな。嬢ちゃんの話聞いた限りセンスがねえなんてことはなさそうだし、途中でくじけなけりゃ、かなりいい線いくと思うぞ」
ディフェルドは初対面の時からは考えられないほど良い顔で笑っていた。リーシャとルシアへの不信感は完全に払拭されたのは間違いなさそうだ。
こんな人がルシアの師匠になってくれればいいのにとリーシャは密かに心の中で思ったのだった。
「ありがとうございます。きっとルシアもそれを聞いたら喜ぶと思います。あの、見学させていただいてからずっと思ってたんですけど、魔力を使いながらあんな難しそうな図案とほぼ同じものを彫れるなんて、ここにいる皆さんはすごいですね。私は魔法を使うのは得意ですけど、魔力を操りながら刻印を彫るなんて繊細な事は出来る気がしないですよ」
社交辞令も兼ねずっと思っていた本心を告げると、ディフェルドは目を輝かせながらズンズンとリーシャへと近づき、両肩を掴んだ。
「わかってくれるか‼」
「ふぇっ⁉ 何ですか⁉」
「おっと、すまん」
ディフェルドは両肩の拘束を解いた。けれど距離は変えず、そのまま続けた。
「理解があってくれて嬉しいぞ。なにせ、『魔法を使うのと魔力刻印を彫ることの何が違うんだ?』って言ってくる奴も多いからな。まったく。ただ魔法だけを使うのと魔力を込めながらあの細かい模様を彫り進めることを一緒にするんじゃねぇってんだよ」
「そ、そうですよね」
リーシャは距離の近さにたじろぎながら言った。
ただ、こうして距離が近いのが気にならないほどに興奮気味になるのも、なんとなくわかるような気がした。
「なぁ、魔力の扱いはどうだ? 何かで試させたことはないのか?」
「魔道具無しでの魔法の発動の練習をさせたことはありますけど、成功率は低かったですよ?」
「へぇ……コントロールに難ありなのか。だとすると、今日中に作り上げるのは、まあ、無理だろうな」
口では無理だと言っていたものの、ディフェルドはルシアが実際に刻印を彫りはじめるのを楽しみにしている様子だった。成功率は低いとはいえ、魔道具を使わない魔法の発動を成功させた事があるとわかり、期待の新人を見つけたと思っているのかもしれない。そう思ってもらえているのなら、それはリーシャにとっても自分事のように嬉しい事だった。
まだ竜の兄弟の事を敬遠している人間が多い今、ルシアを個として認識してもらえているのだ。ルシアの実力をきちんと評価してもらえていると胸を熱くしていたリーシャは、安心した柔らかい笑みを浮かべた。
「今日中は無理でも、いつか魔道具技師として働けるくらいに上達してくれたらいいなって思ってます」
「そうだな。けどまぁ、そりゃ本人のやる気次第だからな。嬢ちゃんの話聞いた限りセンスがねえなんてことはなさそうだし、途中でくじけなけりゃ、かなりいい線いくと思うぞ」
ディフェルドは初対面の時からは考えられないほど良い顔で笑っていた。リーシャとルシアへの不信感は完全に払拭されたのは間違いなさそうだ。
こんな人がルシアの師匠になってくれればいいのにとリーシャは密かに心の中で思ったのだった。
「ありがとうございます。きっとルシアもそれを聞いたら喜ぶと思います。あの、見学させていただいてからずっと思ってたんですけど、魔力を使いながらあんな難しそうな図案とほぼ同じものを彫れるなんて、ここにいる皆さんはすごいですね。私は魔法を使うのは得意ですけど、魔力を操りながら刻印を彫るなんて繊細な事は出来る気がしないですよ」
社交辞令も兼ねずっと思っていた本心を告げると、ディフェルドは目を輝かせながらズンズンとリーシャへと近づき、両肩を掴んだ。
「わかってくれるか‼」
「ふぇっ⁉ 何ですか⁉」
「おっと、すまん」
ディフェルドは両肩の拘束を解いた。けれど距離は変えず、そのまま続けた。
「理解があってくれて嬉しいぞ。なにせ、『魔法を使うのと魔力刻印を彫ることの何が違うんだ?』って言ってくる奴も多いからな。まったく。ただ魔法だけを使うのと魔力を込めながらあの細かい模様を彫り進めることを一緒にするんじゃねぇってんだよ」
「そ、そうですよね」
リーシャは距離の近さにたじろぎながら言った。
ただ、こうして距離が近いのが気にならないほどに興奮気味になるのも、なんとなくわかるような気がした。
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