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魔道具技師への道

謎の魔力刻印(2)

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「で? 要件は何だったんだ?」
「えーっとですね、さっきまであの部屋に置いてあった本を読ませていただいてたんですが、ちょっと気になる部分を見つけてスティアナさんに聞いたんです。けど、わからないと言われて。ストロネシアさんなら知ってるかもと言われたのでお聞きしに来たんです」
「あいつがわからないってことは相当だな。けど、あの部屋にそんな難しい本置いてたか? どれだ?」
「本、というか覚え書きみたいなんですけど」

 リーシャがその本を見せるとディフェルドは目を見開いた。

「それ! あんなとこにあったのかよ。去年の夏ごろから見かけなくなって探してたんだ」
「これ、ストロネシアさんのなんですか?」
「ああそうだ。大体の刻印は覚えてるんだが、なにせ種類が膨大にあるからな。思い出せない時のために簡略化したやつをこれに書き込んでたのさ。で、これのどこがわからねぇんだ?」

 覚え書きを受け取ったディフェルドは、難しいことを書いていたか確認するようにパラパラとページをめくっていた。それらしい箇所が思い当たらないようで、首をかしげている。

「難しくてわからないというわけじゃないんです。ただ、最後の方にある文字が塗りつぶされてるページが気になって」
「塗りつぶしてる? ああ、これか」

 そのページを開いたディフェルドは眉をしかめた。
 リーシャはその図案はディフェルドが自分で書き留めたはずのものなのに、何故そんな表情をするのか不思議だった。もしかするとあまり出回っていない図案なのかもしれない。

「そこに書かれている図案って、一般的に使われているものじゃないんですか?」

 リーシャが問うと、ディフェルドは難しい顔のまま首を小さく縦に振った。

「ああ。この刻印の入った魔道具は出回ってない。これはな、親父からこの工房受け継いだ時に教えられたものなんだ。いつの代かは知らないが、昔、図案を考えたからこれを彫った魔道具を作ってほしいと依頼されて、実際に作ったことがあるらしいんだ」
「ってことは、もともと公表されていたものじゃないんですね。いったいどんな魔道具だったんですか?」
「わからない」

 リーシャはディフェルドの答えに驚いた。
 商品として渡す品ならば、きちんと使えるか確認をするはずだ。代々続いている歴史のある工房が使えない物を商品として渡すわけがない。

「あの、発動の確認とかはしなかったんですか?」
「未知の刻印だったんだ。当然依頼主に必要な魔力やどんな効果の魔道具になる予定なのか聞きはしたらしいんだが、教えてはもらえなかったみたいだ。試しに火、水、風、土、雷の魔力を使ってみたが、どの魔力にも刻印は反応しなかった。一応図案自体は魔法を発動させることができるものだったみたいなんだが、出来上がった魔道具が本当に使えて、どんな能力でどれだけの力を発揮できる仕上がりだったのかはよくわからないのさ」
「そうなんですね……じゃあ、ここには何を書き込んでいたんですか? 他のページには魔道具の効果を書いてるみたいですけど」

 ディフェルドは、黒く塗りつぶされた箇所を指でなぞった。

「ここには俺なりに立てた仮説をメモとして書いておいたんだ。けど、立証する手立てがなくてな。本当にそうかもわからないか説を残しておくのが気に食わなくて、刻印の形だけ残して塗りつぶしたのさ」

 嫌な予感がし始めていたけれど、未知の魔法への探求心が勝ったリーシャは聞かずにはいられなかった。

「どんな仮説を立てたんですか?」

 ディフェルドは簡易的に描かれた謎の刻印の中心を指差した。

「この部分が属性に関係する部分だってことはわかるか?」
「はい。それぞれの属性ごとに固定された模様が書いてありますよね」
「そうだ。で、このよくわからない刻印のこの部分。よく見ると各属性の模様を組み合わせて使っているように見えないか?」
「あっ、ほんとだ」

 謎の刻印と各属性の中心部分を見比べていくと、言われた通りそれぞれの属性の図案の5分の1ずつがバランスを崩さないように繋ぎ合わされていた。

「はじめは全属性の合成魔法かと思ったんだ。けどな、同時に全属性の魔力を同時に作り出すことなんてできるやつがいるわけねぇだろうし、いたとしたら絶対に語り継がれてるはずだろ? それに仮にいたとしても、俺の周りにはそんな超ハイスペックな奴がいるわけもないから検証不可だったんだ」
「なるほど」

 合成魔法は異なる属性の魔力を決まった割合で組み合わせることで発動できる魔法だ。魔力の割合を変えることで発動する効果も異なってくる。必要とする属性が増えるほど難易度は上がる。
 おそらく上位の魔法使いであっても属性3つの合成魔法を使うのが限界といったところだろう。
 全属性の5種類を特定の割合でともなると、使える者はいない。そう考えるのが普通だ。
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