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魔道具技師への道
謎の魔力刻印(1)
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リーシャはスティアナに教えられた通り、部屋を出ると右に続く廊下を歩き始めた。
突き当りまではほんのわずかな時間。すぐにスティアナが言っていた部屋に辿り着いた。彼女が嘘をついていなければこの部屋にディフェルドがいるはずだ。
リーシャはその部屋の扉をトントンと軽く叩いた。
「誰だ」
中から男性の声が聞こえてきた。その声はディフェルドのもので間違いない。
「リーシャです。お伺いしたいことがあるのですけど、お時間いいでしょうか?」
「リーシャ? リーシャ……ああ、嬢ちゃんか。入りな」
「失礼します」
部屋の中心に立つディフェルドの傍には四角くて大きな白い物体が置いてあった。その周りには何か部品のようなものが散らばってる。どうやら仕事中だったようだ。
「あっ、すみません。お仕事中でしたよね。出直します」
「大丈夫だ。そんなに難しい作業じゃねぇし、急ぎのものでもないからな」
ディフェルドは手に持っていた道具を道具箱らしき箱の中へ仕舞った。
周りに転がっている部品はかなりの数だ。しかもほとんどの部品に魔力刻印が彫り込まれている。にもかかわらず、この部屋にいたのはディフェルド1人だけだった。
(手伝ってもらわないのかな? それともこの魔道具、ストロネシアさんしか彫れないような難しい図案が必要な物なのかな?)
リーシャは持ち込んだ疑問よりも目の前の魔道具の方に興味をそそられた。
「あの、それはどんな魔道具なんですか? 魔力刻印をかなり彫ってるみたいですけど、他の人に手伝ってもらえないような難しいものなんでしょうか?」
「いや、難しくはないな。これは新型の洗濯用魔道具でな、必要な刻印で難しい図案のものはない。だが、それぞれの部品の作用具合によって印の大きさを調整したり、どこに彫るかその都度決める必要があるんだ。1つ1つ様子見ながら順番にやってかないといけねぇから、人数集めても仕方ねえ。だから俺が全部やってるんだ」
「へぇ……床にある部品、見てもいいですか?」
「ああ、かまわない。触らないなら中も覗いてもいいぞ」
「! ありがとうございます!」
リーシャが嬉々として答えると、ディフェルドの表情が微笑ましいものを見ているかのように和らいだ。
「じゃあ、こっから覗いてみな」
ディフェルドに促され、リーシャは開いている箇所から中を覗き込んだ。
金属らしき箱に接続されているあらゆる部品に魔力刻印が彫られていた。これだけの数の部品に刻印を彫るのに、どれだけの時間を要したのだろう。
(こんなにたくさんの部品が魔力でどう動くのかな。気になる)
リーシャはわかる図案の刻印を見つけるたびに、その部品がどんな動きをするのか予想しながら観察を続けた。時間を忘れられるくらいに興味深い仕組みだった。
「で? 嬢ちゃんはこれを見に来たんじゃないだろ? なんか聞きたいことでもあってここに来たんじゃないのか?」
「あ、そうでした」
ディフェルドに言われてリーシャはハッとした。
彼の元を訪れた本来の目的を完全に忘れていた。
ディフェルドはそんなリーシャの好奇心旺盛な姿が微笑ましかったようで、柔らかに口角を上げた。
「肝心な方を忘れるくらい興味津々だったんだな」
「アハハ……」
リーシャは子供のように無我夢中で魔道具を観察する姿を見られたのが少し恥ずかしくて、うっすらと頬を染めた。
突き当りまではほんのわずかな時間。すぐにスティアナが言っていた部屋に辿り着いた。彼女が嘘をついていなければこの部屋にディフェルドがいるはずだ。
リーシャはその部屋の扉をトントンと軽く叩いた。
「誰だ」
中から男性の声が聞こえてきた。その声はディフェルドのもので間違いない。
「リーシャです。お伺いしたいことがあるのですけど、お時間いいでしょうか?」
「リーシャ? リーシャ……ああ、嬢ちゃんか。入りな」
「失礼します」
部屋の中心に立つディフェルドの傍には四角くて大きな白い物体が置いてあった。その周りには何か部品のようなものが散らばってる。どうやら仕事中だったようだ。
「あっ、すみません。お仕事中でしたよね。出直します」
「大丈夫だ。そんなに難しい作業じゃねぇし、急ぎのものでもないからな」
ディフェルドは手に持っていた道具を道具箱らしき箱の中へ仕舞った。
周りに転がっている部品はかなりの数だ。しかもほとんどの部品に魔力刻印が彫り込まれている。にもかかわらず、この部屋にいたのはディフェルド1人だけだった。
(手伝ってもらわないのかな? それともこの魔道具、ストロネシアさんしか彫れないような難しい図案が必要な物なのかな?)
リーシャは持ち込んだ疑問よりも目の前の魔道具の方に興味をそそられた。
「あの、それはどんな魔道具なんですか? 魔力刻印をかなり彫ってるみたいですけど、他の人に手伝ってもらえないような難しいものなんでしょうか?」
「いや、難しくはないな。これは新型の洗濯用魔道具でな、必要な刻印で難しい図案のものはない。だが、それぞれの部品の作用具合によって印の大きさを調整したり、どこに彫るかその都度決める必要があるんだ。1つ1つ様子見ながら順番にやってかないといけねぇから、人数集めても仕方ねえ。だから俺が全部やってるんだ」
「へぇ……床にある部品、見てもいいですか?」
「ああ、かまわない。触らないなら中も覗いてもいいぞ」
「! ありがとうございます!」
リーシャが嬉々として答えると、ディフェルドの表情が微笑ましいものを見ているかのように和らいだ。
「じゃあ、こっから覗いてみな」
ディフェルドに促され、リーシャは開いている箇所から中を覗き込んだ。
金属らしき箱に接続されているあらゆる部品に魔力刻印が彫られていた。これだけの数の部品に刻印を彫るのに、どれだけの時間を要したのだろう。
(こんなにたくさんの部品が魔力でどう動くのかな。気になる)
リーシャはわかる図案の刻印を見つけるたびに、その部品がどんな動きをするのか予想しながら観察を続けた。時間を忘れられるくらいに興味深い仕組みだった。
「で? 嬢ちゃんはこれを見に来たんじゃないだろ? なんか聞きたいことでもあってここに来たんじゃないのか?」
「あ、そうでした」
ディフェルドに言われてリーシャはハッとした。
彼の元を訪れた本来の目的を完全に忘れていた。
ディフェルドはそんなリーシャの好奇心旺盛な姿が微笑ましかったようで、柔らかに口角を上げた。
「肝心な方を忘れるくらい興味津々だったんだな」
「アハハ……」
リーシャは子供のように無我夢中で魔道具を観察する姿を見られたのが少し恥ずかしくて、うっすらと頬を染めた。
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