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魔道具技師への道

実践と恋敵(2)

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 ルシアの手によって紙の上に姿を現し始めた刻印と図録に書かれている図案を見比べると、さほど気になるようなズレは生じていない。
 もしかしたら1発で成功するのではないかと、リーシャが感じるほどの良い出来だ。
 しばらくするとルシアの手が止まった。

「できた! わりといい感じなんじゃね?」

 ルシアは刻印の書かれた紙を両手で掲げ、自信満々の笑みを浮かべた。
 リーシャが伏せた状態でルシアを見ていると視線がぶつかった。

「じゃっ、あとは魔力だな。リーシャ」

 刻印を描き上げた紙をリーシャに手渡そうと差し出した。
 ルシアとしては自分の実績をリーシャに体感して欲しかったのかもしれない。
 リーシャは自分でやればいいのにと思いながらも、差し出された紙に手を伸ばした。
 けれど紙はリーシャの手には届かず、横から伸びて来た別の手によって攫われてしまった。
 今、刻印の描かれた紙はスティアナの手に握られている。
 
「これくらい私がやってあげるわ」
「えっ……あ、じゃあ、頼むよ」
「任せて」

 始めは困った様子のルシアだったけれど、すぐにさわやかな笑顔に切り替わった。
 普段ルシアは女性からの熱い眼差しに気がつくと、いつも何も言わずに笑顔を返している。どこで学んだのか、それが波風立てずに済む穏便な方法なのだと言っていた。
 この数十分の間、ルシアはスティアナからの好意に気付いていて気づかないふりをしていたのか、気付いていなかったのかは定かではないけれど、彼女に対してもいつも通り、他の知り合いに対する態度と同じ態度で接していた。
 けれど露骨になりすぎたスティアナの好意をずいぶんと負担に感じていたようで、彼女からの視線が外れた途端ルシアはパッとしない表情を浮かべた。
 そんなルシアの表情に気がつく事のないスティアナは紙に魔力を流した。

 ビリビリビリッーー

 紙は音を立てて小さく千切れ、机の上に散ってしまった。
 どうやら紙に描かれた刻印は、魔力刻印としての役割を発揮できない仕上がりだったようだ。

「どこかズレていたみたいね。もう一度この紙に描いてみて」
「……わかった」

 新しい紙を渡され、ルシアは改めて図案を描こうと机と向き合った。するとルシアは眉間にうっすらと皺を寄せた。おそらくスティアナが先ほどよりも距離を詰めて座っているからだろう。
 ルシアは距離を取ろうとするけれど、スティアナはお構いなしに離され分だけの距離を詰めた。

(やっぱりこの人……ルシアのことが好き、なのかな?)

 練習に励むルシアの様子を眺めていると、少しだけ顔を上げたスティアナのジトッとした目と視線が合った。
 リーシャは思わずピクリと肩を震わせた。
 彼女はリーシャの動きに気がついていたはずなのに、眼中に無いとでもいうようにすぐに視線をルシアの手元に戻した。そして再び楽しそうな声でルシアに助言を与え始めた。
 そんなスティアナの態度に、さすがにリーシャもイラっとした。

(なによ。私がいつもルシアといるのが気に食わないのかもしれないけど、そんな露骨に嫌な態度取らなくてもいいじゃない!)

 2人の姿を見ていられなくなったリーシャは視線を逸らした。
 ふと視界の端に本棚が映り込んだ。
 魔道具研修歴、国宝認定魔道具一覧。読んだことのない様々なタイトルが目に入り、棚に手を伸ばしたくなった。
 話しかけたくはない。けれど他人の敷地内にある本を勝手に読むわけにもいかない。リーシャは仕方なしにスティアナに声をかけることにした。
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